(52)二―二とチロの早朝稽古。 秋の冷気が。。。 

富山県限定品種? 水島柿(甘柿)

おとんの家の柿が色づいてきた。おとん曰く、実家のある富山では有名な品種だ。ご当地の品種 ”水島(みずしま)”だそうだ。おとんのいなかにはいまもって普通に見られる。田んぼや畑の片隅に、そして庭先にも植えられて各家庭に必ず1本はあるという定番といったころか?おおきなもので樹高10~15mにも達する。樹齢100年以上。実は大きいもので軟式野球のボールくらいにもなる。甘柿、であるが、まだ実が固いころ樹上で冷気にさらされたり、日陰で実ったものは渋柿のままだ。しかし甘いものは、ゴマがたっぷりでに果肉はくろみがかっている。収穫して2日以内に食さないと熟しが早く食感が損なわれてしまうう。いわゆる日持ちがわるい。木の上ですこし柔らかくなるまで熟させて、食べる分だけ収穫する。全国に流通しないわけだ。おとんがもう何年か前に食した柿の種が、この上越のおとんの畑から芽を出してもう10年はたつ。その木がちょうど2年ほど前から実をつけるようになってきた。

二―二と影軍団の武闘隊長チロの早朝ケイコが始まった。やしろホテルからすこし離れた雑木が密集したところがあって、途中にぽっかり原っぱが10畳くらいあいて、そこがいつもの訓練場所となっている。この場所はどら猫事件簿ビギンズにも登場したが、二―二がサイコパス ブラッキーと初めて対峙した場所でもある。

二―二は師匠のチロからたくさん”技”を学んだ。殺人剣、技もそのひとつだ。悪との対峙は無法である。どんな手段であろう、勝たねばならない。複数の悪との同時に対峙した場合一撃で撃退が求められる。急所は?戦意喪失させるには?などなど。チロは二―二との訓練は、己の技量維持にもかかせない。今朝はチロは長短の木刀、二―二は木剣であるが普通の小さ刀(ちいさがたな)を用意した。二―二のそれは普通のものよりさらに短くしたものだ。今朝はチロは左手に長剣をもった。左利きを想定したものだ。

「や!ッ」「おッ!」と声を発し訓練が始まった。子弟の訓練は、試合そのもので、”ガッキーン””パシーン” ”パンパン”と達人同士しか出せない独特の音をだしながら、チロからは左手から特有の、するどく、十分に体重が載った”袈裟懸け”を見舞いながら、切っ先をたすぐに切り返し、そのまま二―二の左側の胴切りの連続技を繰り出した。チロの極意技の一つである。二―二は袈裟懸けを後8うしろ)にすっと飛んでかわし、連続の胴切りを間一髪、垂直にジャンプし、その体制から一気に降下しながらチロの頭部めがけ小さ刀(ちいさがたな)を振り降ろした。”メーンッ!””パシッ”と、チロも二―二の樫の小さ刀を払う。そして両者は”あうん”の呼吸でパットと離れ、再びそれぞれの型の構えに入った。いくつかの違った技を繰り出し1時間ほど続くのだ。ほかの仲間も集まってきた。影軍団は命がけだ。日々の訓練が大切だ。みな一様に、柔軟体操をしながら、二―二とチロの実戦さながらの訓練をみていて、ときには、「ほ~。。。」「ふ~。。。」「。。。ん~ゴクッ」と反応も様々である。チロ隊長を相手に実戦形式の練習など隊員だれしも経験がない。それを二―二が遣(や)っての退(の)けているのだ。

ようやく隊長と二―二の訓練が終わった。それぞれの隊員は気の合った仲間と、あるいは一人で木刀を素振りしたりしてめいめいのルーチンにしたがい、技くぉ繰り出したときのフォームを確認している。各自個性がある。体つきも”のっぽ”から”ちっちゃい”のもいる。チロの指導は格闘技の基本動作だけにとどめている。

「みなさんおはようございます。」澄んだ朝の空気に二―二の声が甲高く響くと、一同、手を体を止めて、「おはよう」「おはよう!」「。。。。」と無言で片手をあげる隊員もいる。二―二が一員に加わってから、朝の練習も真剣さが増してきたようだ。加わった当初は、”なんと愛くるしい娘よ!”と、独身のオス猫隊員など色めきたったが、二―二の果てしもない迫力の練習、訓練をみているうちに一変してきたのだ。悪党ヒョウ兄弟を一撃で仕留め、チロ隊長との互角の実践練習をみて、二―二の天才剣士ぶりはだれの目にも明らかだったのだ。

「おじさん ありがとうございました。あ~あ おなかすいた。」いったんおかんの家にもどって食事してから やしろホテルにむかうのが日課だ。チロは、「オ~ッ」といいながら「あとでホテルにいくからッ」と答え、二―二は「仕事? こないだトイレはきれいにしたんじゃなかった~?」 チロは肥やし集めを生業(なりわい)としている。そのことを言っているのだ。チロはすかさず、「なにね、太郎さんからの呼び出しなんだ。」「なんかあったかしら。。。」とちょっと首をかしげその場を去った。   次回

(51)太郎の知恵

ゲンゴローは太郎の言葉に少し勇気づけられた。気を取り直してソファに座りなおした。二―二が飲みものをもってきてくれた。「お! 気が付くね~」と、太郎からの”励まし”の手荒い応対をもう忘れたかのように、記者としてのプロの目に戻った。一呼吸ついたところで、太郎が、「ゲンちゃん!どっち追いかけてんの?」「????」。太郎が「ふ~ん。。。」とゲンゴローの戸惑いをみてとって、「だから、どっちの捜査の進展がないといっているの?」。ゲンゴローはしぶしぶ「ネタ的には”ゾッド社長の殺人事件”だし、、、もうひとつは中途半端感の”子猫らの失踪”は、て~と、なぜかその後、”尋ね人”もほとんどなくなってしまってよ~。ま、今はゾッド社長殺しだな~」と。太郎もうなずいて、「ま、ゲンちゃんの強みは、独自に取材し、ときには真相に近づくわよね?」「そうだよ。それが行き詰っているっつ~の。」すこしふてくされたゲンゴローを見て、「どうだろう?2つの事件の関連性は?」「え! そりゃまた?。。。太郎さんの勘?。。。かえ?」。

太郎は両方の事件の真相をほぼ知るから、どうおさめようか苦心していた。両方とも舞台は同じゾッドカンパニー社。子猫らの失踪のほうは現場を押さえ”失踪した子猫”らの救出を秘密裡で行った。影軍団の存在は影のままだ。一方、世間の目は、ゾッド社長殺害事件にあるから、Catタイムス社でも世間の関心に力をいれるのは当然である。しかしこちらは捜査の進展を待たねばならない。ゾッド社長殺害犯は二―二やチロ隊長が”仕留めた”ヒョウ柄3”兄弟妹”(きょうだい)に間違いがないであろう。くすねてきたであろう大金は太郎がちゃっかり”預かっている”。というのもこれだけの大金を公にするには影軍団の存在を疑わさせる危険もともなうから、これだけは”絶対”避けたい。できれば、この大金そのものがなかったことになればよいのだ。太郎も捜査の進展具合が気になるが一向に進んでいないようだ。

