②どら猫事件簿 「失踪」(前編 (1)-(40))

(1)プロローグ

晦日(みそか)の夕方6時ころから、風雪がつよくなり2時間ほどで30センチほど積もり吹き溜まりもできている。家のかべにも雪が付着し、雪にすっぽり覆われ凍える夜になった。暴風雪警報がでている。家のなかでは、温風ヒータがたかれているがちっとも暖かくならない。リビングのまんなかには小さなこたつがあって、おとんもおかんも、東京から帰省しているサオリも縮こまってこたつに足をいれている。太郎と二―二は、せまいこたつのなかで、家族の足をうまくよけながら丸まっているようだ。

こたつのテーブルには おかんとサオリのための地元のワインと日本酒4合瓶がそれぞれ1本おかれている。お気に入りの銘柄で”知る人ぞ知る”逸品である。おとんはまったくのゲコで、おちょこいっぱいが限度であるから、それらはみんな、おかんとサオリのためということになる。

おとんは結局、女同士の飲みながらの話についていけず、こたつにかけてある布団をすこしめくって「おい太郎、足くさか~ね~か?」と、手でちょっかいをかけてくる。「。。。。”あったりまえじゃない!息を殺してるわよ”」と、すこしおとんの手に爪をたて、二―二はすぐさま猫パンチをあびせてきた。「ま~ しようがないわな」といつものように能天気なことをしゃべって、こたつからはなれた。コーヒーでも飲むのか、ポットをつかんで自分の部屋にむかった。

そのころ直江津港の、とある倉庫で茶褐色のオスの猫がおおつぶの汗をかきながら逃げ惑う姿があった。直江津港は、韓国、中国との貿易港で、この日も韓国籍の船が荷下ろししていた。港では船のスケジュールがすべてで、荷役にいたっては昼夜問わず、もちろん年末年始のお休みもない。

コンテナーの影にひそんでいたが、致命的なミスをおかした。荷役のための強いスポットライトが とぎれとぎれの荒い息を、白く反射させたのだ。追っ手は3匹。見逃すはずがなかった。リーダーがあとの2匹に2手に分かれるよう指示し、3方からの挟み撃ちを仕掛けた。

 

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(2)太郎、やしろホテル支配人に?

ようやく10日目にしてくっきりとした青い空に陽光がかがやいた。1.5mもつもったようだ。住人のかたがたはいっせいに除雪をしていて、おとんも近所のかたと世間話しながらスノーダンプで雪を隣接の畑まで運び入れている。おかんも洗濯ものを干すのに大忙しだ。
ご主人宅には赤い花をさかせる山茶花(さざんか)と椿(つばき)が生垣として植えてあってちょうど、人の背の高さくらいある。椿のほうはつぼみがふくらんですこし全体的に赤みを増したピンク色になってきている。山茶花は暮れから咲き始めちょうど3分咲きであろうか?。両方とも、もう20年もたつ。これらが雪の重みでは濃い緑の葉っぱとともにそれぞれが枝ごと”おじぎ”をしていて、雪の白、花の赤、葉っぱの緑が実に見事なコントラストにず~っとながめていてもまったくあきない。椿と山茶花のちがいは、椿がガクごと落花するが、山茶花はガクを残して花びらだけが先に落ちる。
久しぶりの晴天で風もなく5℃くらいだろうか?日陰ではまだまだ積もっている雪は粉状でサラサラとしていて空気は乾いて澄み切っている。太郎は縁側の長椅子に陣取り、ねそべってひなたぼっこを決め込んだ。「あ~う~」ひときわ大きなあくびをして横たえたまま伸びをした。二―二はといえば、無鉄砲にもリビングからサラサラの雪の中に身を投じ、全身真っ白になってそれでもぴょんぴょんはねて「ミヤヤ~ン」と喜んでいる。おとんが笑いながら「犬かい」と。太郎にすれば、「うあ~ 見ているだけでサブ~。若いのね~」とあきれ顔で見ていた。ぽかぽかと日向はあたたかく太郎は気持ちよく眠りについた
しばらくして道路の除雪が終わって、住人のかたがそれぞれに家の中に入った。午後12時を少しまわったころだ。まっ黒い年老いたオス猫が、寝ている太郎のところに現れた。
「も~し」と 太郎のからだをトントンする。「寝ているところすまんがの~」と声をかける。「むにゃむにゃ ZZZZ。。」「も~し」。二―二はお昼ご飯を終え、この黒猫に気づき、「な~に?おじいちゃん」と。「あ~あ。このあいだはえらいもの見せてもらった。二―二さん?だね?」と。「うん。どうしてもあたいたちでブラッキーにけりをつけたくて。」「うん、うんうん」と好々爺の笑顔をみせた。「太郎さんに話をきいてもらいたくて。。。。」と二―二を見て、「もう太郎さんッたら、こうなったらなかなか起きないの。ま、まかしといて。」と。そしていきなり、「起きて!」と足蹴にした。太郎は、長椅子からゆっくり回転しながら「ドサッ」と濡れ縁の床におちた。「なにすんのよ。むにゃむにゃ」と目をこすって、目の前に黒い老猫がいるのにようやく気が付いた。「あれ!どなた?」「お~すまんな。わしゃの~ やしろホテルの支配人でみんなはわしのことを”クロ”とよぶがの~。よろしくな。さっそくだがこれからホテルまできてもらいたいがどうかの~? 二―二さんも一緒にどうかね?」
陽があたたかいし、太郎はすこし考えて、おかんに断わりにいった。「あたたかいうちに戻るのよ!」と家のなかから聞こえ、それから3匹はつれだってやしろホテルに向かった。
ホテルのフロント前の広間のソファにそれぞれがすわって、クロが従業員に合図をしたらほどなくあたたかい飲み物が供された。(猫は猫舌なので本来はあたたかいものは苦手)。この時季、ホテルは旅する猫が少なくがらんとしていたが、あたたかくなると結構混んで忙しいそうだ。クロがすこしホテルのことをはなしてから本題にはいった。「太郎さん。わしゃの~ みてのとおり年だ。せんだって太郎さんと二―二の決闘をつぶさにみせてもらった。じつによいものを見せてもらった。うんうん。。ブラッキーの傍若無人にはほとほとまいっていての~ なんとかやっつけようといろいろ試したんだが~」年寄は前置きが長い。二―二はクロの長い話には興味なさそうで、すぐにその場を離れ、ホテルの中を「キャッキャッ」とかけずりまわってさわがしい。太郎は、クロにむかって、「飼い主があまやかして、躾がなってなくて、ホホホホ。。」とごまかし笑いし、二―二を注意しようと立ちあがろうとしたが、クロはすかさず、「気にせんでよろし!」と手で太郎を制し、「じつは太郎さんにホテル支配人をひきついでもらえないだろうか?。。。ぜひそうしてほしい。太郎さんでなくてはこまる。」と一方的に話をすすめる。太郎は「えッ!」とおどろいたが、ことばがでてこない。クロはさらに話を続け、「ホテル経営ももちろんだが、もうひとつ だいじな。。。。」といっしゅん躊躇し 「その~ ホテル経営のほかにも引き継いでもらいたいものが、、、太郎さんを見込んでのことだ。」と意味深なことを言った。                    次回

(3)太郎 ご主人に相談する

太郎と二―二が家にもどってきた。太郎はやしろホテルの支配人からホテル支配人の就任要請と、重大な秘密を打ち明けられた。太郎は決めかねている。クロは太郎を買いかぶっているだろう。でも重大な秘密を打ち明けたということは太郎になみなみならぬ信頼を寄せた証(あかし)でもある。しかし”どうしたものかね~”。二―二は太郎がなにか考えているようで声をかけなかったが、それでも「太郎さん。あのね。あのじいちゃんになにか言われたようだけ、ここはおとんに相談したら。」と。二―二はそれを言って、リビングでテレビをみていたおかんにむかって「にゃ~ ただいま ゥ~サブ~」といってさっそくこたつにもぐりこんだ。もう2匹とも、こたつ布団を片方の前足で爪にひっかけて撥ね上げることを覚えているから、こたつに潜り込むのは造作もなく、家人の助けはいらない。

