(52)二―二とチロの早朝稽古。 秋の冷気が。。。 

富山県限定品種? 水島柿(甘柿)

おとんの家の柿が色づいてきた。おとん曰く、実家のある富山では有名な品種だ。ご当地の品種 ”水島(みずしま)”だそうだ。おとんのいなかにはいまもって普通に見られる。田んぼや畑の片隅に、そして庭先にも植えられて各家庭に必ず1本はあるという定番といったころか?おおきなもので樹高10~15mにも達する。樹齢100年以上。実は大きいもので軟式野球のボールくらいにもなる。甘柿、であるが、まだ実が固いころ樹上で冷気にさらされたり、日陰で実ったものは渋柿のままだ。しかし甘いものは、ゴマがたっぷりでに果肉はくろみがかっている。収穫して2日以内に食さないと熟しが早く食感が損なわれてしまうう。いわゆる日持ちがわるい。木の上ですこし柔らかくなるまで熟させて、食べる分だけ収穫する。全国に流通しないわけだ。おとんがもう何年か前に食した柿の種が、この上越のおとんの畑から芽を出してもう10年はたつ。その木がちょうど2年ほど前から実をつけるようになってきた。

二―二と影軍団の武闘隊長チロの早朝ケイコが始まった。やしろホテルからすこし離れた雑木が密集したところがあって、途中にぽっかり原っぱが10畳くらいあいて、そこがいつもの訓練場所となっている。この場所はどら猫事件簿ビギンズにも登場したが、二―二がサイコパス ブラッキーと初めて対峙した場所でもある。

二―二は師匠のチロからたくさん”技”を学んだ。殺人剣、技もそのひとつだ。悪との対峙は無法である。どんな手段であろう、勝たねばならない。複数の悪との同時に対峙した場合一撃で撃退が求められる。急所は?戦意喪失させるには?などなど。チロは二―二との訓練は、己の技量維持にもかかせない。今朝はチロは長短の木刀、二―二は木剣であるが普通の小さ刀(ちいさがたな)を用意した。二―二のそれは普通のものよりさらに短くしたものだ。今朝はチロは左手に長剣をもった。左利きを想定したものだ。

「や!ッ」「おッ!」と声を発し訓練が始まった。子弟の訓練は、試合そのもので、”ガッキーン””パシーン” ”パンパン”と達人同士しか出せない独特の音をだしながら、チロからは左手から特有の、するどく、十分に体重が載った”袈裟懸け”を見舞いながら、切っ先をたすぐに切り返し、そのまま二―二の左側の胴切りの連続技を繰り出した。チロの極意技の一つである。二―二は袈裟懸けを後8うしろ)にすっと飛んでかわし、連続の胴切りを間一髪、垂直にジャンプし、その体制から一気に降下しながらチロの頭部めがけ小さ刀(ちいさがたな)を振り降ろした。”メーンッ!””パシッ”と、チロも二―二の樫の小さ刀を払う。そして両者は”あうん”の呼吸でパットと離れ、再びそれぞれの型の構えに入った。いくつかの違った技を繰り出し1時間ほど続くのだ。ほかの仲間も集まってきた。影軍団は命がけだ。日々の訓練が大切だ。みな一様に、柔軟体操をしながら、二―二とチロの実戦さながらの訓練をみていて、ときには、「ほ~。。。」「ふ~。。。」「。。。ん~ゴクッ」と反応も様々である。チロ隊長を相手に実戦形式の練習など隊員だれしも経験がない。それを二―二が遣(や)っての退(の)けているのだ。

ようやく隊長と二―二の訓練が終わった。それぞれの隊員は気の合った仲間と、あるいは一人で木刀を素振りしたりしてめいめいのルーチンにしたがい、技くぉ繰り出したときのフォームを確認している。各自個性がある。体つきも”のっぽ”から”ちっちゃい”のもいる。チロの指導は格闘技の基本動作だけにとどめている。

「みなさんおはようございます。」澄んだ朝の空気に二―二の声が甲高く響くと、一同、手を体を止めて、「おはよう」「おはよう!」「。。。。」と無言で片手をあげる隊員もいる。二―二が一員に加わってから、朝の練習も真剣さが増してきたようだ。加わった当初は、”なんと愛くるしい娘よ!”と、独身のオス猫隊員など色めきたったが、二―二の果てしもない迫力の練習、訓練をみているうちに一変してきたのだ。悪党ヒョウ兄弟を一撃で仕留め、チロ隊長との互角の実践練習をみて、二―二の天才剣士ぶりはだれの目にも明らかだったのだ。

「おじさん ありがとうございました。あ~あ おなかすいた。」いったんおかんの家にもどって食事してから やしろホテルにむかうのが日課だ。チロは、「オ~ッ」といいながら「あとでホテルにいくからッ」と答え、二―二は「仕事? こないだトイレはきれいにしたんじゃなかった~?」 チロは肥やし集めを生業(なりわい)としている。そのことを言っているのだ。チロはすかさず、「なにね、太郎さんからの呼び出しなんだ。」「なんかあったかしら。。。」とちょっと首をかしげその場を去った。   次回

