(44)二―二とヒョウ柄 1:3の決闘

二―二は満月になろうかとしている月を背景にコンテナーの上にたっていた。2段積のコンテナーの上だ。高さはおよそ5m。少し長めの鉢巻(はちまき)が少しの風にたなびいていた。ヒョウ柄兄弟のピンとポンがそれぞれ持っていたケースを脇に置き、二-二のいるコンテナー真下の少し開けた原っぱに向かった。末妹パンはもう到着しているが、なんせ右片腕だから、二―二のいるコンテナー上には登れず、「シャ~」と威嚇して、ハスに背負っていあたすこし短めの剣を抜いた。利き腕は右だからなんの支障もないようだ。長兄ピンが、ひときわ高く「ウオ~ン」と威嚇し「テメ~だな。妹をこんな目に合わせた奴はよ~」と怒り心頭のようすだが、背中から剣をぬき、やはり上を見上げた。このとき体の敏捷な弟がコンテナーの上り口をみつけいくつかジャンプを繰り返し、二―二のいるコンテナーまで到達していて、音もなく二―二に近づき刀のつばに差し込んだ手裏剣を手にし二―二の背後から狙いを定めた。二―二は危機が迫っているのを知ってかしらずか、ただ静かに真下のヒョウ柄2匹を見つめていた。

「ヒュッー」と手裏剣が投げられた。二―二はこのわずかな音と空気の乱れを感じ取って「サッ」とかわし、なんとそのまま「ススー」とヒョウ柄ポンに飛び掛かった。二―二の手が一閃され、「ウワッ」と声を発したとたん見る間に顔面の真ん中に真っ赤な血が流れて、ポンは信じられないという顔つきで、そして血だらけの凄い形相で二―二を睨んだが、視界がしだいに闇に覆われ 「ドサッ」とくずれたあと、わずかに最後の小さな痙攣がおこりそのまま静かになった。ヒョウ柄弟は背中の刀に手をかけたままの姿だ。が、刀が抜かれることはなかった。二―二の手には両刃の短剣が握られていた。

コンテナーの上の様子がわからないから、長兄ピンと末娘のパンは「シャー」 「ワオ~ン」と恐ろしい声で威嚇し続けていた。いきなり5mのコンテナーの上から二―二がジャンプして、2匹のヒョウ柄の後ろに音もなく着地した。2匹にはまったく見えなかった。「おじさんたち こっちだよ」と二―二が告げ、びっくりした長兄があわてて、「小娘め!殺してやる」と刀を青眼に構えた。兄さん「ここは私が」と制するが、「パン、油断するな?一気に行くぜと、ぐるぐる2匹で二―二の周りを回り始めた。しかし二―二はまったく動ぜず、静かに待っている。片腕のパンがまず動いた。修羅場で会得した喧嘩殺法だ。「ヴァ~ン」とするどい刃風を立て、刀を回転させながら間を詰め始めた。一方、長兄のピンは刀を高速で持ち替え持ち替えして、どこから刀が襲ってくるのかわからない。2匹ともやはり殺しに慣れていて非常に落ち着いて、冷めた鋭い目を二―二に浴びせている。二―二はだいじょうぶか?

このころ、子猫たちを率いた影軍団の隊長チロと副隊長大輔、チビクロの3匹が遠くの原っぱで対峙する二―二と2匹のヒョウ柄を見つけた。3匹は、子猫たちの脱出のあと、気絶した与太兄さんやヤンキーたちを、すべて子猫たちが入れられていた動物専用コンテナーに封じ込めてきた。船積はもうすぐだ。兄さんたちはこのまま外国への旅へということだ。荷がすり替わったということだ。

「隊長!」と大輔が言うが、隊長は落ち着いたもので、「ま~ まず子猫たちを無事に逃がそうか。」と、のんびりしている。原っぱを気にしながらそのまま港の出口に向かった。いつのまにかゾッドカンパニーの門前に到着していたバスに子猫らを誘導した。バスの運転手は隊員の飼い主だ。「おやおや たくさんだね~」と。そして別の影隊員らが水や食べ物を子猫らに与え、子猫らはようやく安心したのか静かになりそして安心して眠りについた。

「隊長!」「よし 行こう」と3匹は原っぱに向かった。

二―二と2匹の激闘がすでに始まっていた。3匹は見ているしかなかった。すざましい決闘だ。二―二の短剣は長剣にくらべ不利である。二―二は持手(柄)に巻かれていた皮のひもをほどき、右手に短剣を、左手に皮ひもの先端を持ち構えている。ヒョウ柄2匹の攻撃は息もぴったりで一方が攻め、二―二が躱(かわ)したところにもう一方の刃が鋭く切り込んでくるという具合だ。しかし二―二は2の手も寸手のところで見切って、左右横に上に下にと自在に避けて、ついに「やッ」と声を発し真上にジャンプした。末妹の胴切りをかわすためだ。そしてピンからの背後からの2の手の斜め切りを避け、左手で皮ひもの先端を持ち、両刃担当を片腕のパンに手裏剣のごとく投げつけた。皮ひもは約90cmの長さがある。パンが横になぎ、しかし二―二を捉えることもなく刃が流れた。その一瞬のスキがパンの命取りになった。無防備の首に二―二の両刃剣が突き刺さった。おもわずパンが刀を落とし、右手で首を抑えるもそのまま前のめりで斃れた。長兄のピンは凍り付いた。少しずつ腰が砕けてきた。キョロキョロと逃げ道を探しているようだ。ここで隊長が動いた。ピンの背後から逃げ道を防いだ。すでに背中の剣を抜きいている。パンは隊長に気づき、逃げ道の強硬突破なのか鋭い突きをいれてきた。チロは二―二の格闘技の先生だ。なんなく突きをかわし、ピンの剣を巻き上げ天に放り投げ、そのまま静かに袈裟懸け(けさがけ)を見舞った。右肩と右首筋の境目に刃の先端部が深く当たり、そのまま腰を入れ切り下げた。「む~」と白目をむいてドサと膝をついてそのまま前のめりで顔から落ちてそのまま動かなくなった。

大輔も チビクロもあらためてチロの”殺人剣”を目にし、「・・・・」「・・・・・」。声もなかった。

オーデション会場ではふたたび歓声があがった。どうやら前半の審査が終わって余雪之丞一座の余興がはじまったようだ。            次回

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