太郎はしばらく考えて、”それもありか~”

おとんは部屋で音楽を聴いていて、引き戸をコツコツとたたいても気が付かない。それならと、そっと右前足の爪を引き戸の桟(さん)にひっかけ”ス~”と自分の体が入る分だけ開いて、頭だけ部屋につっこみ、おとんに向かって「にゃ~ ただいま」と。おとんは音楽をききながら椅子に座りながら、本を読んでいたが、ようやく気が付いて、「お~来たか?さ~おいで」と、おとんの膝を”ポン”とたたいて膝の上にさそった。「あらま、うれしい」と太郎はごろごろとのどをならしながらさっそく飛び上がって背伸びして、ご主人の顔に太郎の顔をすり寄せた。太郎はご主人が首やほおをなでなでされると目をほそめ「あ~気持ちい~い」と、すっかり相談事は後回しになってしまった。

直江津港のガントリークレーン 大きなコンテナーを積み下ろしする。

そのころ直江津港の とある倉庫のいっかくに、ロシアンブルーのオス猫が一匹、そしてその周りにヒョウ柄の猫3匹が陣取っていた。ロシアンブルーはヒョウ柄のリーダー”ピン”に向かって、「ゴホゴホ」と胸の奥から不快に響く咳をして「ちゃんと始末したな?ゴホ!」「もうとっくにでさ~ ”ゾット将軍”。この雪だ、死体は雪が溶けるまでまず見つかりっこありやせんぜ。」「それでよい。やつは見てはならないものを見た。」と、首尾に満足そうに葉巻をくゆらせた。

ゾット将軍と呼ばれるロシアンブルーは、貿易商の社長で、取り巻きのひょうがらの3匹は何でも屋で「ピン」「ポン」「パン」という調子いい名前が付けられている。ピンとポンは兄弟、パンは妹になる。何でも屋だが むしろ殺人を好んで引き受ける請負人で、報酬だけで結びついている。ゾット将軍は傍らの金庫から札束を取り出し、リーダーのピンの前に放り投げ、「ほら 約束の残りにプラスしておいた。。。。。」。しばらく間があって、「これで終わりでないような気がする。ゴホ。」 「あっしらに身辺警護ですかい?警護は請けませんぜ。」とピンが言うと「違う!。ゴホゴホ。しばらく大型商談が続く。念には念をいれたい。ゴホ。報酬は別に弾む。」  ピンは弟と妹と相談し、「ま、この雪だ、あたたかくなるまで近くにいまさ~。あっしらが必要になればいつでも呼んでくだせ~」と。

3匹が去ってしばらくして、ゾット将軍はひそかにどこかにでかけていった。

相変わらずガントリークレーンがせわしく動き、強烈なスポットライトが荷を照らしている。月が出て、雪明りの夜だった。次回

(4)前兆

日が長くなってきて、雪もすこしずつとけはじめた。上越では2月が酷寒で、ノラにとっては最も厳しい時期だ。それも終わろうとしている。太郎はホテル支配人になってはや1か月ほどたつ。厳寒期はホテルも閑散としてさしたる仕事はない。太郎は前支配人から”やしろホテルを引き継いでほしい”と懇願されて、おとんに相談してみたものの、おとんは、「あ、そう、それでどうしたい?」と。そして「ふ~ん。猫社会の秩序?影軍団?リーダー?」と、クロから秘密を打ち明けられた影組織に興味を持ったようだ。太郎は”相談する相手を間違ったわ!”と思い、だまっていたが、おとんは「いいじゃないか、太郎は思慮ぶかいところがあるから頼られるかもしれんな。頼られることはよいことだ。警察とは別の自警団のようなものだろう?”統率するリーダー”がいなきゃね!。」
「おとんも気にしてたんだよ。人間の都合でペットブームだろう。ペットが増えれば、飼い主に反発するものもいれば、逃げ出すものや、セックスにおぼれふしだらな生活を送るものもでてくる。 。。。。ながなが。。。。ブラッキーのような精神を病むものもいっぱい出てくるのではないかい?。。。それといつも思っていることがひとつ。子供はかわいい。かわいいから商品になる。でも飼い主がみつからないでお店で成長した猫たちはどうなっちゃっていくんだろう?てね。」
「あっ!」太郎は相談してよかったと思った。能天気なご主人だが猫社会のことをおとんなりに真剣に考えてくれていたのだ。
ホテルで前支配人のクロと世間話しているところに、なにやらせわしなく近づいてくるご仁がいた。腕を組んで顔は下に向けながらである。いきなり太郎に目もくれず、クロにむかって「支配人、おかしい、おかしい!」 「何がだね。ゲンゴロウさんや」「あのう~」とゲンゴロウと呼ばれたご仁が、そばにいる艶っぽい年増に気が付いた。「お!ゲンゴローさん。紹介する。ホテルの新支配人だよ。わしは年だ。もう隠居しましたよ!」と。ゲンゴローはしばらくホテルに顔をださなかったようだ。太郎は顔に見覚えがあった。昨年秋の狩場の決闘の場で気を失っていたご仁だ。「太郎さん 紹介するよ。新聞記者の”ゲンゴロウ”さんだ。そそっかしっくってあぶなくって」 「もう、そそっかしいは余計でしょう!」とゲンゴローは合いの手を入れる。クロはかまわず「この界隈で狩場の決闘を知らぬものはいないんじゃが、このゲンゴロー ブラッキーに出くわしてとたんに気絶しよっての~ うんうん ま、気絶しちまったから命は助かったと思えばよいがの~ 肝心の決闘の記事が書けずじまいよ!アッハハハハ。。」と思いだしたように転げまわった。ゲンゴローは、「それを。。。」とバツが悪そうで手をもじもじさせながら、しばらくして 「”太郎さん”。。ん?!」「エ~~ このおばさんが? エ~~?」と思わず叫び、「あッ」とあいた口をあわてて両手でおおった。あとで界隈で聞いた太郎が目の前にいたのだ。しかもてっきり壮年のオスとばかり思いこんでいたからだ。           次回

(6)神隠し(かみかくし)

オシャム先生(動物病院院長 精神科医)

太郎はゲンゴローの”おばさん”に一瞬 ”ムッ”としたが、笑いころげていたクロが「ママママ」と手をひろげ、「太郎さんすまんのう。ちょいとあわてんぼうで、気にせんでくれ。」と太郎の心中をさっしたかのように間をとった。クロは、「で、何がおかしいんじゃ?」と。ゲンゴローは、「ここずっとね、ネタ集めしていたんだけど、どこそこの娘さんや息子さんがね突然いなくなったといった話がつづいてね、ま、それならそれで、”独り立ち”で旅にでたか、飼い主から飼えないからといって、どこかに”置き去り”ってことはしょうがないんだよな~。ここんのところはネタでもなんでもないんですがね?。で、オシャム先生ところで交通事故でケガを負った大人の猫を取材ついでに、看護婦さんに”最近、身元がよくわからない子猫が持ち込まれたか?聞いてみたんですよ。でも、”そんなことはないわ。そうなったら警察に届けないといけないわね~”と。おかしいだろう?」。太郎は、「別に、おかしくないでしょう?」と話しに割ってはいった。ゲンゴローは引き下がらず、「でもね、市役所横にある警察や保健所にもあたってみたんだけど、、、、何かおかしんだ?知り合いの担当なんかは、どっか旅にもでたんだろうとか とまったく相手にしてくれないし、、、でもいつもは、けっこう世間話もしているうちに、あっちもネタもくれるんだけど、この話になるとそそくさと追い払われて。。。。。だから 別の記者にも聞いてみたら、まったくおんなじなんだ。」

