(48)殺害の1週間後

ゾッド社長の殺害から1週間たとうとしていた。ゾッドカンパニー株式会社は貿易会社で直江津港の荷役、通関、集荷配送など輸出入にかかわる業務一切を請け負う。地理的な優位から貿易国は、日本海に面する、韓国、中国、ロシアとの取引が多い。社長が殺されたというショッキングな事件も、すぐに臨時取締役会が開かれ、新しい社長が選出され、何事もなかったように営業再開されていた。直系の後継者はいないので、天下りしてきた官僚の総部部長がすんなり選出された。と、いうのも、貿易業務は地元の観光や工業、商業活動と密接に関係し、その活動のためには港の整備や安定航路の誘致、確保がかかせない。官僚出身者のツテ、いわゆる人脈のツテがどうしても必要だからだ。この総務部長は 政治家で保健省の事務次官の”一郎”が推薦してきた日本猫の茶トラであった。インテリをうかがわせるような細い眼鏡をいつもつけていて小太りである。名前はポンタ。しっぽが末広がりでふさふさしている。いつもそのしっぽを上げて、先端をゼンマイのようにまるめ前後揺らしながら歩くクセがあって、飼い主が狸のしっぽの連想からその名前がついたそうな。

ポンタは市役所の一角にある、”一郎”のためにあつらえた豪華な部屋を訪れた。社長就任のあいさつだ。一郎はいつものとおり、大きな窓から雄大な妙高山をみていた。ポンタが秘書にうながされ部屋に入ったが、一郎は窓からの景色に見とれていて、ポンタには背をむけたままだ。子飼いの元官僚のあいさつだ。どうってことはない。もう上下関係は歴然としていた。

しばらくして、「事務次官 ポンタです。ゾッドカンパニーの社長就任のあいさつにまいりました。」。。。。しばらく無言がつづき、ようやく一郎がポンタのほうを振り向いた。「おお、君か!こたびは社長就任、おめでとう!」といきなり握手を求めてきた。政治家特有の大仰(おおぎょう)な挨拶だ。「ゾッド社長はこの上越地域の発展に尽力してくれた。実に残念だ」と。「以後、よろしくお願いします。業務がら、国政にお詳しい先生のお力添えをいただくやにしれませんが。。。」と。一郎「ウン、ウン」とうなづいて、ソフアーに座るよう促した。「ところで、ゾッド社長からはなにも聞いていないかね。。。。」「と言いますと。。。」 一郎の頭の中は、「お金」のことしかなかった。ポンタは、「はて~?。。。。なんせワンマンでしたから。突然の死で、引き継ぎも何もあったもんでもなく。。。。 なにか事務次官のほうで。。。?」そくざに一郎は「ン?。。。それもそうだな。」と、話題を変えることにした。たばこ吹かせて、「君~い、ゾッド君の、側近の その~ なんていったか、いつも連れていた、ウんん。。。ヒョウ柄の兄弟がいたよね。彼らがその~事情を知っているかもしれんよ。。。」と意味深なことばをポンタに投げかけた。ポンタは少し動揺したが、それでもハンカチを取り出し、細い眼鏡を磨きながら、「あ~、あの”ピン””ポン””パン”ですか?」と

ポンタはいままでヒョウ柄の兄弟妹(きょうだい)3匹には困り果てていたのだ。天下りでいきなり取締役総務部長のポストをもらったが、この3兄弟妹にはいつも見下され”ちょうちん持ち”、”使い走り”としてしかみなされていなかったからであった。気を取り直し、「あの~、まことに恥をさらすようですが、新聞ででていた有力容疑者というのは、その~ヒョウ柄3兄弟妹でして、ハイ。」一郎はすこし”ビクッ”としたが、動揺を悟られまいとしてソファからたちあがり、ふたたび窓のほうにむかい背をむけた。「へ~ 私の耳には入らなかったが、、、、」 ポンタは、「まだ犯人と決まったわけでもなく、殺害があってからその3兄弟妹の行方がわからずしまいで。。。。社長室にあった社長個人の金庫にはたぶん現金が入っていたようですが、それがなくなったとみるのが自然で、警察では強盗の仕業とみているんですが。。。」 「それがその~なにか兄弟妹の仕業かもしれないかと? ま!いい!あとで警察署長にも聞いてみるから。」突然ポンタが、「あ、そうだ、警察署長が 昨日付けで異動となっていますよ!」「え!」と、一郎が驚いた。

そのころ警察では、警察内部の動きとして、例のゾッドが残したチップから賄賂のリストと日記から歴代の警察署長の名前が記されていたことがわかった。わずかなタクシー代の授受、しかし定期的な、宴席、ゴルフの接待があきらかになったため、すぐに捜査主任警部から管理官を通じ、監察官(警官らの目付役)が動き、現署長が事実を認めたため、突然の異動となった。