太郎は、「捜査陣の最近の動きは?」「そりゃま、俺だって連日警察署につめて、警察の動きはちっとヮ掴(つか)んでいるよ!。。それである時、記事原稿を書いたんだけど、デスクから止められちゃってね。。。。。”この場合は憶測で書いちゃいかん!”と言うのさ。俺もそれくらいわかるワさ。なんせ相手は大物中の大物。上越選出の国会議員、”XX”党の金庫番とも言われる厚生省の”一郎”事務次官だもんな」。太郎は「で、どうしたの?その何某(なにがし)議員」「ゾッド社長が一郎先生に多額の献金をしている形跡があったようなんだけれど、事件の担当警部がさ、目くばせ”言ってくれた”のさ。”事情を聞くだけだ、追いかけてきたら。。。。と言っていたようなのさ。それでおいらも追いかけてそれでがその先生が事情聴取を受けたとわかったのさ。。。しかしね、その後 その警部も一切だんまりでね。」太郎は考え込みながら、「ふ~ん。そのほかに変わったことは?なんでもいいわ」ゲンゴローは考え込んで「う~ん。。。 そういえば、殺害事件のあと陣頭指揮をとるべき警察署署長が異動になったね。。。陣頭指揮をとると思われた警察署署長がね~。。。 異動には早すぎるし突然だもんな。な~んも発表もないし。ま、個人的事情とやらと噂されて、それっきりで、それと あ~直江津税関所長もそれから1日置いてね、異動になったし。。。。。」しばらく考え込んでいたゲンゴローは大きな声で「あッ!」。と。ロビーにいた客らも、接客していた二―二もゲンゴローのほうを向いて”何事か?”といぶかった。太郎も「おかしいわね。。。」とゲンゴロウにウィンクしてみせた。ゲンゴローはすぐに立ち上がり、「すまない、用事思い出した。失礼するよ!」とよれよれのコートをもって立ち去ろうとした。太郎はせわしなく立ち上がったゲンゴローに「ゲンちゃん。あたしからの情報もあるから。。。」と言う間に、ゲンゴローはもう玄関に向かっていた。太郎は、「は~ッ あいかわらずだわね。」。二―二もあわてて席を立ったゲンゴローをみて太郎のところにきて「おじさん、なんか元気いっぱいになっちゃって。。。」、と。しかし太郎は「また来るはずよ!」。

やしろホテル広場

太郎は二―二に向かって「相談あるの」

太郎は二―二に 雪之丞から伝えられたことを話した。それは、雪之丞一座が、やしろホテルの広場で、1日限りの公演をしたいというものであった。時期は10月のおわりから11月のはじめ。あと3週間もないのだ。二―二の出演も切に望まれているということも伝えた。

二―二は 最初戸惑っていたが、「太郎さん、あたしそんな人に見せれるほどの特技はないんだけど~」と。太郎は、「自分では気がつかないこともあるのよ。ま、二―二は二―二のままでいいからね。”振り付けとおりに”といっても無理だから。あたしが一番知っているから!」。もう母がさとすような口ぶりである。「そう、そうだよね。。。。。。」とようやく得心したのか 二―二が続けた「わかった。」と。

次回

(50)太郎の知恵。。。そのまえに

雪之丞

太郎はそのころ、ひとりで雪之丞を訪ねた。雪之丞は11月からの全国ツアーの準備に忙殺されていた。まだツアーまで1か月半ほどあるが、演出家、スタッフ、少し名の通った役者らとの演技の打ち合わせしていたのだ。太郎はしばらく待っているあいだ、若手の練習をみていた。前に来た時も感じていたのだが、古びた看板、少々、”がた”がきた練習場の壁や床、いや建物が古くなっていてトイレ、水回りも古いままだ。雪之丞一座は、大都市での定期公演や、年に数回程度、地方公演もこなすので、それなりの収入もあるが、それらは、必要経費、役者、スタッフらのギャラに消え、さらには若手育成のために力をそそいでいるから施設更新とはなかなかいかないようだ。人気の座ではあるが、ガードマンなどはおらず雑用をこなす老夫婦が住み込みでいるだけだ。座の公式サイトには、公演日時、場所、演目、スターのプロフィールのみを載せるだけでつつましいくらいで、ここがあの”目”で演技する大スター雪之丞の”原点”とは到底思いもよらない。

「お待たせしました。申し訳ありませんね。今日はなにか。。。?」。太郎はにこっと笑って、じっと座長の目をみて、「雪之丞さんには過日お世話になりました。これ、スタッフの方々と、召し上がってくださいな。」と持参した茶菓子箱を納めた。「これはこれは、、、、」と言いながら雪之丞は”太郎が別の目的で一座を訪問したこと”を気にかけ、太郎は太郎で ”あら いやだ! すっぴんもいけるわね、、、”と少し顔を赤らめた。

太郎がさっそくきりだした。「。。。。。。。」。雪之丞は「???・・・」「。。。。。。。」「・・・・・????」「。。。。。。。。」と何回か繰り返され ついに雪之丞が折れ、「わかりました」と。(説:ここのところの会話の内容は次作「③どら猫事件簿事件簿」であきらかに!)

オシャム先生

太郎は帰り道、オシャム先生の病院に立ち寄りした。病院は総合病院で、ここ上越地域のなかでも結構大きい。専門は精神科医で、心の病を持つ患者に対し、”音楽・歌”を治療の一環としている。病院の受付の片隅にステージがある。ここでオシャム先生自らも歌うこともあれば、スタッフ、患者らの合唱も定期的に行われていて、太郎が訪問したときも、ちょうどオシャム先生のバリトンの美声が響いていた。病院の受付ロビーは他の患者や家族らで通路までいっぱいで、しかし皆が皆、静かに聞き入って、なかにはハンカチで涙をぬぐったり、顔を上に向けたまま無言でいる患者も見受けられた。太郎も入り口のところで、オシャム先生の美声に聞き入った。演目は、カーペンターズの「Yesterday once more」(昨日をもう一度)だ。

♪/////~~~ Just like before. It’s yesterday once more ///(前とまったく同じように昨日をもう一度)

オシャム先生の歌が終わって、静寂につつまれた。それぞれに感慨ふかそうだ。そしてひとりふたりと連れだってロビーを離れていった。

太郎は オシャム先生に声をかけた。実は失踪した子猫らを救い出したあと、心のケアをおシャム先生にお願いしていたのだ。

「先生!」。自然と、顔がほてってくる。オシャム先生は太郎より少し若く独身で長身でハンサムだ。太郎のずん胴とは好対照だが、太郎はオシャム先生を初めて見たときからひそかに思慕を募らせていた。呼び止められて振り返ったオシャム先生は甘いマスクを太郎にむけ、「おや 太郎さん。今日はまた?」。甘いマスクに腹に響くバリトンの美声だ。太郎は一瞬たじろいで、ちょっとのあいだ言葉を返せないでいたが、オシャム先生から「こないだのワケアリの子供たちのことですよね。。。?」。太郎はもじもじしながら下を向いて小さな声で「え~」と。オシャム先生は、急にしおらしくなった太郎をみてか、「ここではなんですから」と院長室に向かった。

「あ~ オシャム先生にはお世話になりっぱなしだわ~ ・・・」。太郎は”やしろホテル”に到着するまで、なんどもなんども思い出してはため息をついていた。ため息は、当該の子猫らのケアで、やはり数匹が重症でまだ誰も信用せず、心をとざしたままだと聞かされたことと、オシャム先生への思慕の情からであろう。ホテルロビーに入ったとたん、手持無沙汰のゲンゴローの姿をみて、太郎は現実にひきもどされた。

Catタイムス ゲンゴロー記者

ゲンゴローはソファーにすわったまま、太郎をみてもすぐに行動しなかった。太郎はロビーの片隅にある支配人席に座って、しばらく書類など目を通し、目鼻がついたところで、受付の二―二のところに行って、ゲンゴローを見やって、「長くいるの?」。二―二はうなずきながら「おかえりなさい。おじさん、なにか落ち込んでいるかも。。。」と。太郎は「あの様子じゃ、ひまをもてあましているわね。ゾッド殺人事件の捜査がすすんでないようね。。。。」と、二―二にウインクしてゲンゴローに向かった。

ゲンゴローの前に立ち、ソファーに座っているゲンゴローにむかって、「あらゲンちゃん ひまそうね!」「。。。。。???」「こんなところで油売っていて、で、どうなの?いつもの元気は?」。ゲンゴローは太郎を見上げ、いきなり太郎にむかって「太郎様、仏様、おいらにお助けを!」と手を突き出し、手のひらを合わせ拝んでみせた。「あら、やだ!まだ仏様ではないから!」と。そしていきなり首根っこを大きな手でつかみ”ぐっ”と睨みつけた。ゲンゴローは 苦しそうに「グェツ! グェツ!」とことばにならない声をあげ、手を足をばたつかせた。ホテルを訪問していた客らは思わず足をとめ成り行きを見つめていた。太郎はすぐに手を緩め、「あら~ あたしとしたことがことが、ホホホホ>>。。。」と。ゲンゴローは「ひで~よ!いきなりだもんな」とすこし恨み声で答えた。

「で。?」「。。。なにか”お知恵を”。。。。?」。太郎は「あるわよ!」ゲンゴローは 「え!」と驚くばかりであった。    次回

 

 

(49)知らぬ、知らぬ、存ぜぬ!