チロ 普段は「△X衛生」(猫の糞尿処理) を営む。影組織の武闘隊長

と、そこへ、肥やし集めの”チロ”がやってきて、少し離れたところから一礼して「支配人、終わりました」とクロに向かって話し、その場から立ち去ろうとした。肥やし集めの仕事が終わったようだ。チロの仕事は「△X衛生」といっていわゆる猫の糞尿処理をしている。仕事のあとはからだににおいがついているから、遠慮したようだ。クロは「チロさんや」と呼び止め 太郎を紹介し、支配人を引き継いだことも話した。太郎はチロをすかさず観察して、”精悍な顔つきと鍛え抜かれたからだつきだわ”と思い、「よろしくね。」と。「こちらこそ」とにっこりほほえんだ。どうも前から太郎を知っていたそぶりがあった。

クロは「チロさんや ゲンゴローのはなしはの~、なんやら”神隠し”のネタなんだそうだ。」 チロは一瞬だが目が”キラッ”とひかり、すぐに「うん~ん」と腕を組み、「わっしも、肥やし集めで、ちらほら、聞くようになってましてね。そうでしたか?」と。チロはなにか心配ごとでもあるのか、帰りしなに、クロと太郎に「近々また来ますよ!」と。

ゲンゴローもしばらくして「さ~て、ネタさがしだ!」と気をとりなおし、ホテルの玄関にむかった。そこへ二―二が走ってきた。「おじさん、ごめん。」とゲンゴローの脇をとおりすぎていった。「太郎さん、”おとんが戻れ!”ッて」。太郎は「あッいけない。もう外は暗いわ~。。。」と腰をあげた。ゲンゴローはというと、さきほど脇を駆け抜けていった”二―二”を振り返ってみて、そして”ぽか~ん”と口をあけた。

(6)くわだて

冬の妙高山

ここは市役所の最上階の貴賓室だ。大きな窓から雄大な”妙高山”が見える。妙高山は標高2454mの活火山Cにランクされ、妙高戸隠(とがくし)連山国立公園に属す。この美しい活火山は山麓に豊富な温泉をもたらしている。

”一郎”と呼ばれる上越選出の”猫社会全国議会”議員が、貴賓室で雄大な景色を独り占めしていた。”保健省”の事務次官の肩書をもつ。大臣に次ぐNo2である。このNo2という職位は、大臣の政務の全般を受け持つ裏方で、表にはめったに出てこない。徳川幕府の老中の側用人といったところか?大臣に代わって強大な権力をも手にすることができる。なぜなら、複雑多岐にわたる政務情報の”分析・整理整頓そして選択”は事務次官の仕事といえる。これらの職責は次官個人にとっても別の”うまみ”をもたらすことになる。しかも矢面(やおもて)にたたないから、見方によれば、”巧妙”に立ち回れば、これほど都合のよい職責はないであろう。

“一郎”は”建設省”大臣までのぼりつめた父親の選挙基盤を受け、2世議員で当選した。が、長く父親の秘書をやっていて、”大臣は、だれかの人形にすぎないのではないか?” を思い知らされた。それなら大臣を使ってこの国の政治をあやつることにすればよいと決めた。それには途方もないお金が必要だ。お金は利権がからめばおもしろいほどあつまる。しかし。。。

知事、市長、警察本部長が挨拶に顔をだしてからそのほかはだれもこの貴賓室にちかよらない。一郎はひとりでこの部屋にいるときが好きだった。

「トントン!」ドアがノックされ 秘書から ”ゾット将軍”が来たことを伝えられた。                               次回



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(7)影軍団の全貌

2月も終わろうとしていたが、まだ積雪は1mを超えていてまだまだ凍える日々が続いた。太郎は、数日前 肥やし集めのチロから相談されたことを思い出した。やしろホテルの前支配人のクロ翁(おきな)から この肥やし集めのチロこそが影軍団の隊長だと知らされた。こざっぱりとカジュアルに決めている。人を射抜くような澄み切った目と精悍な体つきとスキのない姿勢から一目で武闘の達人とわかる。
話には前支配人クロも同席して、隊長のチロが切り出した。「うちの近所に足助(あすけ)さんというアメリアカンカールの若い青年がいるんですがね、最近ぱったり姿を見せないでいて、”どうしたのかしら?出張?” ”たしか2カ月くらい前からだったよね~」と近所の”追っかけ”おばさんたちが話してましね。。」太郎は「どこにお勤め?」 チロは「たしか直江津港のとある貿易会社と聞いてましたよ。好青年で、英語、韓国語、中国語もできて、”仕事が面白い”と話ししてくれてたんですがね。」 太郎は「おかしいわね。。。」と考え込んで、「このあいだのゲンゴローさんの子供たちの”神隠し”の話といい、いやな予感がするわね。」元支配人のクロは「太郎さん いやな予感とは?」。太郎はだまって、「ただ そう思っただけ。いずれにしても家のおとんが勤めてる会社の貿易担当責任者なの。一度 雪がすくなくなってから直江津港につれていってもらうわ?その時に”足助”さんがいるかどうかも聞いてみる。」 チロは、「貿易会社としかわからないんですがねどうやって?」 太郎は「外国猫で”足助”って名前は。。。」 元支配人クロが「アッ そうか!」
隊長チロは話題を変えて、「ところで隊員のみんなを招集して顔見せをいつごろに?それぞれが違った職種でね。教員もいれば、消防隊員もいるし、現役の刑事や、会計士もいますね。みな影組織の趣旨に賛成してくれて、ボランティアですわ。」「隊員は何名?」と太郎が聞くと、「いまんのところ 武闘組は6名、事務方は10人。ほら動物病院のオシャム先生もですよ」と。チロがつづけて「みんな顔見せを楽しみにしていてね。。とりわけ 狩場の決闘で太郎さんや二―二の大活躍が口コミで広まってね、、特に二―二とぜひ試合してみたいと武闘組から声があがってましてね。」
「あ~太郎さんや!ひとこと」と元支配人クロが太郎にむかって、「ゲンゴローには影組織のことはくれぐれも内緒で。オシャム先生には否応でも趣旨に賛成してもらいました。もしケガしたりときの手当や、倒した後の始末があるんでね。ま、オシャム先生には趣旨をこころよく理解してもらいましたよ」。と、言うことは、”影組織の存在は、太郎と二―二と、チロ隊長とその仲間たち、そしてオシャム先生ということか。。。” 太郎は改めて重荷を背負ったことを知ったのだった。
太郎は 「わかりました。桜が咲くころ ここでどうでしょうか?二―二は毎日、木登り、ジャンプ、宙返りして体を動かしていて、影組織の話をあたしと聞いてからそのつもりでいるようですから。」と。太郎のこころのなかでは”すっかりかわゆくなって あ~ああ 私のわかいころに、アッ いけない あの、おてんばに嫉妬かしら?”
チロは「それまでに、足助さんや神隠しの件を隊員たちにも聞きこむようように伝えておきますよ?」と。 クロも 「そうじゃ、ゲンゴローにも聞いてみようかの~」 それぞれの役割が決まった。
太郎は。「このいやな予感はなんだろう?」と再び思った。   次回