このリストをもとに賄賂の授受にかかわるトラブルがあったかもしれないとして殺人事件の犯人捜査は継続しているが、もはや警察としては、最重要参考人とこの3兄弟妹の行方を追っていた。というのも、いままでの調べからゾッドカンパニーの人材派遣部の業務自体がほとんど実態のないものであったことや、ペットショップで売れ残った殺処分前の若い猫らが、どうも港から韓国に輸出されていることがわかってきて、責任者のパンが行方をくらませているのも不自然であったためだ。

子猫らが輸出されたとみて間違いがないが、契約書、出荷リスト、インボイスと言われる納品書が残っているから、輸出事態は合法的である。問題は若い猫らの意思のとおりなのか?であった。強制となると話はまったく別になるからだ。捜査員を韓国に派遣し、意思で外地に出向いたのか、強制であったのか確認すべしという意見も出始めた。

捜査2課が注目したのは、ゾッドが残したリストですでに昨年だけでも数億円規模に上った”さる方”への寄付金だ。政治家は個人の財産や政治資金名目の献金など毎年収支報告書に記載し公開しなければいけない。”さる方”すなわち事務次官の”一郎”の収支報告書では、ゾッド日記帳(出納帳もかねている。のちに総称で”ゾッドリスト”とよばれるようになった)の額と大幅に違うのだ。        次回

 

(47)もう一つの捜査始まる。

ゾッド社長が殺害されてから1日がたった。TVはあいかわらず中継車をだしてリポーターが殺害現場の事務所から遠く離れたところから状況の説明をしていた。ゲンゴローは新聞記者の身分証とオーデションの取材許可証を警察にだして早々に開放してもらい記事をまとめることに集中した。そして殺害があったよく日に詳細記事を載せることができた。CATタイムス紙の見出しは ”ゾッド社長殺害される” 副題は”警察は有力容疑者を特定か?”であった。

もっぱら報道は殺人事件が中心であったが、警察ではもうひとつの捜査がはじまろうとしていた。

いままで捜査状況から、捜査主任の警部らは、”金庫が開かれていて、金庫の内部の左側の一段目に株などの債券などがそのまま置かれていたので、おそらく右側に現金や帳簿などがあったのだろう”と見当をつけてみた。が、その確信はないままであった。”強盗殺人なのか?怨恨なのか?”

鍵がただひとつポツンと残されていた。犯人は、あるいは犯人らにとってこの鍵は最初から眼中になかったのかもしれない。役員らが事情調査に応じ、金庫はゾッド社長の私物で、何が入っていたかはまったくわからないと話していた。金庫には指紋も残されておらず、凶器の細い紐状のものも持ち去られていた。その日のしかも、オーデションが始まってから防犯カメラの線が切られていたことがわかった。それで、社長室やそれに通じる通路や事務所内の出入りはまったくわからずじまいで、また目撃者もだれひとりいない時間帯を選んだことから、殺害が用意周到であったことが裏付けされた。

この”鍵”は銀行の貸金庫のものとわかった。そして貸金庫からただひとつ小さなICチップをみつけ押収した。

「なんだこれは!」分析官の捜査員がすっとんきょうな声を出した。「警部!こっちへ来てくださいよ!早く早く!こりゃえらいものが記録されてますよ!」。興奮した様子だ。捜査主任の警部や仲間たちが足早に近づき、分析官がみてる画面を見て、「こ、これは。。。。」「。。。。。。。」。だれかが、「おいらの名前載ってませんかね~?」と冗談をはいた。捜査主任が、”キッ”と睨め付け、大声で「馬鹿野郎!捜査外すぞ!」。軽口を吐いた捜査員はバツがわるそうに引き下がって、先輩捜査員から「あのな~。。。」と肩に手をかけられたしなめられた。事態は深刻なのだ。興味本位に集まってきた捜査員にも緊張が走った。しばらくして分析官が、「主任、これこれ!」と画面をたたき、”ある人”の名前を指した。警部はしばらく考え、”二ィ~ッ”と笑い、「いいか!それよりも、まずリスト内に警察関係がいないかをまず確かめよ!敵は内(うち)にあり かもしれんからな。。。」と苦虫(にがむし)を噛み下したように吐き出した。分析官だけがすぐさま「ラジャ~」と返事した。捜査員らは黙ってうなずいた。警部はさらにつづけ、「スキャンダルもみ消しの圧力がかるかもしれんな~。。が。こっちのリストの捜査は”しばらくの間”はまったくの覆面でいくぞ!徹底的に調べよ。そして日記との整合性を調べよ。ゾッド社長殺害の動機となりうるものがあるかもしれん。。からな。それができたら、ま、上に話して、殺害事件とは別の捜査を2課に立ち上げてもらうようにする。