警察はゾッドリストをもとに、代議士、事務次官の”一郎”の不正献金に絞って捜査開始した。このリストをネタにゾッドは見返りを求め、ゆすっていたかもしれない。それが殺害の動機となりうるからだ。”一郎”は自身では手を汚さないかもしれない。殺人を請け負うアウトローの雇い入れはお金しだいだ。殺されたゾッド社長の周りにはヒョウ柄の3兄弟姉妹がいて、ゾッドカンパニー社員の話では、会社で社長の周りに常にいて給与も払われていないから、ゾッド社長が個人で雇い入れたしいて言えば、契約使用人?ではないかとのことであった。自身をガードしないといけない何かがあったのだろうか?

ゾッドは一郎のところに不定期に面会していた。市役所の面会記録がそれを証明した。しかも”他2匹”と記録されていた。そして、市役所の受付では、その2匹はヒョウ柄のオスということであった。ここまではわかった。ヒョウ柄らがお金で動くということなら、一郎からひそかに依頼されて、ゾッドを葬ったかもしれぬ。それとヒョウ柄3匹を重要参考人として行方を追っていたが、ゾッド社長が殺害されたその日からぷっつり足取りが消えてしまった。

新聞記者のゲンゴローは、警察に詰めていてもゾッド社長の殺害事件の捜査が一向に進んでいないことに失望すら覚えた。ゲンゴローは「まいった。今日もスカ。スカでござんすね。まったく。。。。。」と独り言をはいて、急に思い立ったように「よっしゃ!」と大声でさけんだ。署員らは、おもわずゲンゴローを振り返り「。。。。」「ま、やだ」とか少しざわつき、顔見知りの捜査員が 遠くから「どうした。ゲンちゃん。ここ大丈夫?」と自分のおつむをコツコツとたたいた。ゲンゴローは「皆様 お疲れでんな~。へ~おいらもお疲れで~す。ここはゲンゴローは気分転換に行ってきます。おいらは、やしろホテルの看板娘を拝みにいってきますは!。へ~ ほなさいなら~」とくるっと背をむけて、警察署から出た。

ゲンゴローは ま ついでに太郎おばさんに会ってくるかな~ 何か知恵を授けてくれるかもな~、と。

「いた、いた」ゲンゴローはホテルフロントで受付をしている二―二に会いにいった。「二―二さん どうよ!」 二―二はにこっと笑って「オジサンいらっしゃい。でも。。。 どうよ!となんですか?」 ゲンゴローは、二―二の顔をまともにみれない。それほどまばゆく美しく成長した娘となった。「あ~ ん~ その~」と意味もないことばでごまかし、「ところで太郎支配人は?」 二―二は、「う~ん。。。とね、いい人んところ。」 ゲンゴローは思わず「エッ!」と吐いて、しばらくして「へ~ あのず~たいの年増がね~ 不思議なこともあ~るわいな。しかし、ネタにもならんか?」と ちょっと両手を広げおどけて話した。二―二は「おじさん、いけないんだ。茶化したらいけないんだ!」とゲンゴローを睨んだ。二―二にさげすまされた目でみられ、ちょっとバツわるそうに、「すまん すまん ちょっと滅入っていてね。例の殺人事件 ちっとも進展しないもんだから、。。。ついつい太郎さんに“お知恵はござんせんか?”と 馳せ参じましたのさ。」 二―二は、「おじさん おっかっしい。そっちは警察が調べているんじゃないですか?どうして太郎さんに知恵を?」 ゲンゴローは、気分転換のためにやしろホテルに遊びにきているから話がかみ合わない。

ゲンゴローはしばらくして「ところで 二―二さん知らないかな~ ゾッド社長の殺害事件にすっかり隠れてしまったけど、警察が動かなかった例の子猫らの失踪事件 あれは、どうなっちゃった?と、おいらが言うのもおかしいが、その後 さっぱりなんだ。編集会議でももしかしたら政治家からみの大スクープか?と社内でも期待してたんですがね?」といつもの口調に変わって話しかけた。 二―二は、ニコっと笑って、じっとゲンゴローを見つめ、「あたしも知らない。」と。そして泊りにきた旅する猫家族の応対しはじめた。ゲンゴローは話の相手にされず、ふてくされてロビーのソファーにもたれ、いつしか眠りについた。

政務次官の地元選出の一朗先生は捜査主任の警部の訪問を受けてゾッドリストの存在を知った。しかしそこは慣れたもので、しかし少し気色ばんで「君い、これは殺人の捜査なんだよね。じゃ何か?私がだよ、殺人の容疑者?。。たく、失敬な。よく聞けよ!俺は俺はな国政をあずかる事務次官だぞ!。そんな金は受け取った覚えがない。」 しかし「先生。これはゾッド社長が残したもので間違いがないんですがね。。。。ま、死人にクチナシではありますがね。このリストをネタに見返りを強要してきて、、、。先生への献金は、ずば抜けて大きいですが、先生は政治献金の収支報告もなされてませんし、、、、で、脅されて、邪魔になったとか、、ついには、始末したとか。。」とこっちもひるまない。捜査主任にとっては、なんのしがらみもない。公職にもかかわらず接待を受けたと潔くみとめた警察署長はすでに異動となったためだ。急な異動でまだ後任は決まっていない。このところの経緯は新聞各社でも”急な異動”はとりあげていなかった。署内に箝口令(かんこうれい)がひかれていたためだ。

一郎は「何を!!貴様! 言うにことかいてでたらめを!失敬な!! 知らぬ、存ぜぬ。帰りたまえ!!実に不愉快だ。君い!このままで済むと思うなよ!」と暗に警察庁TOPに圧力を匂わせて、ついに癇癪を起し席をたってしまった。捜査主任は潮時とみて、「では、また。今日のところは帰ります。気が変わられましたら、ここまでお電話を!」と。名刺をテーブルの上に置いて立ち去った。

一郎は内心おだやかでなかった。ゾッドは用心深いからリストや日記をつけているはず これは最初から読んでいた。ゾッドに不都合があればきっとこれをネタに見返りを要求してきただろう。もちつもたれつだ。働きかけの報酬だ。ま、ゾッドリストは一郎にとっても想定内でどうってことはない。ゾッドからの献金はすべて裏金で、このお金はすべて党内の運動費用にあてられてきた。所属党の金庫番でありたいために運用してきたのだ。見返りは永久比例名簿の上位と永久事務次官の地位だけだ。一郎の政治は人を操ることだ。お金をつかっても大臣になりたいというご仁はごまんといる。同じ党員から大臣になりたいから推薦がほしいといって、やはりお金が動く。一郎のバラまいたお金はすべて何かしらの形で戻ってくるのだ。