(8)巨悪がふたたび

ふたたび、市役所の最上階の貴賓室。外は、さっきまで晴れていたが、雲の動きが早くなってたちまちパチパチと霰(あられ)のような粉雪が窓に打ち付けはじめた。モノクロの世界に戻って、妙高山もすっかり見えなくなった。
一郎とゾット将軍は旧知の仲だが、ともに抜け目がなく小さいころから”うま”があった。が、お互い心を許すわけではない。おとなになっても、彼らを結びつけるものは”お金”である。
一郎は、個人の蓄財と、自身の議員としての安泰を狙ってとにかくお金に貪欲である。人間世界のように衆参2院制ではなく、1院制であり、小選挙区、比例代表となっていて一郎は金にものを言わせ、常に比例名簿で1位を占めている。だから選挙で自分自身の政策や大義を訴える必要もない。仲間の党では、お金で買った幹事長の地位を長く勤め、党の人事とお金を手中に納め、存在感を増してきた。そのこともあって、もはや政敵もおらず法律も個人の利益を優先させた。政治XX規正法など、表向きは世間がなっとくし、じっさいはザルザルの抜け法案だ。もちろんマスコミにはタイミングよく政敵のスキャンダルをリークして法案の内容をうやむやにしてきた。
ゾット将軍は、貿易会社のほか、イベントの興行が主である。いずれも中堅を超える大きな会社の社長である。こちらは恐喝、贈賄(ぞうわい)など相手の弱みに付け込んでのし上がって財を築いてきた。
豪華なソファに2人が対面に座ってからしばらく無言の時間が続いた。ゾット将軍の湿った咳がときたま「ゴホ ゴホッ」と響き、一郎が「うまくいっただろうな?」。「ゴホッ ここに」と携えてきた△△ビトンのかばんから札束をとりだした。「これは暮れの分と、2月はじめの分です。10束あります。」「ほうほう」と一郎が喜んだ。分け前のようだ。
「で、なにか問題は?」と一郎が聞いて、「ゴホ ゴホ、実はちょいと面倒もあったのですが、こっちはかたずきました。」 ゾット将軍はさらに「殺処分の子猫たちをペットショップ側から処理料をいただいて。。ゴホ、その子猫たちを輸出して、、、先生があっての芸当ですね」。
一郎は保健省の事務次官だ。名目は子猫たちの”殺処分の100%回避”で、保健所に手を回した。もちろん警察やマスコミも巻き込んで慈善家ぶりを装った。ゾット将軍は子猫たちの受け入れのため人材派遣会社を立ち上げ、飲食店や介護に、またタレントなどイベントの興行会社の見習いとして派遣するようになった。もちろん美人局(つつもたせ)などもありで、弱みを握り、恐喝の手段としても利用するというとびっきりの悪(わる)である。加えて、ペットショップでの殺処分依頼はペットブームもあって増える一方で、派遣会社でも受け入れできる分は限られている。しかし、体裁(ていさい)を装い、巧妙にカムフラージュして、実態は、そのほとんどが輸出されてしまう人身売買である。市からは補助金がでていてしかし赤字を装うことで法人税逃れもしている。市の補助金は先生の一声があって予算化された。そういったことがあって以前にまして各段に大きな利益を得るようになった。目前の札束は先生に”おすそ”わけというわけだ。しかしゾット将軍の利益は莫大で先生にはほんの一部でしかなく、ゾット将軍の強欲で狡猾さが垣間見れた。のちにこの強欲さが命取りになるとは。。。ゾット将軍はまだまだ知らない。
「ゴホ! ところで先生、ペットショップの子猫たちは、外来種ばかりで日本猫がまったくいないわけで、、、」「なにが言いたい!!」 「ゴホゴホゴホ、中国、韓国からは、病気に強くって人なつっこい日本猫の子供をさらに高い値段でというオファ~があってですよね、私としてはゴホ!」「ま~ゾット将軍でやりたいことをやればいい。税関か? 税関のことなら任せておけ!ただしわかっておろうな?これッこれッ」と眼前にある札束を指さした。「それは もう!(”チッ、強欲め!)」と顔色に出さずそう答えた。
会談はそれで終わり、一郎は、この税金を自分のバックにしまった。報酬として受け取った裏金だ。年、数億が裏金として手元に入ると見込んだ。  次回

(9)ミステリーの常識
サッカーもプロ野球も開幕を迎え、すこしずつ春めいて、ご主人宅のソメイヨシノのつぼみがすこしずつふくらんで、木全体が淡いピンク色にそまってきた。二―二はサッカーの激しい動きが好きで家の食卓テーブルの上で猫すわりしながら、それ そこだ!とパンチを出しながらみている。「まったくこの子は。。。」とおかんもあきれ返っている。一方、太郎はおとんの部屋でミステリーの再放送をみていた。ミステリーといっても、特に時間トリックや密室ものなどが好きだ。おとんに用事があって部屋を訪れたのだが、おとんは珍しく見入っていてだまっている。いつもは、太郎が見入っていると、「おッ これはな XXXが犯人だ」と無神経なことを言って興ざめするのが落ちだった。太郎も用事をわすれて、しばしおとんに付き合うことにした。

突然、「う~ん。わかった!」と手をうち、「きっとこいつだ!」。太郎は、まだまだ話が見えてこないから、おとんに同意しない。「にゃ~にゃ~」と抵抗する。おとんは「そうか?こいつしかありえないがね~」と腕をふたたび組みなおしした。途中までだが犯人はまだわからないようだ。

急におとんが何を思ったか、「太郎、ミステリーの常識をしらないだろう」と見入っている太郎に質問してきた。”またショーもないことを言うんだろう”と思いながら、「ふん ふん」と、ここは聞きながすのがいちばんと無視することにした。おとんはまったく太郎を意に介せず、「そうか、わからんだろうな?ま、おまえの頭じゃな~」といつもの調子でいじくってきた。「そうか教えてほしいか?」と一方的に、「ほら ミステリーの常識、いや法則かもな。。。」すこし間をあけて 「犯人は、かならず登場人物の中にいる。どうだわかったか!これが法則だ。」と。太郎は無言のまま”なんじゃこりゃ~ 何を言い出すやら。もうやだ~”と目をぱちぱちさせた。”おとんには本当にびっくりだわ!。これで本当に会社の貿易責任者?” と。その後もおとんはぶつぶつ「これはこうだ」とか 、、、がやがや、、、 と続けたようだ。太郎はミステリーに引き込まれた。おとんのながなが講釈は耳にいれないことを会得したのかもしれない。

ミステリーが終わったところで、太郎は気を取りなおし、「あのね、私と二―二を直江津港まで連れ出してほしいの。海をみたことないし、ご主人がよく行っているというし。。。」「へ~ 港に興味かい。よしちょうどよかった。明日 日曜日だし、天気もよさそうだ。車をつかうよ!」と、二つ返事してくれた。次回

(10)二―二がデビュー

満開の桜

4月半ばになって、ご主人宅の桜が満開となった。空は真っ青に晴れて気持ちいい朝を迎えた。スズメが「チュン、チュン」鳴きながら、桜の花の求愛行動していて くちばしで花柄(かへい)[説:”がく”から下の柄]をちぎっては下に落としている。花びらがついたままだから、花柄をしたにしてゆっくりと落ちる。ちょうど小さな竹とんぼのようだ。まだ茶褐色の地面がむき出しになっていて、ところどころに新緑の草が生え始めたばかりだが、桜のはなびらが斜めに保たれたまま地面に落ち着いて、この茶褐色と緑と淡いピンクのコントラストは実にみごとである。太郎はご主人宅に住み始めて今年で2回目だ。やはり桜はいい。咲き始めのピンク、満開の心もはればれとする見事さ、花柄ごと散りばめられたコントラスト、散ってからの花びらの絨毯(じゅうたん)そして花が終わったあとの新緑の葉っぱの芽、これらはわずか2週間という短いサイクルである。二―二は3回目だ。もうちゃきちゃきのオテンバ娘で、今日も早朝から満開の桜の木に登り、枝先から2mもあるだろうか、駐車スペースの簡易屋根に大ジャンプ。そして宙返りしながら着地。これをなんどもなんども繰り返している。二―二にとっては朝の鍛錬といったところか?枝先がわずかに揺れるが、花びらがまったく散らないい。スズメも求愛行動をやめて二―二の鍛錬ぶりをみている。太郎の鍛錬ぶりをそっと見ている大小の黒猫2匹がいた。「兄貴~ すげーものみちゃった。」兄貴とよばれた大きな黒猫は”ぽか~ん”として返事ができないでいる。そして「ごっくん」と唾をのみ「がくがく」とうなずくだけである。突然二―二が2匹の視界から消えた。チビくろと大輔と名付けられた2匹は伸びあがって”きょろきょろ”して「あれ~」「あれ~」と見回した。

