(41)失踪子猫たちの船積

ゾッドカンパニーのオーディションが始まった。ゾッドカンパニーではイベント興行部が中心だ。まず興行部部長が挨拶にたった。ゾッドカンパニーの審査員5匹や来賓をすばやく紹介していく。市長、市議会議員、市の観光課担当などカンパニーと深い関係の役人、役所の面々だ。ファッション誌、専門誌などの記者なども多数招かれている。いわゆる”さくら”記事を載せてもらうためだ。報道機関などもまねかれ、公共紙上でも宣伝を怠らない。そういったファッション、専門誌などにはタレントのプロフィールなども配布されている。役所関連、”さくら”記事掲載のファッション誌、専門誌担当者らには交通費・タクシー代と称して、菓子箱となにがしかの現金が忍ばせてある。領収書不要の小さな裏金だ。手抜かりはない。これが慣習だからだ。だからこのうまみを知った面々はせっせと便宜をはたらき、毎回毎回同じメンバーが集うことになる。会社からの出張手当とは別のおこずかいだ。ゾッドカンパニーのロビーには、未来のタレントたちが会場の裏手に集まったころから、地酒、有名な菓子などが並べられ、必要なら領収書も発行できるような”憎い演出”もある。お土産は普通は自腹だろうが、たいがいの役職者はこれを会社の経費(福利厚生)で処理できるから、腹をいためなくてもよいからだ。その際、金額を上乗せしてほしいという”やから”も出てくる。差額を会社から自分の懐(ふところ)にいれる算段だ。小さな経費の水増し請求だ。これも暗黙の了解で慣習となっている。

一方、2匹のヒョウ柄が睨みをきかし、こわもての兄ちゃんやメス猫も含むヤンキーら10数匹だろうか、捨てられた子猫たちや、ペットショップで売れ残った少し大きめの若い子猫たちを、動物用コンテナーに誘導している。100匹近くいるであろうか?いつもの取引の倍近くだ。もちろん病気にかかったものはいない。病気もちは、あらかじめの健康診断で✖を受けたものは保健所送りで、こうなるともう生き残る術(すべ)はない。人間の都合で”処理”ということだ。もっともゾッドカンパニーパニーの裏の仕事は、殺処分を少なくするという”美談”になってしまう。

子猫たちには これから何がおこるのか不安でたまらない様子だ。小さなグループになって固まっていて、泣きわめいているものもある。監視役は、なだめたり、脅したりしてコンテナーに誘導しているが、ヒョウ柄の長兄ピンと弟のパンは容赦ない。「なにやってんだよ!」と棒や鞭(むち)で地面をたたいて脅す。子猫たちはしゃがみこんで泣きわめくのだが、今日のオーデションの日は会場の騒音に消され、悲鳴はむなしく夜空に溶け込んでしまっている。

この様子を、影の軍団のチロ隊長、大輔副隊長、チビクロが遠くから目撃していた。すでに戦闘服に着替えしている。忍者剣も一振り、背中にしょっている。危険なやからは、ヒョウ柄2匹とみてよい。こわもて兄ちゃんらは日雇いだろう。きちんと戦闘訓練受けていないから体ごとぶつけてくる鉄砲玉だ。こちらはあまり警戒する必要はない。「さて どうするか?」状況が確認できれば、作戦をたてることにした。隊長らは、現場を抑えたなら、子猫らの救出を任務とする。妨害があれば密かに”抹殺”を太郎からもらっている。抹殺対象は ヒョウ柄2匹に絞った。

太郎は二―二を会場裏に送り出して、会場の同伴者席に着席した。ゲンゴローがウインクしてきてきた。太郎はニコニコとしながら黙礼した。ゲンゴローはチロ隊長らの影の動きを知る由(よし)もない。と、太郎は見覚えのあるヒョウ柄を見つけた。末妹の”パン”だ。会場の真ん中横の出入り口ドア付近にひっそり立っている。左腕を失って片手だ。二―二と戦って深手を負ったのだ。

会場はほとんど真っ暗でスポットライトだけが、一段上のステージを照らしている。ガンガン盛り立てる音楽が流れていく。太郎はステージをみることもなく、遠くからヒョウ柄の表情を読んだ。ドアが開かれるたんびに通路の電灯のあかりが差し込み、一瞬ヒョウ柄の顔を確認できるのだ。冷めた残忍な目は変わらない。片腕。まだ傷が癒えていないのか、ただそこに居るだけだが、二―二がこのあとオーデションに出るからどう動くか注視していかねばと思った。二―二はそのヒョウ柄との激闘を制しているのだ。顔を覚えているに違いない。

ゾッドカンパニーのゾッド社長は会場に出向かず、社長室にひとり葉巻をくゆらせていた。不安感はつのるばかりである。手の甲だけでなく背中からもかゆみが出ている。これはゾッド自らに危険が差し迫っているという合図だ。「ゴホ、ゴホ、ゴホゴホ」いつもの空咳もはげしい。ゾッドはなぜか若いころを思い出していた。血塗られた歴史だ。”なぜこんなことを思い出すのか?””このかゆみは?”

札束や有価証券、謎のカギの入った金庫をなんとなく見つめた。ゾッドにとって金庫の中身は彼の人生そのものなのだ。どうであれ、働いて、働いて、働いて、これらの中身と不健康な体だけが残った。  次回 圧倒する二―二のステージ

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