さらに一郎は自問した。

だれが殺人を?やはり一癖も二癖もありそうなゾッドの用心棒たちか?。飼い犬に手を噛まれたか? ”フフフフ。。。” 狙いはゾッドの金か?ゾッドは何を用心していたのか?。儲けの多い非合法な取引?としばらく考えこんで、 ”ン?” 思い当たることがある。例の子猫の失踪さわぎだろう。だまって見過ごしてもらえるよう税関に手をまわしたが、殺処分前の子猫らを救うという慈善事業でカモフラージュされていたから、表向きの働きかけも問題ない。ついでに、あっちこっちからかっさらってきた子猫らをまぎれこまさせて、その分の別代金をバイヤーから直接受け取っていたわけだ。結果的に違法なゾッドの裏仕事を見逃したことになる? しかし見返りとしての裏金は大きく膨れ、ほぼ1年続いた。

逆のことも考えられる。ゾッドの命令でこの俺を抹殺することも容易だったのではないか? 。。。。。”まさしく死人にクチナシ、か。” と、小さくつぶやいた。ゾッド献金の多くは自身の金庫にいれている。銀行も使わない。このお金が差し押さえられるとまずいな。ゾッドの指紋は残っているだろうから。早く土地などの売買契約をして現金をなくそう。しかし金蔓(かねづる)がな~、、、痛いな~。

さすが歴戦練磨。動じない。ゾッドとくらべものにならない巨悪がここにある。

次回 太郎の知恵

 

(48)殺害の1週間後

ゾッド社長の殺害から1週間たとうとしていた。ゾッドカンパニー株式会社は貿易会社で直江津港の荷役、通関、集荷配送など輸出入にかかわる業務一切を請け負う。地理的な優位から貿易国は、日本海に面する、韓国、中国、ロシアとの取引が多い。社長が殺されたというショッキングな事件も、すぐに臨時取締役会が開かれ、新しい社長が選出され、何事もなかったように営業再開されていた。直系の後継者はいないので、天下りしてきた官僚の総部部長がすんなり選出された。と、いうのも、貿易業務は地元の観光や工業、商業活動と密接に関係し、その活動のためには港の整備や安定航路の誘致、確保がかかせない。官僚出身者のツテ、いわゆる人脈のツテがどうしても必要だからだ。この総務部長は 政治家で保健省の事務次官の”一郎”が推薦してきた日本猫の茶トラであった。インテリをうかがわせるような細い眼鏡をいつもつけていて小太りである。名前はポンタ。しっぽが末広がりでふさふさしている。いつもそのしっぽを上げて、先端をゼンマイのようにまるめ前後揺らしながら歩くクセがあって、飼い主が狸のしっぽの連想からその名前がついたそうな。

ポンタは市役所の一角にある、”一郎”のためにあつらえた豪華な部屋を訪れた。社長就任のあいさつだ。一郎はいつものとおり、大きな窓から雄大な妙高山をみていた。ポンタが秘書にうながされ部屋に入ったが、一郎は窓からの景色に見とれていて、ポンタには背をむけたままだ。子飼いの元官僚のあいさつだ。どうってことはない。もう上下関係は歴然としていた。

しばらくして、「事務次官 ポンタです。ゾッドカンパニーの社長就任のあいさつにまいりました。」。。。。しばらく無言がつづき、ようやく一郎がポンタのほうを振り向いた。「おお、君か!こたびは社長就任、おめでとう!」といきなり握手を求めてきた。政治家特有の大仰(おおぎょう)な挨拶だ。「ゾッド社長はこの上越地域の発展に尽力してくれた。実に残念だ」と。「以後、よろしくお願いします。業務がら、国政にお詳しい先生のお力添えをいただくやにしれませんが。。。」と。一郎「ウン、ウン」とうなづいて、ソフアーに座るよう促した。「ところで、ゾッド社長からはなにも聞いていないかね。。。。」「と言いますと。。。」 一郎の頭の中は、「お金」のことしかなかった。ポンタは、「はて~?。。。。なんせワンマンでしたから。突然の死で、引き継ぎも何もあったもんでもなく。。。。 なにか事務次官のほうで。。。?」そくざに一郎は「ン?。。。それもそうだな。」と、話題を変えることにした。たばこ吹かせて、「君~い、ゾッド君の、側近の その~ なんていったか、いつも連れていた、ウんん。。。ヒョウ柄の兄弟がいたよね。彼らがその~事情を知っているかもしれんよ。。。」と意味深なことばをポンタに投げかけた。ポンタは少し動揺したが、それでもハンカチを取り出し、細い眼鏡を磨きながら、「あ~、あの”ピン””ポン””パン”ですか?」と

ポンタはいままでヒョウ柄の兄弟妹(きょうだい)3匹には困り果てていたのだ。天下りでいきなり取締役総務部長のポストをもらったが、この3兄弟妹にはいつも見下され”ちょうちん持ち”、”使い走り”としてしかみなされていなかったからであった。気を取り直し、「あの~、まことに恥をさらすようですが、新聞ででていた有力容疑者というのは、その~ヒョウ柄3兄弟妹でして、ハイ。」一郎はすこし”ビクッ”としたが、動揺を悟られまいとしてソファからたちあがり、ふたたび窓のほうにむかい背をむけた。「へ~ 私の耳には入らなかったが、、、、」 ポンタは、「まだ犯人と決まったわけでもなく、殺害があってからその3兄弟妹の行方がわからずしまいで。。。。社長室にあった社長個人の金庫にはたぶん現金が入っていたようですが、それがなくなったとみるのが自然で、警察では強盗の仕業とみているんですが。。。」 「それがその~なにか兄弟妹の仕業かもしれないかと? ま!いい!あとで警察署長にも聞いてみるから。」突然ポンタが、「あ、そうだ、警察署長が 昨日付けで異動となっていますよ!」「え!」と、一郎が驚いた。

そのころ警察では、警察内部の動きとして、例のゾッドが残したチップから賄賂のリストと日記から歴代の警察署長の名前が記されていたことがわかった。わずかなタクシー代の授受、しかし定期的な、宴席、ゴルフの接待があきらかになったため、すぐに捜査主任警部から管理官を通じ、監察官(警官らの目付役)が動き、現署長が事実を認めたため、突然の異動となった。

このリストをもとに賄賂の授受にかかわるトラブルがあったかもしれないとして殺人事件の犯人捜査は継続しているが、もはや警察としては、最重要参考人とこの3兄弟妹の行方を追っていた。というのも、いままでの調べからゾッドカンパニーの人材派遣部の業務自体がほとんど実態のないものであったことや、ペットショップで売れ残った殺処分前の若い猫らが、どうも港から韓国に輸出されていることがわかってきて、責任者のパンが行方をくらませているのも不自然であったためだ。

子猫らが輸出されたとみて間違いがないが、契約書、出荷リスト、インボイスと言われる納品書が残っているから、輸出事態は合法的である。問題は若い猫らの意思のとおりなのか?であった。強制となると話はまったく別になるからだ。捜査員を韓国に派遣し、意思で外地に出向いたのか、強制であったのか確認すべしという意見も出始めた。

捜査2課が注目したのは、ゾッドが残したリストですでに昨年だけでも数億円規模に上った”さる方”への寄付金だ。政治家は個人の財産や政治資金名目の献金など毎年収支報告書に記載し公開しなければいけない。”さる方”すなわち事務次官の”一郎”の収支報告書では、ゾッド日記帳(出納帳もかねている。のちに総称で”ゾッドリスト”とよばれるようになった)の額と大幅に違うのだ。        次回

 

(47)もう一つの捜査始まる。

ゾッド社長が殺害されてから1日がたった。TVはあいかわらず中継車をだしてリポーターが殺害現場の事務所から遠く離れたところから状況の説明をしていた。ゲンゴローは新聞記者の身分証とオーデションの取材許可証を警察にだして早々に開放してもらい記事をまとめることに集中した。そして殺害があったよく日に詳細記事を載せることができた。CATタイムス紙の見出しは ”ゾッド社長殺害される” 副題は”警察は有力容疑者を特定か?”であった。

もっぱら報道は殺人事件が中心であったが、警察ではもうひとつの捜査がはじまろうとしていた。

いままで捜査状況から、捜査主任の警部らは、”金庫が開かれていて、金庫の内部の左側の一段目に株などの債券などがそのまま置かれていたので、おそらく右側に現金や帳簿などがあったのだろう”と見当をつけてみた。が、その確信はないままであった。”強盗殺人なのか?怨恨なのか?”