と、突然、空から音もなく二―二が舞い降りて、「おじさんたち、こんにちわ?」と2匹の眼前でにっこり微笑んだ。チビくろも大輔も不意をつかれて物も言えない。しばらくして「ぽっか~ん」と2つの口があいたままになった。目の前に美少女がいて、それがにっこり微笑んでいるから、もう「きゅ~ん」とするしかない。「およよ。。。。」とそれぞれにうろたえて、「あああ、あのうおいらが だだだ。。。。大輔」「おおおお、おれはチビくろ」とやっと自己紹介した。二―二は小さな声で「もしかしてオジサンたちはあたしたちに?」と濡れ縁で猫すわりしている太郎をみながら話しかけた。「んだ んだ」とお里が東北かもしれないなまりで答えた。

チビくろと大輔は「いや~いや~ 恐れ入った。あれほどとは。。。」「兄貴~すごい、すごい美人ですね~」「まったくだ」「練習試合はおもしろそうですね」と、二―二に感嘆して そしてやしろホテルにむかった。チビくろと大輔は影軍団の武闘隊員で、忍術の技を会得しているのだ。

太郎は二―二と2匹の大小の黒猫とのやり取りをみていて、「そうか 今日か」と思い出した。しかし太郎の頭の中はおとんに先日つれていってもらった直江津港のことが頭にあった。寒い風が強かったせいもあって、おとんは港近くの倉庫の前に止め、事務所に入っていった。日曜日だが係員が常駐していて打ち合わせがあったようだ。太郎は窓越しから、雪が溶けた港をながめ、「あれが海なのね~ ひろいわ~」と。二―二はとなりでコンテナー置き場に なんかガラがわるそうなノラが10数匹屯(たむろ)しているのを見て、「やだ~感じ悪~」、、「こっちをみてるから太郎さん隠れましょ~よ」。と。太郎も気が付いて、「あ~あ はんぱものかしらね?」と。たしかに防波堤に釣りしている人が多いし、「魚のおこぼれもあるわね~」と言いながら気が付いた。遠くにあるコンテナーの一つの扉がひらかれ、箱状の荷物がいくつも運び込まれているのを見たのだ。わずかだが、海からの強い風にのって、「助けて~」と聞こえたような気がした。それを思い出していた。                  次回

(11)二―二と武闘隊員との練習試合はじまる

お昼になった。食事を終えた太郎と二―二が連れだって”やしろホテル”にむかった。近所のおばさんたちが、「おや、散歩かい」「車に気をつけね」とかあれこれ声をかけてくれた。晴天だ、桜も満開だ。おばさんたちは高田城址公園の桜をいつ見に行こうか相談していたようだ。高田城址公園の桜は3大夜桜のひとつとして上越市も全国にアッピールしている。公園内には幾種類かの桜約4000本が植えられ、約3000個のぼんぼりが吊るされる。ライトアップされたお城と桜、そしてお濠の水面(みなも)に反射する幻想的な風景は人の心を奪ってしまう。この時ばかりは、人、人、人でごった返し、乗用車のアクセスも規制されてしまう。露店や大道芸人なども出て酒を飲みながら桜をめでるといった人間社会独特の行事で、ま、猫社会にはまったく無縁である。

2匹は、隊員たちの待つホテルうしろのだたっぴろい草原(くさはら)に向かった。ここは”狩場の決闘”の場所に近い。柿の木が見える。春先のいまごろはまだ葉っぱもでていない。秘密裡に召集されたとは言え、ホテル客や近隣の老若男女が少しずつ集まってきて、がやがやしている。口々に「なんか練習試合があるみたい。」「屈強な人たちも集まってるから空手大会?」「いや~運動会かもしれんぞ!」と。実際、近くの小学校では春に運動会があるし、少年少女の空手の大会もある。おとんは娘のサオリが有段者でもあり大会運営のお手伝いもしたことがある。

広場への立ち入りは関係者のみで、外野は遠巻きにみるか、ホテルの部屋からみるしかない。宿泊客には思わぬイベントとなって、原っぱに面するまどから、大小の顔がのぞいていて、それぞれが双眼鏡やカメラをもって今か今かと待っていた。前 支配人クロが太郎と二―二を隊員たちに紹介した。武闘隊は6匹。練習用の個人用格闘着に着替え、それぞれが色とりどりの鉢巻をして気合をいれている。事務方隊員は普段着のままで、太郎と二―二の挨拶が終わったら、はらっぱの片隅にしりぞいて大きくその場を開けた。隊員であるオシャム先生は、もちろんけが人が出た場合の待機をしている。武闘隊長のチロは審判を務めていて試合に臨むのは午前中に会った2匹を含め5匹となる。武闘隊員は日ごろチロ隊長の指導で、月4回の練習を重ねていて、武闘の上達ぶりを確かめる場ともなった。それぞれに体力と技には自信をのぞかせていた。

隊長のチロは、二―二も含め3対3の東西組を選んだ。勝ち抜きで先鋒(せんぽう)は東二―二と西のチビくろであった。二―二もこの時ばかりはおかんに用意してもらった練習着に着替えていたが、なにをどうおかんが勘違いしたのか、表は青字に白いふりふりの縁取り、裏は鮮やかな赤地の小さなマントつきだ。鉢巻は、なんとなんと腰に達するながいもので、”xxxム~ン”を連想させた。どうしても白か紺色の地味な隊員の胴衣とちがって目立ってしまう。隊員たちは、まずこの二―二の大胆な、勝負服ともとれる練習着に度肝をぬかれ、そして面と向かうと、神々しいほどのオーラがでていて不思議な感じがしていた。それもとびっきりの美人だ。二―二は自分がどう見られているかわからないままだ。

初めての隊員との手合わせだ。最初にチロからルールは”空手で、寸止め”となった。隊員は柔道、剣道、空手、合気道など武術全般を一応こなすが、ヌンチャク、手裏剣、弓なども得意にしているものもいる。太郎が指揮をとる影軍団だ。が、武闘にはからっきしだから詳しいことはまったくわからない。それでも元支配人、いまや相談役となったクロとともに中央に腰をおちつけ猫すわりした。

先鋒の二―二とチビくろの試合がはじまった。チビくろは小さなからだをいかし、密偵が主な仕事とクロから教えられた。忍者のように身がかるい。チビくろはさっと身をかくした。匍匐(ほふく)前進で二―二に近づいて攻撃を仕掛ける作戦だ。原っぱの緑に完全に同化して姿が消えた。二―二はその場で立ったままである。二―二は気配を感じたのか、いきなりその気配に向かって大ジャンプした。そしてストンと近くに着地して「おじさメっケ」と猫パンチの寸止めをした。どこでどうなっているのか、外野にも太郎からも草にかくれてまったく見えない。ピョンと草丈を超える二―二の大ジャンプがほんの一瞬見えただけであった。しかし、チロが、鋭い声を発し「勝負あり!二―二の勝ち!」を宣言した。忍術の「隠れ身」の術が見抜かれた時点でチビくろの負けは決まった。「う~ん いままで破られたことがなかったのにな。。。」と悔しがった。    次回