ICチップには便宜をはかってもらうための資金提供(うらがね)のリストがあった。そしてそれらの資金提供に関連する日記も、こと細かに記載されていた。費用対効果を分析するつもりなのか?ビジネスとしての裏金として割り切っていたようだ。しかしアウトロー(違法)のビジネスだ。ゾッド自身の身の安全を図ったに違いないと容易に想像できた。

そうとは知らず、太郎と二―二とチロと2匹の隊員らは、やしろホテルの一室で持ちかえったアルミケースを開け、そして大金を目にしていた。

太郎は「あら やだ!すごいわね。。」 二―二は興味なさそうで、すぐにホテルのフロントにいった。受付のお手伝いだ。チロも大輔もチビクロも、「まいったな~」と頭をかくしまつだ。

ヒョウ柄らの”影始末”は失踪の現場を押さえ、子猫らの救出作戦のとき、成り行きでそうなった。事務所からキャリー付きの大きなアルミケースを持ち出した黒装束らを見つけたのは二―二だ。ヒョウ柄らはすぐに目撃者を抹殺すべく二―二を襲ったが相手が悪かった。悪すぎた。そしてアルミケース2個だけが残った。

チロは「どうします?届けますかね?」と。太郎は、”ニコッ”と笑って、「だ~め」。これには隊員もあんぐりとした。予想もしない答えであったのだ。太郎は 「まずこのお金の性質を知ったうえでどうするか決めましょ?影軍団が成り行きの戦利品なんちゃって、言えるはずもないし。。。。額が大きすぎるから、あとで匿名で届けるにしてもどうしても無理があるわ。警察はとことん調べると思うの。」隊員らは「そうですね。太郎さん」「うんうん」「うんうん」。

大輔が、「ヒョウ柄の持ち物?ありえないな~。おそらくゾッド金庫から盗み出した?ものかも。」 隊長のチロから、「おおやけにできないお金かもね?」 チビクロは「えッ?」と。太郎は「そうね。それもあるわ。ほら いつかあったでしょう? 麻薬取引で猫ババしたやくざのチンピラが、それがばれそうになって、命ほしさに、猫ババした現金を”ゴミ回収”に出してしまう”って話、一度二度ではないでしょう?結構あるのよ!、お金より大事なものが、、、、。」。チビクロはそれでも納得したのかしないのか、「へ~」とあいまいな返事をした。

太郎は「ホテルのどこかの一室にしばらく置いときましょうか。お金の性質がわかってから対応きめましょう!」そして「なによりも、守るべきは影の存在を知られてはいけない。そのことよ!。」と宣言した。

以後、子猫らの失踪事件はあらたな段階を迎えることになる。 次回。

(46)ゾッド社長 殺害の捜査はじまる。

「へ~、~フェクション!」。ゲンゴローが雪之丞の手裏剣投げ曲芸の的(まと)になっていたことを後で知った。知ってから、ガタガタ震えが止まらなくなって大きなくしゃみをした。本人はなにか夢うつつで催眠状態にあったから恐怖心などなかったのだが、残念ながらまったく記憶がない。だから迫力ある記事がかけないことを悔やんだ。あの大スター 雪之丞と同じステージにたったのだ。同僚のカメラマンから、ナイスショットを見せられてからなおさらだ。「すごい!まったく動じてないもんね。。。。怖くなかった?」と聞かれても「ま~ね!」とあいまいに答える始末で、このままでは記事はTV録画をみて~ということだ。だから他紙と同じで”平凡な記事かも~。”と、ゲンゴローはそう思うとすっかり落ち込んだ。

オーデションも終わって、審査が始まった。審査結果は開催会社のゾッド社長から発表ということで、担当部長がゾッド社長を呼びに社長室に訪れた。社長室のドアは開きっぱなしで、真っ暗であることで、”あれ~?不在か?トイレかな~”。いつも黙って社長室に入ることを許されていないから、少しドアの前で待つことにした。審査発表の時間がしだいにせまってきて、”弱ったな~もう待てない”として、社長室の入り口の電気のスイッチを入れ、ドア越しにのぞいてみた。すぐに異変に気が付いた。金庫が開けっ放しで、ちょうど金庫の扉に寄りかかるようにしている社長の姿を見たのだ。不健康であるということは、空咳の連続を常に近くで見ていたから、”まさか?!””「もしや?!”と思い、すぐに駆け寄って、「ワッ!」と大声を出した。

ゲンゴローは会場のアナウンスがもう3度も同じことを繰り返していることに気が付いた。「審査に手間取っています。」「もう少しお待ちください」と。会場のみんなも”もう夜が明けようっていうのにな~”とざわつきはじめた。