鍵がただひとつポツンと残されていた。犯人は、あるいは犯人らにとってこの鍵は最初から眼中になかったのかもしれない。役員らが事情調査に応じ、金庫はゾッド社長の私物で、何が入っていたかはまったくわからないと話していた。金庫には指紋も残されておらず、凶器の細い紐状のものも持ち去られていた。その日のしかも、オーデションが始まってから防犯カメラの線が切られていたことがわかった。それで、社長室やそれに通じる通路や事務所内の出入りはまったくわからずじまいで、また目撃者もだれひとりいない時間帯を選んだことから、殺害が用意周到であったことが裏付けされた。

この”鍵”は銀行の貸金庫のものとわかった。そして貸金庫からただひとつ小さなICチップをみつけ押収した。

「なんだこれは!」分析官の捜査員がすっとんきょうな声を出した。「警部!こっちへ来てくださいよ!早く早く!こりゃえらいものが記録されてますよ!」。興奮した様子だ。捜査主任の警部や仲間たちが足早に近づき、分析官がみてる画面を見て、「こ、これは。。。。」「。。。。。。。」。だれかが、「おいらの名前載ってませんかね~?」と冗談をはいた。捜査主任が、”キッ”と睨め付け、大声で「馬鹿野郎!捜査外すぞ!」。軽口を吐いた捜査員はバツがわるそうに引き下がって、先輩捜査員から「あのな~。。。」と肩に手をかけられたしなめられた。事態は深刻なのだ。興味本位に集まってきた捜査員にも緊張が走った。しばらくして分析官が、「主任、これこれ!」と画面をたたき、”ある人”の名前を指した。警部はしばらく考え、”二ィ~ッ”と笑い、「いいか!それよりも、まずリスト内に警察関係がいないかをまず確かめよ!敵は内(うち)にあり かもしれんからな。。。」と苦虫(にがむし)を噛み下したように吐き出した。分析官だけがすぐさま「ラジャ~」と返事した。捜査員らは黙ってうなずいた。警部はさらにつづけ、「スキャンダルもみ消しの圧力がかるかもしれんな~。。が。こっちのリストの捜査は”しばらくの間”はまったくの覆面でいくぞ!徹底的に調べよ。そして日記との整合性を調べよ。ゾッド社長殺害の動機となりうるものがあるかもしれん。。からな。それができたら、ま、上に話して、殺害事件とは別の捜査を2課に立ち上げてもらうようにする。

ICチップには便宜をはかってもらうための資金提供(うらがね)のリストがあった。そしてそれらの資金提供に関連する日記も、こと細かに記載されていた。費用対効果を分析するつもりなのか?ビジネスとしての裏金として割り切っていたようだ。しかしアウトロー(違法)のビジネスだ。ゾッド自身の身の安全を図ったに違いないと容易に想像できた。

そうとは知らず、太郎と二―二とチロと2匹の隊員らは、やしろホテルの一室で持ちかえったアルミケースを開け、そして大金を目にしていた。

太郎は「あら やだ!すごいわね。。」 二―二は興味なさそうで、すぐにホテルのフロントにいった。受付のお手伝いだ。チロも大輔もチビクロも、「まいったな~」と頭をかくしまつだ。

ヒョウ柄らの”影始末”は失踪の現場を押さえ、子猫らの救出作戦のとき、成り行きでそうなった。事務所からキャリー付きの大きなアルミケースを持ち出した黒装束らを見つけたのは二―二だ。ヒョウ柄らはすぐに目撃者を抹殺すべく二―二を襲ったが相手が悪かった。悪すぎた。そしてアルミケース2個だけが残った。

チロは「どうします?届けますかね?」と。太郎は、”ニコッ”と笑って、「だ~め」。これには隊員もあんぐりとした。予想もしない答えであったのだ。太郎は 「まずこのお金の性質を知ったうえでどうするか決めましょ?影軍団が成り行きの戦利品なんちゃって、言えるはずもないし。。。。額が大きすぎるから、あとで匿名で届けるにしてもどうしても無理があるわ。警察はとことん調べると思うの。」隊員らは「そうですね。太郎さん」「うんうん」「うんうん」。

大輔が、「ヒョウ柄の持ち物?ありえないな~。おそらくゾッド金庫から盗み出した?ものかも。」 隊長のチロから、「おおやけにできないお金かもね?」 チビクロは「えッ?」と。太郎は「そうね。それもあるわ。ほら いつかあったでしょう? 麻薬取引で猫ババしたやくざのチンピラが、それがばれそうになって、命ほしさに、猫ババした現金を”ゴミ回収”に出してしまう”って話、一度二度ではないでしょう?結構あるのよ!、お金より大事なものが、、、、。」。チビクロはそれでも納得したのかしないのか、「へ~」とあいまいな返事をした。

太郎は「ホテルのどこかの一室にしばらく置いときましょうか。お金の性質がわかってから対応きめましょう!」そして「なによりも、守るべきは影の存在を知られてはいけない。そのことよ!。」と宣言した。

以後、子猫らの失踪事件はあらたな段階を迎えることになる。 次回。

(46)ゾッド社長 殺害の捜査はじまる。

「へ~、~フェクション!」。ゲンゴローが雪之丞の手裏剣投げ曲芸の的(まと)になっていたことを後で知った。知ってから、ガタガタ震えが止まらなくなって大きなくしゃみをした。本人はなにか夢うつつで催眠状態にあったから恐怖心などなかったのだが、残念ながらまったく記憶がない。だから迫力ある記事がかけないことを悔やんだ。あの大スター 雪之丞と同じステージにたったのだ。同僚のカメラマンから、ナイスショットを見せられてからなおさらだ。「すごい!まったく動じてないもんね。。。。怖くなかった?」と聞かれても「ま~ね!」とあいまいに答える始末で、このままでは記事はTV録画をみて~ということだ。だから他紙と同じで”平凡な記事かも~。”と、ゲンゴローはそう思うとすっかり落ち込んだ。

オーデションも終わって、審査が始まった。審査結果は開催会社のゾッド社長から発表ということで、担当部長がゾッド社長を呼びに社長室に訪れた。社長室のドアは開きっぱなしで、真っ暗であることで、”あれ~?不在か?トイレかな~”。いつも黙って社長室に入ることを許されていないから、少しドアの前で待つことにした。審査発表の時間がしだいにせまってきて、”弱ったな~もう待てない”として、社長室の入り口の電気のスイッチを入れ、ドア越しにのぞいてみた。すぐに異変に気が付いた。金庫が開けっ放しで、ちょうど金庫の扉に寄りかかるようにしている社長の姿を見たのだ。不健康であるということは、空咳の連続を常に近くで見ていたから、”まさか?!””「もしや?!”と思い、すぐに駆け寄って、「ワッ!」と大声を出した。

ゲンゴローは会場のアナウンスがもう3度も同じことを繰り返していることに気が付いた。「審査に手間取っています。」「もう少しお待ちください」と。会場のみんなも”もう夜が明けようっていうのにな~”とざわつきはじめた。

そのころ連絡を受けた警察がすでに到着していて、会場の封鎖がされ、人、車の出入りが禁止された。到着した刑事から首を絞められた痕跡があり、金庫もあけられていたころから、他殺と断定されたからだ。