(12)二―二対5匹の隊員との勝負

「勝負あり!」「勝負あり!」「勝負あり!」「勝負あり!」 チロは二―二の勝利を立て続けに告げ、ついに師範格の”大輔”との試合になった。東西に分けていたが、二―二はほとんど一瞬で勝負をつけてしまった。「おじさん ここよ!」とか「見切った!」とか、もう1対1ではまったく歯が立たない。大輔は午前中、満開の桜の木のしたで、チビクロとともに二―二の鍛錬を見ていて、”こりゃ~武術の天才だ”と見抜いていた。それでも己(おのれ)の技量の確認もあるからどうしても立ち合いで実感したいという思いにかられていた。武者震いし二―二に向かった。「待った!」チロが試合を止めた。チロは指揮官の太郎に相談しにきた。
「太郎さん、私からみても、もう 力の差は歴然としていて、、、、」太郎は「どうしたいの?」 チロはまだ息があらい隊員たちをみて、すこししてから、「隊員5人で二―二と勝負はどうでしょうか?」「え、1:5?」と太郎は困惑を示した。チロはつづけて「獲物も各自、得意なものを持たせ、ケガのないよう竹刀(しない)や歯が丸い練習用の手裏剣や矢じりを丸いものに替えた弓を使わせて、、、 もう実戦形式がいいと思うんですがね。」 クロ相談役が「チロさんや、それはなんでも。。。」と難色を示した。二―二はというと、涼しい顔でストレッチしている。太郎は、”技量などよくわからんし~ ただチロの”勝負あり!”の声で勝負の決着がわかった”ようなもんだ。太郎は「ここは二―二に任せるは?」と答えるしかなかった。チロ隊長は、二―二に何事か話して、すぐに二―二が、「それなら短い棒がいいわ。」と実戦形式の試合を快諾した。チロは短い棒と聞いて”短い練習用の棒は準備してないな~。どうしようか?”、と、少して考えて、「お!そうだ!」。
オシャム先生は手先が器用で、竹笛や尺八などをこしらえていて、時には患者のみんなと合奏することもあるという。チロは竹の横笛を借りようと万一のけが人の手当すべく待機していたオシャム先生のとこに向かった。チロはおしゃむ先生が笛作りを通して、ケガをした入院患者のリハビリに役立てていることを知っていたのだ。幾本もちがった種類の竹笛を持ち歩いていたのだ。もちろん演奏会もひらき、精神を病んだ猫たちの癒しとしている。
二―二は一番短い竹笛を手にとって、ビュンビュンと振り回し感触をたしかめ、「あれ~、穴がいくつもあいている」穴をふさいだりすると音が変わることに気が付いた。
大輔は竹刀だ。ほかにも2匹の隊員が竹刀だ。チビくろは練習用手裏剣と決めた。もう一人は長身をいかし、身長の2倍もあろうか?長い棒で先端が柔らかい布切れで丸く縛ってある。
二―二と5匹の隊員たちが対峙した。そして大輔の合図で二―二の周りを取り囲んだ。統制がとれている。やはり、チームで戦うほうが、個の力がより発揮できるのだ。いままでの個人戦とはまったく異(こと)にしていた。外野からは「ひで~な~ これじゃ いじめだろ~」、「シバキじゃない~?」「かわいそうに、なんまいだ~、なんまいだ~」と、拝む年寄りもでて ざわついてきた。                         次回

(13)信じられない!

外野がどんどん増えてきた。その中には、新聞記者のゲンゴローも汗をかきかき飛んできたようだ。この界隈にはゲンゴローの知人も多く、ネタになりそうなことを連絡してくれるのだ。ゲンゴローも 「あれッ!タローさん、あれッ!クロ支配人も、シャム先生までも、」といいながら突然やしろホテルの影から飛び出した光景に思わず目を覆った。5匹の大小のいかつい連中がちょうど誰かを囲むようにして竹刀や長棒を持ちリズムよくいっせいに同じ足をだしたり引っ込めたりしていて、ぐるぐる回りながらしだいに囲いを縮めつつある。5角形の囲みの真ん中にはなんと先日見た 太郎さんところの、たしか二―二?と言った娘がいる。外野は「見ちゃおれんよ。。。」「きゃ~ だれか止めて!」とかうるさくなってきた。5角形がくずれ、一番小さい黒猫が近くの杉の幹につかまった。そして少し高く昇って、幹と同化させた。手にした手裏剣がいつ投じられるのか、同化しているのでまったくわからない。

二―二の勝負服のマントが少し揺れ、竹笛を上に挙げくるくる回し始めた。「ひゅ~ ひゅるる~ ひゅ~ ひゅるる~」竹笛の不思議な音色(ねいろ)が響き渡った。

ちょうど正三角形の角に位置する竹刀組が一斉に竹刀を振り落とした。「トゥッ」「オリャ!」 そしてひときわ甲高く「ヤッ!」と。大輔だ。そしてすこしタイミングをずらして長棒が二―二のいた真ん中に突きを入れた。外野も隊員たちも、チロもクロも、太郎も オシャム先生も信じられない光景を目にした。二―二は静かに真上にジャンプして攻撃を防いだばかりか、交叉した竹刀と長棒の上にふわりと着地したではないか?みんな金縛りにあったのか、2の手ができないでいた。しっかりと二―二が絡めてしまったのだ。頼みはこの状態でチビくろの手裏剣だ。大輔が「いまだ!」と合図した。3つの手裏剣が同時にチビくろから放たれた。二―二はしかし予想していたかのように、竹笛を横に薙(な)ぐと、”ピュ~”とひときわ高い音がでて、”パシ”、”パシ”、”パシ”と手裏剣がはじかれて、あろうことかチビくろのつかまっていた杉の幹にぶつかって”カラ~ン” ”カラ、カラ”と乾いた音をだして地面に落ちた。チビくろの顔をかすめ 手をかすめ 股をかすめたのだ。「ひゃ~!」

「勝負あった。」チロが宣言した。二―二は乗っていた竹刀や長棒の上からジャンプして、囲みからすこし外れて音もなく着地した。長いリボンが優美に残像のごとく流れた。まわりは、しばし我を忘れてシーンとしている。竹刀組は、なかなか交叉した竹刀を外すことができないでいた。手がしびれていたのだ。「どうしたのだ!」とあわてふためいていた。チビくろは 恐ろしさに”いちX△”が縮こまって思わず失禁した。

ゲンゴローはつぶさに勝負を見てさっそくメモを取り出した。”天才剣士美少女 二―二 見参!”なんかはどうかな~ ”ニューヒロイン誕生か?”とか、”久々に興奮する記事がかけるかな~”と。

体の汗を拭いた隊員たちが、「まいったまいった、どんな手品だ?」「姿が突然消えて。。。」とショックは隠せなかった。

太郎が発案して、これから花見を兼ねた懇親会を開くことになった。ゲンゴローも加わった。みんな、チロ隊長から話をきいてから、神隠し?や足助さんの行方?も気になるからだ。ゲンゴローには内緒だが、隊員には小学校の先生や、警察官もいる。名目は試合後の懇親会だが 先の案件の情報交換をかねてのことだ。事務方もほとんど参加することになったが、オシャム先生だけは、急患の知らせがあってすぐに帰ってしまった。                               次回

(14)足助の死と子猫たちの失踪

懇親会では、すこしお酒も出た。といっても人間様の酒の類(たぐい)と違う。マタタビである。マタタビはその成分が猫たちをトロ~ンと酔わせる。実際、食欲不振のときにマタタビの粉を含ませた餌を食べさしたり、マタタビの乾燥した枝木を遊び道具とすることもある。

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感想(2件)

二―二はゲコでまったく関心を寄せないが、太郎はいける口で、隊員たちの間を回ってじょうずに話しをしている。酔って饒舌になった警官の隊員から、「いやね!おかしなもんで、子猫たちの失踪届けはあるんですが、「事件」でないからリストに載せるだけなんですよ。でもね最近はやたらと日本猫の子猫が多くなってきてね。ま、おかしいとは思ってますが、”よくある旅に出た” ということでかたずけられてまして。。。」。教師の隊員からも、教室でも児童らの長期欠席がちらほらあって、”さすがにおかしいだろう”、と、不登校、病気 ケガの線で調べてますよ。」と。そうしゃべって、また仲間の隊員たちと”二―二の強さと美しさ”に話題を変えた。

太郎は、いままで気がかりなことを思いだして、みんなに向かって「だれか知りません?ペットショップで不幸にも飼い主が見つからなかった場合は?」 「うい~」少し酔っぱらった隊員が、「おいらは保健所に勤めてますが、いまは”ゾットカンパニー”という会社に引き取られてましてね、この会社は人材派遣会社だそうで、外国種がほとんどだから、通訳として活躍できる職場に紹介されていると聞きました~よ。ヒック!」

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太郎はゲンゴローの前にきた。マタタビには手をつけていない。なにやらせわしなくメモをしている。新聞のゲラ記事でも書いているのだろうか?