そのころ連絡を受けた警察がすでに到着していて、会場の封鎖がされ、人、車の出入りが禁止された。到着した刑事から首を絞められた痕跡があり、金庫もあけられていたころから、他殺と断定されたからだ。

アナウンスが再びあり、警察担当者から話があります。と。会場は大騒ぎになった。「え~ 社長が殺された?」「調べがすむまで会場から出れないだとよ!」とまちまちに声があがった。TV中継も急きょ特番を組み、同行のレポーターが朝のTOPニュースとして情報集めに余念がない。オーデションの担当部長から「申し訳ありません。警察のご指導もありましてこのたびの審査結果は後日改めて応募者に通知させていただきます。朝食、飲み物はご自由にご利用ください」とあらためてあった。

影軍団のチロと大輔とチビクロは大きな小さな車輪のついたアルミケース2個を引っ張ってすでに帰ってしまっていた。太郎と二―二は会場に戻って、この騒ぎを聞くやいなや「太郎さん。もしかしたらヒョウ柄のしわざ?」「。。。。」

そのかわり「お腹すいたわね~ なにか食べましょう」。事務所のなかのロビーにむかった。

そのころイベント担当部長ほか会社の主だった幹部が社長室に集められ、現場を仕切る警部に事情を聞かれていた。警部の質問は 「ここ最近、社長のまわりにトラブルは?」とか「金庫の中身は?現金はあったのか?」とかが中心であったが、口々に、「まったくのワンマンで、社長室に入る時も、秘書の許可がなければ。。。」「個人金庫のことなんて我々は”そこにあった”ということしか知りませんね~。会社の金庫は別にあるので用がないもので。。。」「。。。。」しばらくして、経理担当部長が「そうだ 秘書らに聞いてみてくださいよ!彼らは、我々のとりつぎ役だったから、それと、警護も担当していたから、常に一緒のはずですよ!。。。どこに行ったかね? ッたく 肝心な時に!」と吐き捨てた。警部は秘書らがこの幹部らに良い目で見られていなかったことを感じて、「秘書らというのは?」「どんなって言われても、ヒョウ柄で目が細く、睨まれると”ゾクッ!”として」。。。。「ブルブル」と両手を自分の胸にかかえて震えるしぐさをした。そして「3兄妹ですよ。名前はピンさんとポンさん。この2匹が兄弟で兄がピンさんですよ。そのほかに新設の人材派遣部の部長、といっても一人っきりの担当兼部長ですが、その末妹がいますよ。名前はパンさん。おなじヒョウ柄で。。。。最近交通事故で片手を失っていましてね。さっき会場でみかけましたよ!」と。 すぐに警部は「おい!。すぐにこの3兄妹を探せ!」と傍にいた捜査員に命じ、何匹かがすぐに現場から立ち去った。

太郎と二―二は異様な雰囲気の中のロビーに入り、簡単な食べ物と水を受け取り雪之丞一座のいる”粗末”な楽屋に出向いた。雪之丞はステージ衣装を脱いで、やはり軽食をとっていた。

太郎から「お疲れさまでした」と、さも雪之丞の演技を見ていたかのようにねぎらった。二―二は、あてがわれた粗末な楽屋を”きょろきょろ”とながめている。雪之丞に正体を知られてはこまるのだが、雪之丞は二―二に短剣をプレゼントしたことからも、うすうすというか?すでに太郎と二―二 そしてその仲間らの正体に気がついていて、ま~ここは ”阿吽の呼吸”ということか。

雪之丞は、「どうでした?」。太郎は「え~そっちは解決しましたわ。だからこっちのスタッフはもう帰ってしいましたわ。。。。。でもゾッド社長がね~ これはどう考えたら。。。。」 雪之丞から、「今さっき警察のかたがきてヒョウ柄の3兄妹知らないか?聞いていきましたよ。。。」と、太郎の顔を意味深に覗いた。太郎は観念したかのように、「え~、例の件に大きくかかわっていましてね、、、」と。しばらく太郎の顔を見つめていた雪之丞は、「。。。。わかりました。」と。雪之丞のスタッフはなにがなんだかわけがわからず ただ作り笑いをして戸惑っているようすだ。            次回

(45)雪之丞 手裏剣投げの的(まと)にゲンゴローが?!