アナウンスが再びあり、警察担当者から話があります。と。会場は大騒ぎになった。「え~ 社長が殺された?」「調べがすむまで会場から出れないだとよ!」とまちまちに声があがった。TV中継も急きょ特番を組み、同行のレポーターが朝のTOPニュースとして情報集めに余念がない。オーデションの担当部長から「申し訳ありません。警察のご指導もありましてこのたびの審査結果は後日改めて応募者に通知させていただきます。朝食、飲み物はご自由にご利用ください」とあらためてあった。

影軍団のチロと大輔とチビクロは大きな小さな車輪のついたアルミケース2個を引っ張ってすでに帰ってしまっていた。太郎と二―二は会場に戻って、この騒ぎを聞くやいなや「太郎さん。もしかしたらヒョウ柄のしわざ?」「。。。。」

そのかわり「お腹すいたわね~ なにか食べましょう」。事務所のなかのロビーにむかった。

そのころイベント担当部長ほか会社の主だった幹部が社長室に集められ、現場を仕切る警部に事情を聞かれていた。警部の質問は 「ここ最近、社長のまわりにトラブルは?」とか「金庫の中身は?現金はあったのか?」とかが中心であったが、口々に、「まったくのワンマンで、社長室に入る時も、秘書の許可がなければ。。。」「個人金庫のことなんて我々は”そこにあった”ということしか知りませんね~。会社の金庫は別にあるので用がないもので。。。」「。。。。」しばらくして、経理担当部長が「そうだ 秘書らに聞いてみてくださいよ!彼らは、我々のとりつぎ役だったから、それと、警護も担当していたから、常に一緒のはずですよ!。。。どこに行ったかね? ッたく 肝心な時に!」と吐き捨てた。警部は秘書らがこの幹部らに良い目で見られていなかったことを感じて、「秘書らというのは?」「どんなって言われても、ヒョウ柄で目が細く、睨まれると”ゾクッ!”として」。。。。「ブルブル」と両手を自分の胸にかかえて震えるしぐさをした。そして「3兄妹ですよ。名前はピンさんとポンさん。この2匹が兄弟で兄がピンさんですよ。そのほかに新設の人材派遣部の部長、といっても一人っきりの担当兼部長ですが、その末妹がいますよ。名前はパンさん。おなじヒョウ柄で。。。。最近交通事故で片手を失っていましてね。さっき会場でみかけましたよ!」と。 すぐに警部は「おい!。すぐにこの3兄妹を探せ!」と傍にいた捜査員に命じ、何匹かがすぐに現場から立ち去った。

太郎と二―二は異様な雰囲気の中のロビーに入り、簡単な食べ物と水を受け取り雪之丞一座のいる”粗末”な楽屋に出向いた。雪之丞はステージ衣装を脱いで、やはり軽食をとっていた。

太郎から「お疲れさまでした」と、さも雪之丞の演技を見ていたかのようにねぎらった。二―二は、あてがわれた粗末な楽屋を”きょろきょろ”とながめている。雪之丞に正体を知られてはこまるのだが、雪之丞は二―二に短剣をプレゼントしたことからも、うすうすというか?すでに太郎と二―二 そしてその仲間らの正体に気がついていて、ま~ここは ”阿吽の呼吸”ということか。

雪之丞は、「どうでした?」。太郎は「え~そっちは解決しましたわ。だからこっちのスタッフはもう帰ってしいましたわ。。。。。でもゾッド社長がね~ これはどう考えたら。。。。」 雪之丞から、「今さっき警察のかたがきてヒョウ柄の3兄妹知らないか?聞いていきましたよ。。。」と、太郎の顔を意味深に覗いた。太郎は観念したかのように、「え~、例の件に大きくかかわっていましてね、、、」と。しばらく太郎の顔を見つめていた雪之丞は、「。。。。わかりました。」と。雪之丞のスタッフはなにがなんだかわけがわからず ただ作り笑いをして戸惑っているようすだ。            次回

(45)雪之丞 手裏剣投げの的(まと)にゲンゴローが?!

タレントオーデション会場では 深夜0:30ころに食事と休憩がおわり、大スター雪之丞の手裏剣投げがおこなわれようとしていた。休憩時間のあとのアトラクションいうことでゾッドカンパニーからのオファー(申し入れ)であった。もちろんギャラは通常の演目と同じくらいを払うという好条件であった。アトラクションとは聞こえがいいが、座興・余興の類で、芸人としてのプライドを貶める意図がありありで、一旦、オファーに対しマネージャーを通しお断りをいれてあった。しかしそれでもゾッドカンパニーが市長らに手をまわし外堀から埋めてくるので、”どうしたものか?” と思案中のところに太郎の訪問を受けたのだ。

座長

太郎から失踪事件がゾッドカンパニーがからんでいるのではないか関心を持っていることを告げられ、話を聞くにつれ太郎と二―二の正体をうすうす感じた雪之丞は、子猫らの救出に協力すべくそのアトラクションに出演を決めた。

プロ中のプロの雪之丞はいやな顔を微塵もみせず、”彼女”にとって短い演目に違いないのだがその表情は引き締まっていた。

ほら貝が”ブゥオオ~~」と開始を告げた。名曲、ラベルの”亡き王女のパバーヌ”(解:パバーヌ:二拍子のおごそかな緩やかなワルツ)のピアノ演奏がバックい流れはじめた。そして、さっそうと雪之丞が登場した。

舞台衣装は真っ白のドレスだ。頭にはこれも真っ白な”はちまき”がキリリとまかれ、うす黄色の”たすき”姿だ。食後のあとのざわついた雰囲気が一変した。会場は静まり返り大スターの演目をまじかに見られる幸せを感じた。ゲンゴローはステージ脇でこのアトラクションの開始の様子をせわしなくメモをとっていたが、おもわず、「すごい!」とつぶやき、ただただ見とれてしまった。

雪之丞が、ステージ中央で、その”黄金の目”でぐるりと会場を見て、ステージ脇のゲンゴローを認めた。ゲンゴローは、雪之丞がなにやら”目で語った”錯覚を覚え、その瞬間、”つつつ、、、、ッ”といつのまにやらステージ中央に向かっていた。いや引き寄せられたのだ。

ステージ右には的が用意されて、ひとこと雪之丞がゲンゴローに語り、ゲンゴローはただうなずいて、すんなり的にむかってそのまま横向きに張り付いて固まってしまった。ゲンゴローは夢心地であった。

優雅なワルツが突然止まり、和太鼓の連打が波打つように小さく。。。大きく鳴り響き手裏剣投げの曲芸が始まった。雪之丞の右手にはすでに数本の手裏剣が握られ利き腕の左手に1本握られた。和太鼓の連打が止まった。「エイ!」とすざましい気合が発せられ、固まっているゲンゴローの頭の上すれすれに「!」に突き刺さった。ふたたび和太鼓が「ドド~ン ドド~ン 、、、」と荒々しく連打され、今度はなんと左手に2本の手裏剣が握られた。”まさか” だれしもがそう思った。和太鼓が鳴りやみ緊張が高まった。雪之丞は左足を軸に一回りして、歌舞伎役者の決めポーズの右足を大仰(おおぎょう)に”ダンッ”と床を踏み、もっていた2本をゲンゴローに向かって投げたのだ。「ッ」「ッ」と的に突き刺さる連続音が会場に響いた。見事に、1本はゲンゴローの鼻先ともう1本は首の後ろの的板にある。会場は「わ~」「すごい」「。。。。」と感嘆とともとれるようにざわついた。そのざわつきをよそに、雪之丞はファイナルに移ろうとしていた。ふたたびあの優雅なパバーヌが奏でられ、雪之丞が両手を広げ、足を交互に出し、足をそろえたら背はのばしたまま、優雅に両足を”く”の字に曲げた。この繰り返しを音楽にあわせて踊ったのだ。会場ではそのしぐさをまねるものもでてきた。動きそのものは単調な繰り返しだが、マネせざるをえない優雅さが魅了したのだ。TV中継もされていたから、今後、人の集い、イベントなどで流行(はや)るかもしれない。雪之丞はその曲に合わせひとしきり優雅なダンス舞を披露したところで、いつしか両手に3本ずつの手裏剣をもっていた。

会場がどよめいた。亡き王女のパバーヌのピアノ演奏はバックに流れたままだ。明らかに今度は会場のどこからともなく悲鳴のようなざわめきが発せられ、そのどよめきを制するかのように両手を前に出してから、そして観客に対し、”目”でほほ笑み、しだいに眼光が鋭くなって的にむかって体を一ひねりして、横を向き、的にむかって両手同時にそれぞれの手裏剣3本を放った。「プスッ」「プスッ」「・・・・」とすこし時間差があったものの鋭い音が響いた。ゲンゴローは?