目の前の太郎をみて、「いや~ 太郎おばさん!」といきなり口が滑ってしまった。「ゴつ!」「いたたたッ なにするんだよ」。横に座っていたチロ隊長が「あいかわらずだな・・・まったく」と。太郎は”ムッ”としながら「おばさんは余計よ、余計!」 ゲンゴローは 「おばさんだろう?じゃ~ なんて呼べばいいんだよ!」と無神経にも”おばさん”を繰り返して 再び「ゴつん!」と体重がのった猫パンチが飛んだ。「痛ッテ~」とゲンゴローはバツがわるそうにして黙ってしまった。「で、どうなの何かつかめたの?」。ゲンゴローはまたたびをなめて、すこし勢いをつけて、「足助さんが交通事故で死んじまったよ。間違いない。」「え!」「エ!」と太郎とチロが一歩乗り出した。しかし、ゲンゴローはそう言ってから、顔を下にむけてインスタをみていた。はやくも、練習試合の場面がたくさんアップされていて、もちろん二―二の度肝を抜く派手なコスチュームと二―二の美女ッぷりのものばかりだ。ゲンゴローとしては、もう明日の新聞記事のTOPをどうするか頭の中に描いているようだ。ゲンゴローはインスタを見ながら、「昨日、交通課を取材していて、さっき記事にしてきたばっかでね。」と。ゲンゴローは増え続ける交通事故死にはあまり関心がなさそうだ。

太郎とチロは顔を見合わせて、チロから「ゲンゴロー、少し詳しく話ししね~か!俺の知り合いだ!」と首根っこをつかんだ。「痛ててて。。 何にしゃがんだよ。」と少しむくれて、「職場の近くの歩道に倒れていてさ、雪が溶けたんでようやく発見されたって。からだ全体に損傷があったから、ま、道路脇だったので、交通事故死とされて、身よりもないことから たしか今日、荼毘(だび)に付されるんじゃなかったかな~?」 太郎は「確かでしょうね?」と。「交通課の人が社員証があったといってましたよ。”ゾットカンパニー”って。直江津港にあると。」 おもいがけず、またゾットカンパニーの名を聞いた。                            次回

(15)二―二 新聞に掲載される

翌日、ゲンゴローが執筆した”日刊Catタイムス”が写真付きで1面に掲載された。「やしろホテルで格闘技の大会開催、ニューヒロイン誕生!」。写真は二―二のちょうど着地した時の決めポーズの時のものだった。派手なコスチュームとリボンの流れが動的にすこしボケていてリアル感が増したもので、投稿者からのものと注釈してあった。なによりも二―二のキュートさにカメラの焦点があっていて、試合していた相手のほうはボケて薄れてしまっていた。同好会の大会とだけ記されていて参加した選手名など一切が省かれていた。

今は文字を読まない世代が増え、新聞も発行部数が減り、日刊Catタイムス”もデジタル化が一般になってきて、スマホなどで読者が読みやすいように、いや、見やすいように編集して細かいことはあまり記事にしないようになった。読者の(カットされた)記事の捕らえようによっては、印象操作をもしかねない危うい状況にある。また内容がスキャンダラスなったとしても全く罪悪感もわかない。どうせ”移ろいやすい人の心だ”といわんばかりだ。”瞬間に売れればよい”という単純なものだ。そこをうまくついて利用するものも出てきた。情報操作も”金”次第で人間世界とまったく同じだ。頭角を現した、政敵のバッシングやことばの揚げ足とり、10数年前の若いころの”パンツ泥”といった性癖のタイムリーな暴露もそうだ。競合先の企業のスキャンダルの暴露もしかりである。

だからどうしても時の救世主、ヒーロー ヒロインが必要なのである。

Catタイムスには交通事故欄で、”足助さんの交通事故死”が載っていた。その横に、「求人欄」があって、「尋ね人」欄も掲載されていた。これらは有料だから広告同様に新聞社の収入源だ。太郎はやしろホテルでとっている新聞で「尋ね人」の欄だけを1か月ほど前のものから読んでみた。最初はお年寄りが中心であったがしだいに子猫の尋ね人も多くなって、ここ1週間で毎日2~3件とあった。太郎はさっそくゲンゴローにホテルに来るよう連絡をした。

2時間後ゲンゴローが太郎の前に現れた。「太郎さん」と。あいかわらず支配人とは呼ばない。ま、”おばさん”抜きだから良しとするか!と思いながら、「お疲れ様ね。」と挨拶代わりのねぎらいのことばをかけながら、Catタイムスの束を指さした。「うちの新聞だね~」とゲンゴローは太郎の目をみた。「変なんだよね?気づかない?」ゲンゴローは「なにがよ!」と。「尋ね人の欄よ、最近 子猫の尋ね人が多くなっていないかしら?毎日違っていて、キジトラとか茶トラとか写真付きもあるけど、日本猫ばかり」。ゲンゴローは「おりゃ~ね、現場まわりが多いから広告がらみは別担当でよくしらないんだけどな~。」とそういいながら、、、パラパラと新聞をめくって、、、「たしかにな~~」 ゲンゴローは一瞬 悪寒(おかん)に襲われ、”ぶるぶる”と震えた。     次回

(16)太郎の憂鬱(ゆううつ)

太郎は憂鬱(ゆううつ)であった。すこしずつ子猫たちの失踪がたんなる日常の出来事のひとつなのか?。。。行方不明?、、、、誘拐? 誘拐なら身代金など要求するだろうし、現実にそこまでのニュースはないし、いや家族や警察が身の安全第一に情報秘匿もあるからそれを否定できない。ゲンゴローは新聞の子猫の尋ね人の多さに気が付いて、「一応広告担当に聞いてみる。何かあったらまた知らせるよ。”誘拐なら多すぎるな~、その線は薄いかな~” ところで太郎さん どうしてそんなに関心もつんかな~?」と言って、さっそく取材に出かけていった。

太郎は、ゲンゴローは「なぜ関心を?」と言って取材に出かけていった。太郎は、「ただのおせっかいよ。」といったものの、しかし 太郎は 貿易会社ゾットカンパニーにひっかかるものを覚えた。先日 おとんに連れていってもらった直江津港で見たガラの悪い連中が屯(たむろ)していた。”助けて~”と聞こえたような気がして、それ以来 その声が気になってしかたがなかった。たまたま、荷役担当者が休憩していたかもしれないから、外見では判断できない。心配しすぎであろうか?それならばそれでよいが、なにか悪いほうにいっているような気がする。

ゲンゴローは ゲンゴローで、道すがらに考えていた。”どうも太郎おばさんがあやしいな~。毎年、春先に格闘技同好会の大会が開かれていたことは知っていたが、極めて異色なキャラというかごく普通の熟女おばさんがホテル支配人の後継人になったばかりか、大会を仕切っていたな~。あの肥やし集めのチロが太郎に上下を感じさせるところがなんとも不思議だ。チロは全国武闘大会で審判も務める武術の達人でよく知られている。ま、俺の直感では [噂に聞く影組織?] まさかね~ [ありえない、ありえないし~]と、自分ながらおかしなことを、”と自嘲し、”Catタイムス広告担当に会ってから知り合いの刑事に聞いてみよう”と思った。

それから数日がたった。もう5月のゴールデンウイークに入った。天気もよくホテルも家族連れでおおいににぎわっている。全国でも有名な高田城址公園の観桜会開催期間以来だ。緑一色の原っぱのホテル前でたくさんの子猫が親猫とともに玉投げやシャボン玉を吹いたりして歓声を上げていた。

二―二は太郎のホテルを手伝おうとして、ホテルにやってきたが、途中原っぱのすみっこで、サングラスをかけ、しゃれたぼうしをかぶったメス猫をみつけた。たばことりだし、ふかし始めた。メス猫一人旅か?。しかし懇親会のときの隊員たちや新聞記者のおじさんの話もきいているから、それなりに注意せねばとも思った。