タレントオーデション会場では 深夜0:30ころに食事と休憩がおわり、大スター雪之丞の手裏剣投げがおこなわれようとしていた。休憩時間のあとのアトラクションいうことでゾッドカンパニーからのオファー(申し入れ)であった。もちろんギャラは通常の演目と同じくらいを払うという好条件であった。アトラクションとは聞こえがいいが、座興・余興の類で、芸人としてのプライドを貶める意図がありありで、一旦、オファーに対しマネージャーを通しお断りをいれてあった。しかしそれでもゾッドカンパニーが市長らに手をまわし外堀から埋めてくるので、”どうしたものか?” と思案中のところに太郎の訪問を受けたのだ。

座長

太郎から失踪事件がゾッドカンパニーがからんでいるのではないか関心を持っていることを告げられ、話を聞くにつれ太郎と二―二の正体をうすうす感じた雪之丞は、子猫らの救出に協力すべくそのアトラクションに出演を決めた。

プロ中のプロの雪之丞はいやな顔を微塵もみせず、”彼女”にとって短い演目に違いないのだがその表情は引き締まっていた。

ほら貝が”ブゥオオ~~」と開始を告げた。名曲、ラベルの”亡き王女のパバーヌ”(解:パバーヌ:二拍子のおごそかな緩やかなワルツ)のピアノ演奏がバックい流れはじめた。そして、さっそうと雪之丞が登場した。

舞台衣装は真っ白のドレスだ。頭にはこれも真っ白な”はちまき”がキリリとまかれ、うす黄色の”たすき”姿だ。食後のあとのざわついた雰囲気が一変した。会場は静まり返り大スターの演目をまじかに見られる幸せを感じた。ゲンゴローはステージ脇でこのアトラクションの開始の様子をせわしなくメモをとっていたが、おもわず、「すごい!」とつぶやき、ただただ見とれてしまった。

雪之丞が、ステージ中央で、その”黄金の目”でぐるりと会場を見て、ステージ脇のゲンゴローを認めた。ゲンゴローは、雪之丞がなにやら”目で語った”錯覚を覚え、その瞬間、”つつつ、、、、ッ”といつのまにやらステージ中央に向かっていた。いや引き寄せられたのだ。

ステージ右には的が用意されて、ひとこと雪之丞がゲンゴローに語り、ゲンゴローはただうなずいて、すんなり的にむかってそのまま横向きに張り付いて固まってしまった。ゲンゴローは夢心地であった。

優雅なワルツが突然止まり、和太鼓の連打が波打つように小さく。。。大きく鳴り響き手裏剣投げの曲芸が始まった。雪之丞の右手にはすでに数本の手裏剣が握られ利き腕の左手に1本握られた。和太鼓の連打が止まった。「エイ!」とすざましい気合が発せられ、固まっているゲンゴローの頭の上すれすれに「!」に突き刺さった。ふたたび和太鼓が「ドド~ン ドド~ン 、、、」と荒々しく連打され、今度はなんと左手に2本の手裏剣が握られた。”まさか” だれしもがそう思った。和太鼓が鳴りやみ緊張が高まった。雪之丞は左足を軸に一回りして、歌舞伎役者の決めポーズの右足を大仰(おおぎょう)に”ダンッ”と床を踏み、もっていた2本をゲンゴローに向かって投げたのだ。「ッ」「ッ」と的に突き刺さる連続音が会場に響いた。見事に、1本はゲンゴローの鼻先ともう1本は首の後ろの的板にある。会場は「わ~」「すごい」「。。。。」と感嘆とともとれるようにざわついた。そのざわつきをよそに、雪之丞はファイナルに移ろうとしていた。ふたたびあの優雅なパバーヌが奏でられ、雪之丞が両手を広げ、足を交互に出し、足をそろえたら背はのばしたまま、優雅に両足を”く”の字に曲げた。この繰り返しを音楽にあわせて踊ったのだ。会場ではそのしぐさをまねるものもでてきた。動きそのものは単調な繰り返しだが、マネせざるをえない優雅さが魅了したのだ。TV中継もされていたから、今後、人の集い、イベントなどで流行(はや)るかもしれない。雪之丞はその曲に合わせひとしきり優雅なダンス舞を披露したところで、いつしか両手に3本ずつの手裏剣をもっていた。

会場がどよめいた。亡き王女のパバーヌのピアノ演奏はバックに流れたままだ。明らかに今度は会場のどこからともなく悲鳴のようなざわめきが発せられ、そのどよめきを制するかのように両手を前に出してから、そして観客に対し、”目”でほほ笑み、しだいに眼光が鋭くなって的にむかって体を一ひねりして、横を向き、的にむかって両手同時にそれぞれの手裏剣3本を放った。「プスッ」「プスッ」「・・・・」とすこし時間差があったものの鋭い音が響いた。ゲンゴローは?