太郎は雪之丞のアトラクションが始まるやいなや、会場から抜け出し、チロらと合流した。二―二もそこにいた。チロらはすでに3匹のモノ言わぬヒョウ柄 ピン、ポン、パンの始末を終えたところだった。

太郎は チロに、「で、首尾は?」。とさっそく本題にはいった。チロはいままで厳しかった表情を崩し、「すべて太郎さんの想像どおりでしたよ。約100匹の子猫らがコンテナーに閉じ込められていましてね~。無事に迎えのバスに乗せて。。。」と。そして大輔が続けた。「ま、コンテナーが空(から)だとおかしいでしょう?それで見張り番の兄さんがたに代わってもらって、。。。さっき船出の汽笛があったから今頃は船旅を楽しんでいますよ!。」「おとなしく、素直にコンテナーに入ったかしら?」と太郎が大輔に意地悪く問うた。大輔は「そりゃま~、まったく静かなもんでしたよ。」と。しばらくして二―二が思わず「プッ」と吹き出して、チロも大輔もチビクロもついに吹き出した。チロは少しして、ヒョウ柄3匹は危険極まる殺人集団であったから二―二と自分が影始末したことを伝えた。

そう聞かされた太郎はしばらくなにか考えていて無言だったが、「そうでしたか? みなさん 影の仕事お疲れさまでした」と。チロはちょっと腑に落ちない太郎をみて「太郎さん、まだ~ なにか?」 太郎は「いいえ、これだけの悪さをするには、もっと大きな”悪がいるのではないか?”と思ったからよ!。ヒョウ柄は殺人鬼であって、とてもビジネスにからんだ悪を仕切れないと思って」と。二―二は「まだ終わってないッていうこと?」と。太郎が「そう、。。。そのとおりよ!」と言い切った。

アルミケースが2個放置されていて、鍵がかかっているからそれを持ち帰ることにした。ずいぶん重い。二―二が、”あきらかにヒョウ柄がゾッドカンパニーから持ち出したものだ”と話し、中身はわからないが、彼らにとってだいじなものにちがいない”と見当をつけた。        次回

 

(44)二―二とヒョウ柄 1:3の決闘

二―二は満月になろうかとしている月を背景にコンテナーの上にたっていた。2段積のコンテナーの上だ。高さはおよそ5m。少し長めの鉢巻(はちまき)が少しの風にたなびいていた。ヒョウ柄兄弟のピンとポンがそれぞれ持っていたケースを脇に置き、二-二のいるコンテナー真下の少し開けた原っぱに向かった。末妹パンはもう到着しているが、なんせ右片腕だから、二―二のいるコンテナー上には登れず、「シャ~」と威嚇して、ハスに背負っていあたすこし短めの剣を抜いた。利き腕は右だからなんの支障もないようだ。長兄ピンが、ひときわ高く「ウオ~ン」と威嚇し「テメ~だな。妹をこんな目に合わせた奴はよ~」と怒り心頭のようすだが、背中から剣をぬき、やはり上を見上げた。このとき体の敏捷な弟がコンテナーの上り口をみつけいくつかジャンプを繰り返し、二―二のいるコンテナーまで到達していて、音もなく二―二に近づき刀のつばに差し込んだ手裏剣を手にし二―二の背後から狙いを定めた。二―二は危機が迫っているのを知ってかしらずか、ただ静かに真下のヒョウ柄2匹を見つめていた。

「ヒュッー」と手裏剣が投げられた。二―二はこのわずかな音と空気の乱れを感じ取って「サッ」とかわし、なんとそのまま「ススー」とヒョウ柄ポンに飛び掛かった。二―二の手が一閃され、「ウワッ」と声を発したとたん見る間に顔面の真ん中に真っ赤な血が流れて、ポンは信じられないという顔つきで、そして血だらけの凄い形相で二―二を睨んだが、視界がしだいに闇に覆われ 「ドサッ」とくずれたあと、わずかに最後の小さな痙攣がおこりそのまま静かになった。ヒョウ柄弟は背中の刀に手をかけたままの姿だ。が、刀が抜かれることはなかった。二―二の手には両刃の短剣が握られていた。

コンテナーの上の様子がわからないから、長兄ピンと末娘のパンは「シャー」 「ワオ~ン」と恐ろしい声で威嚇し続けていた。いきなり5mのコンテナーの上から二―二がジャンプして、2匹のヒョウ柄の後ろに音もなく着地した。2匹にはまったく見えなかった。「おじさんたち こっちだよ」と二―二が告げ、びっくりした長兄があわてて、「小娘め!殺してやる」と刀を青眼に構えた。兄さん「ここは私が」と制するが、「パン、油断するな?一気に行くぜと、ぐるぐる2匹で二―二の周りを回り始めた。しかし二―二はまったく動ぜず、静かに待っている。片腕のパンがまず動いた。修羅場で会得した喧嘩殺法だ。「ヴァ~ン」とするどい刃風を立て、刀を回転させながら間を詰め始めた。一方、長兄のピンは刀を高速で持ち替え持ち替えして、どこから刀が襲ってくるのかわからない。2匹ともやはり殺しに慣れていて非常に落ち着いて、冷めた鋭い目を二―二に浴びせている。二―二はだいじょうぶか?

このころ、子猫たちを率いた影軍団の隊長チロと副隊長大輔、チビクロの3匹が遠くの原っぱで対峙する二―二と2匹のヒョウ柄を見つけた。3匹は、子猫たちの脱出のあと、気絶した与太兄さんやヤンキーたちを、すべて子猫たちが入れられていた動物専用コンテナーに封じ込めてきた。船積はもうすぐだ。兄さんたちはこのまま外国への旅へということだ。荷がすり替わったということだ。

「隊長!」と大輔が言うが、隊長は落ち着いたもので、「ま~ まず子猫たちを無事に逃がそうか。」と、のんびりしている。原っぱを気にしながらそのまま港の出口に向かった。いつのまにかゾッドカンパニーの門前に到着していたバスに子猫らを誘導した。バスの運転手は隊員の飼い主だ。「おやおや たくさんだね~」と。そして別の影隊員らが水や食べ物を子猫らに与え、子猫らはようやく安心したのか静かになりそして安心して眠りについた。