(51)太郎の知恵

ゲンゴローは太郎の言葉に少し勇気づけられた。気を取り直してソファに座りなおした。二―二が飲みものをもってきてくれた。「お! 気が付くね~」と、太郎からの”励まし”の手荒い応対をもう忘れたかのように、記者としてのプロの目に戻った。一呼吸ついたところで、太郎が、「ゲンちゃん!どっち追いかけてんの?」「????」。太郎が「ふ~ん。。。」とゲンゴローの戸惑いをみてとって、「だから、どっちの捜査の進展がないといっているの?」。ゲンゴローはしぶしぶ「ネタ的には”ゾッド社長の殺人事件”だし、、、もうひとつは中途半端感の”子猫らの失踪”は、て~と、なぜかその後、”尋ね人”もほとんどなくなってしまってよ~。ま、今はゾッド社長殺しだな~」と。太郎もうなずいて、「ま、ゲンちゃんの強みは、独自に取材し、ときには真相に近づくわよね?」「そうだよ。それが行き詰っているっつ~の。」すこしふてくされたゲンゴローを見て、「どうだろう?2つの事件の関連性は?」「え! そりゃまた?。。。太郎さんの勘?。。。かえ?」。

太郎は両方の事件の真相をほぼ知るから、どうおさめようか苦心していた。両方とも舞台は同じゾッドカンパニー社。子猫らの失踪のほうは現場を押さえ”失踪した子猫”らの救出を秘密裡で行った。影軍団の存在は影のままだ。一方、世間の目は、ゾッド社長殺害事件にあるから、Catタイムス社でも世間の関心に力をいれるのは当然である。しかしこちらは捜査の進展を待たねばならない。ゾッド社長殺害犯は二―二やチロ隊長が”仕留めた”ヒョウ柄3”兄弟妹”(きょうだい)に間違いがないであろう。くすねてきたであろう大金は太郎がちゃっかり”預かっている”。というのもこれだけの大金を公にするには影軍団の存在を疑わさせる危険もともなうから、これだけは”絶対”避けたい。できれば、この大金そのものがなかったことになればよいのだ。太郎も捜査の進展具合が気になるが一向に進んでいないようだ。

太郎は、「捜査陣の最近の動きは?」「そりゃま、俺だって連日警察署につめて、警察の動きはちっとヮ掴(つか)んでいるよ!。。それである時、記事原稿を書いたんだけど、デスクから止められちゃってね。。。。。”この場合は憶測で書いちゃいかん!”と言うのさ。俺もそれくらいわかるワさ。なんせ相手は大物中の大物。上越選出の国会議員、”XX”党の金庫番とも言われる厚生省の”一郎”事務次官だもんな」。太郎は「で、どうしたの?その何某(なにがし)議員」「ゾッド社長が一郎先生に多額の献金をしている形跡があったようなんだけれど、事件の担当警部がさ、目くばせ”言ってくれた”のさ。”事情を聞くだけだ、追いかけてきたら。。。。と言っていたようなのさ。それでおいらも追いかけてそれでがその先生が事情聴取を受けたとわかったのさ。。。しかしね、その後 その警部も一切だんまりでね。」太郎は考え込みながら、「ふ~ん。そのほかに変わったことは?なんでもいいわ」ゲンゴローは考え込んで「う~ん。。。 そういえば、殺害事件のあと陣頭指揮をとるべき警察署署長が異動になったね。。。陣頭指揮をとると思われた警察署署長がね~。。。 異動には早すぎるし突然だもんな。な~んも発表もないし。ま、個人的事情とやらと噂されて、それっきりで、それと あ~直江津税関所長もそれから1日置いてね、異動になったし。。。。。」しばらく考え込んでいたゲンゴローは大きな声で「あッ!」。と。ロビーにいた客らも、接客していた二―二もゲンゴローのほうを向いて”何事か?”といぶかった。太郎も「おかしいわね。。。」とゲンゴロウにウィンクしてみせた。ゲンゴローはすぐに立ち上がり、「すまない、用事思い出した。失礼するよ!」とよれよれのコートをもって立ち去ろうとした。太郎はせわしなく立ち上がったゲンゴローに「ゲンちゃん。あたしからの情報もあるから。。。」と言う間に、ゲンゴローはもう玄関に向かっていた。太郎は、「は~ッ あいかわらずだわね。」。二―二もあわてて席を立ったゲンゴローをみて太郎のところにきて「おじさん、なんか元気いっぱいになっちゃって。。。」、と。しかし太郎は「また来るはずよ!」。

やしろホテル広場

太郎は二―二に向かって「相談あるの」

太郎は二―二に 雪之丞から伝えられたことを話した。それは、雪之丞一座が、やしろホテルの広場で、1日限りの公演をしたいというものであった。時期は10月のおわりから11月のはじめ。あと3週間もないのだ。二―二の出演も切に望まれているということも伝えた。

二―二は 最初戸惑っていたが、「太郎さん、あたしそんな人に見せれるほどの特技はないんだけど~」と。太郎は、「自分では気がつかないこともあるのよ。ま、二―二は二―二のままでいいからね。”振り付けとおりに”といっても無理だから。あたしが一番知っているから!」。もう母がさとすような口ぶりである。「そう、そうだよね。。。。。。」とようやく得心したのか 二―二が続けた「わかった。」と。

次回