太郎は雪之丞のアトラクションが始まるやいなや、会場から抜け出し、チロらと合流した。二―二もそこにいた。チロらはすでに3匹のモノ言わぬヒョウ柄 ピン、ポン、パンの始末を終えたところだった。

太郎は チロに、「で、首尾は?」。とさっそく本題にはいった。チロはいままで厳しかった表情を崩し、「すべて太郎さんの想像どおりでしたよ。約100匹の子猫らがコンテナーに閉じ込められていましてね~。無事に迎えのバスに乗せて。。。」と。そして大輔が続けた。「ま、コンテナーが空(から)だとおかしいでしょう?それで見張り番の兄さんがたに代わってもらって、。。。さっき船出の汽笛があったから今頃は船旅を楽しんでいますよ!。」「おとなしく、素直にコンテナーに入ったかしら?」と太郎が大輔に意地悪く問うた。大輔は「そりゃま~、まったく静かなもんでしたよ。」と。しばらくして二―二が思わず「プッ」と吹き出して、チロも大輔もチビクロもついに吹き出した。チロは少しして、ヒョウ柄3匹は危険極まる殺人集団であったから二―二と自分が影始末したことを伝えた。

そう聞かされた太郎はしばらくなにか考えていて無言だったが、「そうでしたか? みなさん 影の仕事お疲れさまでした」と。チロはちょっと腑に落ちない太郎をみて「太郎さん、まだ~ なにか?」 太郎は「いいえ、これだけの悪さをするには、もっと大きな”悪がいるのではないか?”と思ったからよ!。ヒョウ柄は殺人鬼であって、とてもビジネスにからんだ悪を仕切れないと思って」と。二―二は「まだ終わってないッていうこと?」と。太郎が「そう、。。。そのとおりよ!」と言い切った。

アルミケースが2個放置されていて、鍵がかかっているからそれを持ち帰ることにした。ずいぶん重い。二―二が、”あきらかにヒョウ柄がゾッドカンパニーから持ち出したものだ”と話し、中身はわからないが、彼らにとってだいじなものにちがいない”と見当をつけた。        次回

 

(44)二―二とヒョウ柄 1:3の決闘

二―二は満月になろうかとしている月を背景にコンテナーの上にたっていた。2段積のコンテナーの上だ。高さはおよそ5m。少し長めの鉢巻(はちまき)が少しの風にたなびいていた。ヒョウ柄兄弟のピンとポンがそれぞれ持っていたケースを脇に置き、二-二のいるコンテナー真下の少し開けた原っぱに向かった。末妹パンはもう到着しているが、なんせ右片腕だから、二―二のいるコンテナー上には登れず、「シャ~」と威嚇して、ハスに背負っていあたすこし短めの剣を抜いた。利き腕は右だからなんの支障もないようだ。長兄ピンが、ひときわ高く「ウオ~ン」と威嚇し「テメ~だな。妹をこんな目に合わせた奴はよ~」と怒り心頭のようすだが、背中から剣をぬき、やはり上を見上げた。このとき体の敏捷な弟がコンテナーの上り口をみつけいくつかジャンプを繰り返し、二―二のいるコンテナーまで到達していて、音もなく二―二に近づき刀のつばに差し込んだ手裏剣を手にし二―二の背後から狙いを定めた。二―二は危機が迫っているのを知ってかしらずか、ただ静かに真下のヒョウ柄2匹を見つめていた。

「ヒュッー」と手裏剣が投げられた。二―二はこのわずかな音と空気の乱れを感じ取って「サッ」とかわし、なんとそのまま「ススー」とヒョウ柄ポンに飛び掛かった。二―二の手が一閃され、「ウワッ」と声を発したとたん見る間に顔面の真ん中に真っ赤な血が流れて、ポンは信じられないという顔つきで、そして血だらけの凄い形相で二―二を睨んだが、視界がしだいに闇に覆われ 「ドサッ」とくずれたあと、わずかに最後の小さな痙攣がおこりそのまま静かになった。ヒョウ柄弟は背中の刀に手をかけたままの姿だ。が、刀が抜かれることはなかった。二―二の手には両刃の短剣が握られていた。

コンテナーの上の様子がわからないから、長兄ピンと末娘のパンは「シャー」 「ワオ~ン」と恐ろしい声で威嚇し続けていた。いきなり5mのコンテナーの上から二―二がジャンプして、2匹のヒョウ柄の後ろに音もなく着地した。2匹にはまったく見えなかった。「おじさんたち こっちだよ」と二―二が告げ、びっくりした長兄があわてて、「小娘め!殺してやる」と刀を青眼に構えた。兄さん「ここは私が」と制するが、「パン、油断するな?一気に行くぜと、ぐるぐる2匹で二―二の周りを回り始めた。しかし二―二はまったく動ぜず、静かに待っている。片腕のパンがまず動いた。修羅場で会得した喧嘩殺法だ。「ヴァ~ン」とするどい刃風を立て、刀を回転させながら間を詰め始めた。一方、長兄のピンは刀を高速で持ち替え持ち替えして、どこから刀が襲ってくるのかわからない。2匹ともやはり殺しに慣れていて非常に落ち着いて、冷めた鋭い目を二―二に浴びせている。二―二はだいじょうぶか?