「隊長!」「よし 行こう」と3匹は原っぱに向かった。

二―二と2匹の激闘がすでに始まっていた。3匹は見ているしかなかった。すざましい決闘だ。二―二の短剣は長剣にくらべ不利である。二―二は持手(柄)に巻かれていた皮のひもをほどき、右手に短剣を、左手に皮ひもの先端を持ち構えている。ヒョウ柄2匹の攻撃は息もぴったりで一方が攻め、二―二が躱(かわ)したところにもう一方の刃が鋭く切り込んでくるという具合だ。しかし二―二は2の手も寸手のところで見切って、左右横に上に下にと自在に避けて、ついに「やッ」と声を発し真上にジャンプした。末妹の胴切りをかわすためだ。そしてピンからの背後からの2の手の斜め切りを避け、左手で皮ひもの先端を持ち、両刃担当を片腕のパンに手裏剣のごとく投げつけた。皮ひもは約90cmの長さがある。パンが横になぎ、しかし二―二を捉えることもなく刃が流れた。その一瞬のスキがパンの命取りになった。無防備の首に二―二の両刃剣が突き刺さった。おもわずパンが刀を落とし、右手で首を抑えるもそのまま前のめりで斃れた。長兄のピンは凍り付いた。少しずつ腰が砕けてきた。キョロキョロと逃げ道を探しているようだ。ここで隊長が動いた。ピンの背後から逃げ道を防いだ。すでに背中の剣を抜きいている。パンは隊長に気づき、逃げ道の強硬突破なのか鋭い突きをいれてきた。チロは二―二の格闘技の先生だ。なんなく突きをかわし、ピンの剣を巻き上げ天に放り投げ、そのまま静かに袈裟懸け(けさがけ)を見舞った。右肩と右首筋の境目に刃の先端部が深く当たり、そのまま腰を入れ切り下げた。「む~」と白目をむいてドサと膝をついてそのまま前のめりで顔から落ちてそのまま動かなくなった。

大輔も チビクロもあらためてチロの”殺人剣”を目にし、「・・・・」「・・・・・」。声もなかった。

オーデション会場ではふたたび歓声があがった。どうやら前半の審査が終わって余雪之丞一座の余興がはじまったようだ。            次回

(43)失踪子猫らの救出作戦

オーデション会場からのひときわ喧騒があったころ、肥やし集めに扮装した影軍団のチロ隊長の指揮下のもと、動物専用のコンテナー内に閉じ込められた失踪の子猫たちの救出作戦が始まった。

コンテナー前には、大柄の2匹がいて手持無沙汰のようだ。またその前には7~8匹が小さなグループに分かれて”たむろ”していて、専用コンテナーの船積まで、どうやら見張りを交代で行うようだ。見張り以外、飲食していて、「俺も様子を見てみて~よ~」とか「あ~、どんな娘(こ)らが~」と口々に言い、しかし、見張りリーダーらしいひときわ”えら”がはった多毛質の兄貴分が、「てめ~ら しっかりしね~か!?。ヒョウ柄は容赦しね~ぞ!」と、弛緩した雰囲気を引き締めるが、当の兄さんも会場のひときわ大きな歓声に”何事か?”と、やはり気になってしようがないのだ。

チロは手ぬぐいでほおかぶりしてから、この兄さんたちの中に大胆に入っていった。休んでいる見張り待機組は突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)にとまどった。チロは、「え~と ごめんなさいね!」と。リーダー兄さんがすかさず「なんで~てめ~はよ! あっちへ行け!」 別のものが、「しかし くうッさいな~」と鼻をつまみ、”くんくん”とチロにまつわりついて、待機組の残りのものらも、退屈しのぎにカラかい相手ができたと言わんばかりに集まってきた。「へ~ ”今晩中に肥やしをかたずけてほしい”と会社から言われたもんで~。。。。」チロは、みんなに囲まれても腰をさげて顔さげて、しかし平然と答えた。「くっさいところはな~ あっちだあっち!」とオーデション会場を指す。が、。チロは顔を上げて「え! 野ションがあっちこっちにあると聞いてますが~」。みんなはコンテナー前のあっちこっちに野ションや野グソしていたから、「ハハハハハ~てめ~はよう、俺たちのクソ集めか!?。。。みんなクソ集めだとよ!あっちこっちにあるぜ~、ハハハハハ」と一同にして笑い転げた。

チロは、困ったしぐさをしながら、すこし離れた専用コンテナーがそっと開かれて、子猫たちが隊員の”大輔”とチビクロに誘導されてドット脱出し始めたのを確認した。見張りの2匹はとっくに大輔に手刀を当てられ気絶してコンテナー扉の前にのびてしまっている。脱出は静かにというわけにはいかない。なんせ子供たちだ。自由になったとたん「わ~ん」と泣わめくものもいる。

リーダが気が付いた。「しまった、逃げやがったぜ!」とみんなに告げて、専用コンテナーに向かおうとした。チロがすばやく兄さんたちの前に出て手を横に大きく広げ通せんぼした。「てめ~ 何もんだ!」と突然 気の荒い若い”右片目”がチロに突然飛び掛かった。黒白のブチなのだが、右片目のまわりだけが白であとはまったく黒地なのだ。だから”片目パンダもどき”のようとも言える。チロは攻撃をなんなくかわし、すかさず腰に差していた肥やしあつめのトングを取り出し”片目パンダもどき”のみぞおちに打撃を見舞った。「グェッ」と腹を抱え、悶絶してしまった。これからはチロの独り舞台だ。「エイ!」「や~!」と立て続けに鋭い気合をはっするたんびに、右に、左に、飛び掛かかり、一撃でつぎつぎと与太にいさんやヤンキーを倒していく。いずれも口から泡を吹いて気絶だ。最後に残ったリーダー格は逃げようとしたが、”トトと~ン”とジャンプしてチロが行く手を塞ぎ、トングで一閃した。”ゴッ”と鈍い音がして、へなへなと兄貴が崩れた。

ヒョウ柄兄弟のピンとパンは、そんなこともしらず、社長室のゾッドの様子をみていた。黒装束に背中には少し長めの剣がある。普段着の片腕の末妹パンも会場からぬけでて兄弟に合流した。ちいさな声で、「にいさんたち、あたしをこんな目に合わせた小娘を見つけたわ!」と。兄弟はすこしびっくりしたようすだったが、長兄のピンが「ま~待ちな。きっと仇をとってやるからな。その前にやることがある。」とあごをしゃくって ゾッド社長を見つめた。ピンは絶好の機会とみている。金庫の中身の札束が狙いだ。もうゾッド将軍ことゾッドカンパニー社長は不健康で長くないとみていたし、裏金がしこたまたまった今日こそが おさらばしようと決めていたのだ。あんのじょうゾッドは金庫の中をあけて、札束や有価証券、高価な宝飾類などの貴重品をひそかに眺めている。これを唯一の楽しみとしていたのだ。部屋は小さなあかりがともされていただけなのでうす暗い。そしてしばらくして、まず弟ポンが動いた。そっとゾッドに近づいた。そ~とそ~と。そして持っていたひもでいきなりゾッドの首に巻き付け締めはじめた。無言だ。ゾッドは声もはっすることなく、苦しいのか?手足をばたばたしてしていたが、しばらくしてコトリと手足が動かなくなった。兄が、その間、アルミケースに現金のみを入れはじめた。貿易会社だ。円に加え大半が米ドルで、ユーロの紙幣もある。アルミケースは2つ。2つでおそらく数億ドル相当と見積った。見張り役は末妹のパンだ。いつしか黒装束に着替え、短めの剣を腰に差していた。しばらくして長兄が「終わったぜ!いくぜ!」と合図をした。

「にいさん!」とパンが言って、2つのアルミケースの1つをもった長兄ピンが「お~ これからお前の仇をとってやるからな。さッ、行くぜ! 案内しろ。一気に片付けしまおう!」と。パンに案内されて”仇”のいるオーデション会場に向かった。

いつしか雲がなくなって月がまんまるになって薄光をさしていた。海からの少し涼しい風があった。会場に向かう途中のコンテナーの上から「おじちゃんたち いけないん~だ」と。

なんとの戦闘服の二―二がそこにいたのだ。頭にはすこし長めの鉢巻がまかれ腰には、雪之丞からもらった両刃の短剣があった。    次回