ゾッド社長の殺害から1週間たとうとしていた。ゾッドカンパニー株式会社は貿易会社で直江津港の荷役、通関、集荷配送など輸出入にかかわる業務一切を請け負う。地理的な優位から貿易国は、日本海に面する、韓国、中国、ロシアとの取引が多い。社長が殺されたというショッキングな事件も、すぐに臨時取締役会が開かれ、新しい社長が選出され、何事もなかったように営業再開されていた。直系の後継者はいないので、天下りしてきた官僚の総部部長がすんなり選出された。と、いうのも、貿易業務は地元の観光や工業、商業活動と密接に関係し、その活動のためには港の整備や安定航路の誘致、確保がかかせない。官僚出身者のツテ、いわゆる人脈のツテがどうしても必要だからだ。この総務部長は 政治家で保健省の事務次官の”一郎”が推薦してきた日本猫の茶トラであった。インテリをうかがわせるような細い眼鏡をいつもつけていて小太りである。名前はポンタ。しっぽが末広がりでふさふさしている。いつもそのしっぽを上げて、先端をゼンマイのようにまるめ前後揺らしながら歩くクセがあって、飼い主が狸のしっぽの連想からその名前がついたそうな。
ポンタは市役所の一角にある、”一郎”のためにあつらえた豪華な部屋を訪れた。社長就任のあいさつだ。一郎はいつものとおり、大きな窓から雄大な妙高山をみていた。ポンタが秘書にうながされ部屋に入ったが、一郎は窓からの景色に見とれていて、ポンタには背をむけたままだ。子飼いの元官僚のあいさつだ。どうってことはない。もう上下関係は歴然としていた。
しばらくして、「事務次官 ポンタです。ゾッドカンパニーの社長就任のあいさつにまいりました。」。。。。しばらく無言がつづき、ようやく一郎がポンタのほうを振り向いた。「おお、君か!こたびは社長就任、おめでとう!」といきなり握手を求めてきた。政治家特有の大仰(おおぎょう)な挨拶だ。「ゾッド社長はこの上越地域の発展に尽力してくれた。実に残念だ」と。「以後、よろしくお願いします。業務がら、国政にお詳しい先生のお力添えをいただくやにしれませんが。。。」と。一郎「ウン、ウン」とうなづいて、ソフアーに座るよう促した。「ところで、ゾッド社長からはなにも聞いていないかね。。。。」「と言いますと。。。」 一郎の頭の中は、「お金」のことしかなかった。ポンタは、「はて~?。。。。なんせワンマンでしたから。突然の死で、引き継ぎも何もあったもんでもなく。。。。 なにか事務次官のほうで。。。?」そくざに一郎は「ン?。。。それもそうだな。」と、話題を変えることにした。たばこ吹かせて、「君~い、ゾッド君の、側近の その~ なんていったか、いつも連れていた、ウんん。。。ヒョウ柄の兄弟がいたよね。彼らがその~事情を知っているかもしれんよ。。。」と意味深なことばをポンタに投げかけた。ポンタは少し動揺したが、それでもハンカチを取り出し、細い眼鏡を磨きながら、「あ~、あの”ピン””ポン””パン”ですか?」と
ポンタはいままでヒョウ柄の兄弟妹(きょうだい)3匹には困り果てていたのだ。天下りでいきなり取締役総務部長のポストをもらったが、この3兄弟妹にはいつも見下され”ちょうちん持ち”、”使い走り”としてしかみなされていなかったからであった。気を取り直し、「あの~、まことに恥をさらすようですが、新聞ででていた有力容疑者というのは、その~ヒョウ柄3兄弟妹でして、ハイ。」一郎はすこし”ビクッ”としたが、動揺を悟られまいとしてソファからたちあがり、ふたたび窓のほうにむかい背をむけた。「へ~ 私の耳には入らなかったが、、、、」 ポンタは、「まだ犯人と決まったわけでもなく、殺害があってからその3兄弟妹の行方がわからずしまいで。。。。社長室にあった社長個人の金庫にはたぶん現金が入っていたようですが、それがなくなったとみるのが自然で、警察では強盗の仕業とみているんですが。。。」 「それがその~なにか兄弟妹の仕業かもしれないかと? ま!いい!あとで警察署長にも聞いてみるから。」突然ポンタが、「あ、そうだ、警察署長が 昨日付けで異動となっていますよ!」「え!」と、一郎が驚いた。
そのころ警察では、警察内部の動きとして、例のゾッドが残したチップから賄賂のリストと日記から歴代の警察署長の名前が記されていたことがわかった。わずかなタクシー代の授受、しかし定期的な、宴席、ゴルフの接待があきらかになったため、すぐに捜査主任警部から管理官を通じ、監察官(警官らの目付役)が動き、現署長が事実を認めたため、突然の異動となった。
このリストをもとに賄賂の授受にかかわるトラブルがあったかもしれないとして殺人事件の犯人捜査は継続しているが、もはや警察としては、最重要参考人とこの3兄弟妹の行方を追っていた。というのも、いままでの調べからゾッドカンパニーの人材派遣部の業務自体がほとんど実態のないものであったことや、ペットショップで売れ残った殺処分前の若い猫らが、どうも港から韓国に輸出されていることがわかってきて、責任者のパンが行方をくらませているのも不自然であったためだ。
子猫らが輸出されたとみて間違いがないが、契約書、出荷リスト、インボイスと言われる納品書が残っているから、輸出事態は合法的である。問題は若い猫らの意思のとおりなのか?であった。強制となると話はまったく別になるからだ。捜査員を韓国に派遣し、意思で外地に出向いたのか、強制であったのか確認すべしという意見も出始めた。
捜査2課が注目したのは、ゾッドが残したリストですでに昨年だけでも数億円規模に上った”さる方”への寄付金だ。政治家は個人の財産や政治資金名目の献金など毎年収支報告書に記載し公開しなければいけない。”さる方”すなわち事務次官の”一郎”の収支報告書では、ゾッド日記帳(出納帳もかねている。のちに総称で”ゾッドリスト”とよばれるようになった)の額と大幅に違うのだ。 次回