このころ、子猫たちを率いた影軍団の隊長チロと副隊長大輔、チビクロの3匹が遠くの原っぱで対峙する二―二と2匹のヒョウ柄を見つけた。3匹は、子猫たちの脱出のあと、気絶した与太兄さんやヤンキーたちを、すべて子猫たちが入れられていた動物専用コンテナーに封じ込めてきた。船積はもうすぐだ。兄さんたちはこのまま外国への旅へということだ。荷がすり替わったということだ。

「隊長!」と大輔が言うが、隊長は落ち着いたもので、「ま~ まず子猫たちを無事に逃がそうか。」と、のんびりしている。原っぱを気にしながらそのまま港の出口に向かった。いつのまにかゾッドカンパニーの門前に到着していたバスに子猫らを誘導した。バスの運転手は隊員の飼い主だ。「おやおや たくさんだね~」と。そして別の影隊員らが水や食べ物を子猫らに与え、子猫らはようやく安心したのか静かになりそして安心して眠りについた。

「隊長!」「よし 行こう」と3匹は原っぱに向かった。

二―二と2匹の激闘がすでに始まっていた。3匹は見ているしかなかった。すざましい決闘だ。二―二の短剣は長剣にくらべ不利である。二―二は持手(柄)に巻かれていた皮のひもをほどき、右手に短剣を、左手に皮ひもの先端を持ち構えている。ヒョウ柄2匹の攻撃は息もぴったりで一方が攻め、二―二が躱(かわ)したところにもう一方の刃が鋭く切り込んでくるという具合だ。しかし二―二は2の手も寸手のところで見切って、左右横に上に下にと自在に避けて、ついに「やッ」と声を発し真上にジャンプした。末妹の胴切りをかわすためだ。そしてピンからの背後からの2の手の斜め切りを避け、左手で皮ひもの先端を持ち、両刃担当を片腕のパンに手裏剣のごとく投げつけた。皮ひもは約90cmの長さがある。パンが横になぎ、しかし二―二を捉えることもなく刃が流れた。その一瞬のスキがパンの命取りになった。無防備の首に二―二の両刃剣が突き刺さった。おもわずパンが刀を落とし、右手で首を抑えるもそのまま前のめりで斃れた。長兄のピンは凍り付いた。少しずつ腰が砕けてきた。キョロキョロと逃げ道を探しているようだ。ここで隊長が動いた。ピンの背後から逃げ道を防いだ。すでに背中の剣を抜きいている。パンは隊長に気づき、逃げ道の強硬突破なのか鋭い突きをいれてきた。チロは二―二の格闘技の先生だ。なんなく突きをかわし、ピンの剣を巻き上げ天に放り投げ、そのまま静かに袈裟懸け(けさがけ)を見舞った。右肩と右首筋の境目に刃の先端部が深く当たり、そのまま腰を入れ切り下げた。「む~」と白目をむいてドサと膝をついてそのまま前のめりで顔から落ちてそのまま動かなくなった。

大輔も チビクロもあらためてチロの”殺人剣”を目にし、「・・・・」「・・・・・」。声もなかった。

オーデション会場ではふたたび歓声があがった。どうやら前半の審査が終わって余雪之丞一座の余興がはじまったようだ。            次回

(43)失踪子猫らの救出作戦

オーデション会場からのひときわ喧騒があったころ、肥やし集めに扮装した影軍団のチロ隊長の指揮下のもと、動物専用のコンテナー内に閉じ込められた失踪の子猫たちの救出作戦が始まった。

コンテナー前には、大柄の2匹がいて手持無沙汰のようだ。またその前には7~8匹が小さなグループに分かれて”たむろ”していて、専用コンテナーの船積まで、どうやら見張りを交代で行うようだ。見張り以外、飲食していて、「俺も様子を見てみて~よ~」とか「あ~、どんな娘(こ)らが~」と口々に言い、しかし、見張りリーダーらしいひときわ”えら”がはった多毛質の兄貴分が、「てめ~ら しっかりしね~か!?。ヒョウ柄は容赦しね~ぞ!」と、弛緩した雰囲気を引き締めるが、当の兄さんも会場のひときわ大きな歓声に”何事か?”と、やはり気になってしようがないのだ。

