オーデション会場からのひときわ喧騒があったころ、肥やし集めに扮装した影軍団のチロ隊長の指揮下のもと、動物専用のコンテナー内に閉じ込められた失踪の子猫たちの救出作戦が始まった。
コンテナー前には、大柄の2匹がいて手持無沙汰のようだ。またその前には7~8匹が小さなグループに分かれて”たむろ”していて、専用コンテナーの船積まで、どうやら見張りを交代で行うようだ。見張り以外、飲食していて、「俺も様子を見てみて~よ~」とか「あ~、どんな娘(こ)らが~」と口々に言い、しかし、見張りリーダーらしいひときわ”えら”がはった多毛質の兄貴分が、「てめ~ら しっかりしね~か!?。ヒョウ柄は容赦しね~ぞ!」と、弛緩した雰囲気を引き締めるが、当の兄さんも会場のひときわ大きな歓声に”何事か?”と、やはり気になってしようがないのだ。
チロは手ぬぐいでほおかぶりしてから、この兄さんたちの中に大胆に入っていった。休んでいる見張り待機組は突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)にとまどった。チロは、「え~と ごめんなさいね!」と。リーダー兄さんがすかさず「なんで~てめ~はよ! あっちへ行け!」 別のものが、「しかし くうッさいな~」と鼻をつまみ、”くんくん”とチロにまつわりついて、待機組の残りのものらも、退屈しのぎにカラかい相手ができたと言わんばかりに集まってきた。「へ~ ”今晩中に肥やしをかたずけてほしい”と会社から言われたもんで~。。。。」チロは、みんなに囲まれても腰をさげて顔さげて、しかし平然と答えた。「くっさいところはな~ あっちだあっち!」とオーデション会場を指す。が、。チロは顔を上げて「え! 野ションがあっちこっちにあると聞いてますが~」。みんなはコンテナー前のあっちこっちに野ションや野グソしていたから、「ハハハハハ~てめ~はよう、俺たちのクソ集めか!?。。。みんなクソ集めだとよ!あっちこっちにあるぜ~、ハハハハハ」と一同にして笑い転げた。
チロは、困ったしぐさをしながら、すこし離れた専用コンテナーがそっと開かれて、子猫たちが隊員の”大輔”とチビクロに誘導されてドット脱出し始めたのを確認した。見張りの2匹はとっくに大輔に手刀を当てられ気絶してコンテナー扉の前にのびてしまっている。脱出は静かにというわけにはいかない。なんせ子供たちだ。自由になったとたん「わ~ん」と泣わめくものもいる。
リーダが気が付いた。「しまった、逃げやがったぜ!」とみんなに告げて、専用コンテナーに向かおうとした。チロがすばやく兄さんたちの前に出て手を横に大きく広げ通せんぼした。「てめ~ 何もんだ!」と突然 気の荒い若い”右片目”がチロに突然飛び掛かった。黒白のブチなのだが、右片目のまわりだけが白であとはまったく黒地なのだ。だから”片目パンダもどき”のようとも言える。チロは攻撃をなんなくかわし、すかさず腰に差していた肥やしあつめのトングを取り出し”片目パンダもどき”のみぞおちに打撃を見舞った。「グェッ」と腹を抱え、悶絶してしまった。これからはチロの独り舞台だ。「エイ!」「や~!」と立て続けに鋭い気合をはっするたんびに、右に、左に、飛び掛かかり、一撃でつぎつぎと与太にいさんやヤンキーを倒していく。いずれも口から泡を吹いて気絶だ。最後に残ったリーダー格は逃げようとしたが、”トトと~ン”とジャンプしてチロが行く手を塞ぎ、トングで一閃した。”ゴッ”と鈍い音がして、へなへなと兄貴が崩れた。
ヒョウ柄兄弟のピンとパンは、そんなこともしらず、社長室のゾッドの様子をみていた。黒装束に背中には少し長めの剣がある。普段着の片腕の末妹パンも会場からぬけでて兄弟に合流した。ちいさな声で、「にいさんたち、あたしをこんな目に合わせた小娘を見つけたわ!」と。兄弟はすこしびっくりしたようすだったが、長兄のピンが「ま~待ちな。きっと仇をとってやるからな。その前にやることがある。」とあごをしゃくって ゾッド社長を見つめた。ピンは絶好の機会とみている。金庫の中身の札束が狙いだ。もうゾッド将軍ことゾッドカンパニー社長は不健康で長くないとみていたし、裏金がしこたまたまった今日こそが おさらばしようと決めていたのだ。あんのじょうゾッドは金庫の中をあけて、札束や有価証券、高価な宝飾類などの貴重品をひそかに眺めている。これを唯一の楽しみとしていたのだ。部屋は小さなあかりがともされていただけなのでうす暗い。そしてしばらくして、まず弟ポンが動いた。そっとゾッドに近づいた。そ~とそ~と。そして持っていたひもでいきなりゾッドの首に巻き付け締めはじめた。無言だ。ゾッドは声もはっすることなく、苦しいのか?手足をばたばたしてしていたが、しばらくしてコトリと手足が動かなくなった。兄が、その間、アルミケースに現金のみを入れはじめた。貿易会社だ。円に加え大半が米ドルで、ユーロの紙幣もある。アルミケースは2つ。2つでおそらく数億ドル相当と見積った。見張り役は末妹のパンだ。いつしか黒装束に着替え、短めの剣を腰に差していた。しばらくして長兄が「終わったぜ!いくぜ!」と合図をした。
「にいさん!」とパンが言って、2つのアルミケースの1つをもった長兄ピンが「お~ これからお前の仇をとってやるからな。さッ、行くぜ! 案内しろ。一気に片付けしまおう!」と。パンに案内されて”仇”のいるオーデション会場に向かった。
いつしか雲がなくなって月がまんまるになって薄光をさしていた。海からの少し涼しい風があった。会場に向かう途中のコンテナーの上から「おじちゃんたち いけないん~だ」と。
なんとの戦闘服の二―二がそこにいたのだ。頭にはすこし長めの鉢巻がまかれ腰には、雪之丞からもらった両刃の短剣があった。 次回