(45)雪之丞 手裏剣投げの的(まと)にゲンゴローが?!

タレントオーデション会場では 深夜0:30ころに食事と休憩がおわり、大スター雪之丞の手裏剣投げがおこなわれようとしていた。休憩時間のあとのアトラクションいうことでゾッドカンパニーからのオファー(申し入れ)であった。もちろんギャラは通常の演目と同じくらいを払うという好条件であった。アトラクションとは聞こえがいいが、座興・余興の類で、芸人としてのプライドを貶める意図がありありで、一旦、オファーに対しマネージャーを通しお断りをいれてあった。しかしそれでもゾッドカンパニーが市長らに手をまわし外堀から埋めてくるので、”どうしたものか?” と思案中のところに太郎の訪問を受けたのだ。

座長

太郎から失踪事件がゾッドカンパニーがからんでいるのではないか関心を持っていることを告げられ、話を聞くにつれ太郎と二―二の正体をうすうす感じた雪之丞は、子猫らの救出に協力すべくそのアトラクションに出演を決めた。

プロ中のプロの雪之丞はいやな顔を微塵もみせず、”彼女”にとって短い演目に違いないのだがその表情は引き締まっていた。

ほら貝が”ブゥオオ~~」と開始を告げた。名曲、ラベルの”亡き王女のパバーヌ”(解:パバーヌ:二拍子のおごそかな緩やかなワルツ)のピアノ演奏がバックい流れはじめた。そして、さっそうと雪之丞が登場した。

舞台衣装は真っ白のドレスだ。頭にはこれも真っ白な”はちまき”がキリリとまかれ、うす黄色の”たすき”姿だ。食後のあとのざわついた雰囲気が一変した。会場は静まり返り大スターの演目をまじかに見られる幸せを感じた。ゲンゴローはステージ脇でこのアトラクションの開始の様子をせわしなくメモをとっていたが、おもわず、「すごい!」とつぶやき、ただただ見とれてしまった。

雪之丞が、ステージ中央で、その”黄金の目”でぐるりと会場を見て、ステージ脇のゲンゴローを認めた。ゲンゴローは、雪之丞がなにやら”目で語った”錯覚を覚え、その瞬間、”つつつ、、、、ッ”といつのまにやらステージ中央に向かっていた。いや引き寄せられたのだ。

ステージ右には的が用意されて、ひとこと雪之丞がゲンゴローに語り、ゲンゴローはただうなずいて、すんなり的にむかってそのまま横向きに張り付いて固まってしまった。ゲンゴローは夢心地であった。

優雅なワルツが突然止まり、和太鼓の連打が波打つように小さく。。。大きく鳴り響き手裏剣投げの曲芸が始まった。雪之丞の右手にはすでに数本の手裏剣が握られ利き腕の左手に1本握られた。和太鼓の連打が止まった。「エイ!」とすざましい気合が発せられ、固まっているゲンゴローの頭の上すれすれに「!」に突き刺さった。ふたたび和太鼓が「ドド~ン ドド~ン 、、、」と荒々しく連打され、今度はなんと左手に2本の手裏剣が握られた。”まさか” だれしもがそう思った。和太鼓が鳴りやみ緊張が高まった。雪之丞は左足を軸に一回りして、歌舞伎役者の決めポーズの右足を大仰(おおぎょう)に”ダンッ”と床を踏み、もっていた2本をゲンゴローに向かって投げたのだ。「ッ」「ッ」と的に突き刺さる連続音が会場に響いた。見事に、1本はゲンゴローの鼻先ともう1本は首の後ろの的板にある。会場は「わ~」「すごい」「。。。。」と感嘆とともとれるようにざわついた。そのざわつきをよそに、雪之丞はファイナルに移ろうとしていた。ふたたびあの優雅なパバーヌが奏でられ、雪之丞が両手を広げ、足を交互に出し、足をそろえたら背はのばしたまま、優雅に両足を”く”の字に曲げた。この繰り返しを音楽にあわせて踊ったのだ。会場ではそのしぐさをまねるものもでてきた。動きそのものは単調な繰り返しだが、マネせざるをえない優雅さが魅了したのだ。TV中継もされていたから、今後、人の集い、イベントなどで流行(はや)るかもしれない。雪之丞はその曲に合わせひとしきり優雅なダンス舞を披露したところで、いつしか両手に3本ずつの手裏剣をもっていた。

会場がどよめいた。亡き王女のパバーヌのピアノ演奏はバックに流れたままだ。明らかに今度は会場のどこからともなく悲鳴のようなざわめきが発せられ、そのどよめきを制するかのように両手を前に出してから、そして観客に対し、”目”でほほ笑み、しだいに眼光が鋭くなって的にむかって体を一ひねりして、横を向き、的にむかって両手同時にそれぞれの手裏剣3本を放った。「プスッ」「プスッ」「・・・・」とすこし時間差があったものの鋭い音が響いた。ゲンゴローは?

太郎は雪之丞のアトラクションが始まるやいなや、会場から抜け出し、チロらと合流した。二―二もそこにいた。チロらはすでに3匹のモノ言わぬヒョウ柄 ピン、ポン、パンの始末を終えたところだった。

太郎は チロに、「で、首尾は?」。とさっそく本題にはいった。チロはいままで厳しかった表情を崩し、「すべて太郎さんの想像どおりでしたよ。約100匹の子猫らがコンテナーに閉じ込められていましてね~。無事に迎えのバスに乗せて。。。」と。そして大輔が続けた。「ま、コンテナーが空(から)だとおかしいでしょう?それで見張り番の兄さんがたに代わってもらって、。。。さっき船出の汽笛があったから今頃は船旅を楽しんでいますよ!。」「おとなしく、素直にコンテナーに入ったかしら?」と太郎が大輔に意地悪く問うた。大輔は「そりゃま~、まったく静かなもんでしたよ。」と。しばらくして二―二が思わず「プッ」と吹き出して、チロも大輔もチビクロもついに吹き出した。チロは少しして、ヒョウ柄3匹は危険極まる殺人集団であったから二―二と自分が影始末したことを伝えた。

そう聞かされた太郎はしばらくなにか考えていて無言だったが、「そうでしたか? みなさん 影の仕事お疲れさまでした」と。チロはちょっと腑に落ちない太郎をみて「太郎さん、まだ~ なにか?」 太郎は「いいえ、これだけの悪さをするには、もっと大きな”悪がいるのではないか?”と思ったからよ!。ヒョウ柄は殺人鬼であって、とてもビジネスにからんだ悪を仕切れないと思って」と。二―二は「まだ終わってないッていうこと?」と。太郎が「そう、。。。そのとおりよ!」と言い切った。

アルミケースが2個放置されていて、鍵がかかっているからそれを持ち帰ることにした。ずいぶん重い。二―二が、”あきらかにヒョウ柄がゾッドカンパニーから持ち出したものだ”と話し、中身はわからないが、彼らにとってだいじなものにちがいない”と見当をつけた。        次回

 

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