チロは手ぬぐいでほおかぶりしてから、この兄さんたちの中に大胆に入っていった。休んでいる見張り待機組は突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)にとまどった。チロは、「え~と ごめんなさいね!」と。リーダー兄さんがすかさず「なんで~てめ~はよ! あっちへ行け!」 別のものが、「しかし くうッさいな~」と鼻をつまみ、”くんくん”とチロにまつわりついて、待機組の残りのものらも、退屈しのぎにカラかい相手ができたと言わんばかりに集まってきた。「へ~ ”今晩中に肥やしをかたずけてほしい”と会社から言われたもんで~。。。。」チロは、みんなに囲まれても腰をさげて顔さげて、しかし平然と答えた。「くっさいところはな~ あっちだあっち!」とオーデション会場を指す。が、。チロは顔を上げて「え! 野ションがあっちこっちにあると聞いてますが~」。みんなはコンテナー前のあっちこっちに野ションや野グソしていたから、「ハハハハハ~てめ~はよう、俺たちのクソ集めか!?。。。みんなクソ集めだとよ!あっちこっちにあるぜ~、ハハハハハ」と一同にして笑い転げた。

チロは、困ったしぐさをしながら、すこし離れた専用コンテナーがそっと開かれて、子猫たちが隊員の”大輔”とチビクロに誘導されてドット脱出し始めたのを確認した。見張りの2匹はとっくに大輔に手刀を当てられ気絶してコンテナー扉の前にのびてしまっている。脱出は静かにというわけにはいかない。なんせ子供たちだ。自由になったとたん「わ~ん」と泣わめくものもいる。

リーダが気が付いた。「しまった、逃げやがったぜ!」とみんなに告げて、専用コンテナーに向かおうとした。チロがすばやく兄さんたちの前に出て手を横に大きく広げ通せんぼした。「てめ~ 何もんだ!」と突然 気の荒い若い”右片目”がチロに突然飛び掛かった。黒白のブチなのだが、右片目のまわりだけが白であとはまったく黒地なのだ。だから”片目パンダもどき”のようとも言える。チロは攻撃をなんなくかわし、すかさず腰に差していた肥やしあつめのトングを取り出し”片目パンダもどき”のみぞおちに打撃を見舞った。「グェッ」と腹を抱え、悶絶してしまった。これからはチロの独り舞台だ。「エイ!」「や~!」と立て続けに鋭い気合をはっするたんびに、右に、左に、飛び掛かかり、一撃でつぎつぎと与太にいさんやヤンキーを倒していく。いずれも口から泡を吹いて気絶だ。最後に残ったリーダー格は逃げようとしたが、”トトと~ン”とジャンプしてチロが行く手を塞ぎ、トングで一閃した。”ゴッ”と鈍い音がして、へなへなと兄貴が崩れた。

ヒョウ柄兄弟のピンとパンは、そんなこともしらず、社長室のゾッドの様子をみていた。黒装束に背中には少し長めの剣がある。普段着の片腕の末妹パンも会場からぬけでて兄弟に合流した。ちいさな声で、「にいさんたち、あたしをこんな目に合わせた小娘を見つけたわ!」と。兄弟はすこしびっくりしたようすだったが、長兄のピンが「ま~待ちな。きっと仇をとってやるからな。その前にやることがある。」とあごをしゃくって ゾッド社長を見つめた。ピンは絶好の機会とみている。金庫の中身の札束が狙いだ。もうゾッド将軍ことゾッドカンパニー社長は不健康で長くないとみていたし、裏金がしこたまたまった今日こそが おさらばしようと決めていたのだ。あんのじょうゾッドは金庫の中をあけて、札束や有価証券、高価な宝飾類などの貴重品をひそかに眺めている。これを唯一の楽しみとしていたのだ。部屋は小さなあかりがともされていただけなのでうす暗い。そしてしばらくして、まず弟ポンが動いた。そっとゾッドに近づいた。そ~とそ~と。そして持っていたひもでいきなりゾッドの首に巻き付け締めはじめた。無言だ。ゾッドは声もはっすることなく、苦しいのか?手足をばたばたしてしていたが、しばらくしてコトリと手足が動かなくなった。兄が、その間、アルミケースに現金のみを入れはじめた。貿易会社だ。円に加え大半が米ドルで、ユーロの紙幣もある。アルミケースは2つ。2つでおそらく数億ドル相当と見積った。見張り役は末妹のパンだ。いつしか黒装束に着替え、短めの剣を腰に差していた。しばらくして長兄が「終わったぜ!いくぜ!」と合図をした。

「にいさん!」とパンが言って、2つのアルミケースの1つをもった長兄ピンが「お~ これからお前の仇をとってやるからな。さッ、行くぜ! 案内しろ。一気に片付けしまおう!」と。パンに案内されて”仇”のいるオーデション会場に向かった。

いつしか雲がなくなって月がまんまるになって薄光をさしていた。海からの少し涼しい風があった。会場に向かう途中のコンテナーの上から「おじちゃんたち いけないん~だ」と。

なんとの戦闘服の二―二がそこにいたのだ。頭にはすこし長めの鉢巻がまかれ腰には、雪之丞からもらった両刃の短剣があった。    次回