チロが仕事着のまま 太郎のところへやってきた。二―二はチロおじさんに「こんにちは」とあいさつし、「お!二―二さんか?」とにっこりして二―二に近づいてきたが、二―二がとたんに「おじさん くさいくさい」と逃げていった。「お~すまんな」といってと太郎に向かい合った。なにかよほど大事な情報をつかんだようだ。「太郎さん 仕事着のまんまですまん。ちょっと外で。」ホテル裏に出た太郎とチロがひそひそと話し込んだ。           次回

(17)ゾッドカンパニー

チロが太郎に急いで知らせたのはこうだ。「今日、直江津港の税関に肥やし集めをしてきましてね、隊員の税関員にちょっと”ゾッドカンパニー”の名前を出して業態なんか教えてほしいといって探ってみたんですよ、そうしたら、準備していたように、”ほれッ”と、すぐにこの資料のコピーをくれたんですよ。

それで”手回しいいな”といったら、”なんてことはないんですよ、さっきプリントアウトしたばかりなんですよ” と。で、なんかあったのか?ときいてみたら、”事後調査”する予定の企業のひとつなんだそうで、関税の納付忘れを過去3年分調査するというもので、”今年ゾッドカンパニーも対象だった。” と」「だった?」「でも税関所長から ”あそこはよい”と、言われたんで、調査履歴欄に「-(実施せず)」を入力したんだそうで、調査履歴には12年前からその「-」がならんでいて、へ~珍しいなと思っていた。”と、言っていたんですよ。」

太郎は関税のことなんかまったく知識がないので、「そう。。。」と答えるしかなかった。チロは長年の経験から、役所勤めのありがちな ”上の アンタッチャブル(触れてはならない)の圧力”を感じ取って、「これは、ゾッドカンパニーだけ特別かもしれんな~。なにか”くっさいな~”」と。太郎は、「うちのおとんは貿易担当責任者といっていたから聞いてみるわ~ 。。。たしかに”くっさい”」と。「まさに、くっさいな~」 いつのまにか、そばによって来た二―二が、おじさん「くちゃい、くっちゃい?」 「え~ッ そっちかい~!」

太郎はさっそくおとんに聞いてみた。おとんは出張先から直接帰ってきたそうでお風呂に入っていた。おとんが落ち着いて、薫り高い入れたてのコーヒーをうまそうに飲んで、TVをごちゃごちゃチャンネルを変えていた。「つまらん、つまらん」とぶつぶつ言いながら、結局TVをあきらめてFM放送に切り替えて、めずらしくポップスを聞きはじめた。おとんの自慢は、UV211S真空管アンプと、スワンバックロードホーンスピーカーとの組み合わせだ。主にクラシックを聴いているが、ポップスとなると、音の質が全く違って、ベースギターが「ブーン、ボンボン」とすこし腹に響き、ボーカルも生々しく まったく心地よい。

ポップスなので聞き流している。太郎はクラシックのように、楽曲の説明はないと踏んで、「あのう 聞いていいですか?」「なんだい」とお菓子を口にほおばって「お前も食うか?」とクッキーを鼻先につけてきた。太郎は喜んで”くんくん”させて、しかし好みでないとわかると、決まって、いやーな顔して、それでも、飼い主をがっかりさせまいと、舌をだしてクッキーをなめようとするゼスチャーする。いつものしぐさだ。「そうかい いやか?」とすぐにクッキーをおとんが食べ、「それで?」。太郎は、税関の”事後調”を知りたいと切り出した。一瞬、おとんは びっくりして、”なんでそんなことを知っているのか?”と言いたげにじっと太郎をみた。”事後調”は専門用語で貿易に携わるものしか知らない内容だからだ。「ま~いい」とあっさり受け止めて、「ま、簡単にいえば、輸入品にかかる関税とか輸入時の消費税だな、、、、ごちゃごちゃあれこれ、、、、、、で、輸入時に意図的な”ごまかし”とか、ルールの無知から納付をしないケースが出てくる。それを過去3年前の分までさかのぼって書類調査し、理由はどうであれ不正があれば違反金の加算も含めて追徴されるんだ。おとんの会社は貿易もさかんにやっているが、社員の教育も徹底しているし、事後調は定期的にあっても、しかし 問題ないね~。」と。

太郎は「密輸はできるの?」と質問を変えた。おとんは密輸の手口もよくわかっていて XXX△△とひととおり説明してくれた。「税関も密輸は犯罪だからその手口は担当者で共有されているよ」と。太郎は「あたいたちのような猫とか動物の輸出入は?」「そうだな~ 小さなものは飛行機便だけど、象とかキリンとか重いものとか背が高いものとかは船便もあるな~ 飼育係も乗船して、特別なコンテナーを使って快適に運ぶそうだよ。」 ただ輸出入の申告は厳しいよ。輸出入できない保護動物もいるだろうし、外来種が国内種を絶滅に追い込むとか もっとだいじなことは、病気の持ち込みが怖い。で、検疫がことさら厳しい。だから、”密輸”もなくならないんだろうけどな。」といった。太郎は、「ふぁ~」と大きなあくびをして、目から涙がでて、よだれもでてしまった。おとんもつられて おおきなあくびをして、「さ~夕食にしよう!」といってFM放送をつけっぱなしにして部屋を出て行った。残された太郎は手で毛づくろいしてすこしその場にとどまってポップスを聞いていた。二―二は向こうのリビングのTVでスポーツ中継をみていて”キャッキャッ”と黄色い声を上げていた。   次回

(18)タレントオーディション

6月に入って湿っぽくなってついに梅雨に入った。太郎はいつものとおりやしろホテルに出ていて、何をするでもなくCat タイムスをさっとめくって、眺めていた。このところ前支配人もすっかり顔をださなくなって、飼い主のところで余生をすごしているように思えた。チェックするところは尋ね人欄だ。子猫の尋ね人がいないかであるが、このところペースは落ちたようだ。しかし必ずしも尋ね人が減ったからといって鵜呑みはできない。

広告欄に ”20XX9月度 新人募集”” [雪之丞企画]とあった。太郎は ン? ”雪之丞”!? あの有名な役者か?サスペンスなんかの主人公を務めていて、たしか”キャットホームズの事件簿”とか出ていたな~と思いながら、さらにページをめくると、紙面いっぱいの、”20XX年 タレントオーディション開催” [ゾッドカンパニー イベント興行部]とあった。雪之丞企画のほうは 演劇&ダンサーと注文付けられていた。ゾッドカンパニーはタレント一般、お笑い、歌手&ダンサー、その他とあって、後援 市役所XX部、CatTV12 、Catタイムスとなっていた。オーデション合格者で現在活躍している役者、歌手、タレントらの顔写真が載っていた。日程は9月○○日で3カ月後だ。

二―二は相変わらず、おとんの家の桜の木で一通りの鍛錬を繰り返し、それが終わったあとに”やしろホテル”の原っぱでランニングすることを日課としていた。原っぱはホテルの泊り客のジョギングのコースでもある。二―二はしゃれた服装のサングラスのメス猫にいつも観察されていると思った。狩場の決闘でタイムス紙に写真付きで二―二が掲載されてから、”あれから週に1回は見に来ているな” と。もちろん外野も多くなっていて、なんとかサインもらおうとわざわざ田舎からきてホテルに泊まるものもでて、ホテルはおおむね満室状態で忙しくなっている。

とつぜん 騒ぎが起こった。

5匹の与太った兄(にい)ちゃんがホテルの入り口の鳥居のところにどっかと寝そべって、泊り客を通せんぼしはじめた。ホテルの従業員が、”そこをどいてほしい”と丁寧に話していたが、当の兄いらはしだいにエスカレートしてきて、一方的に大声をだしはじめた。太郎が気が付いて ”あら、あら”と言いながら、与太たちのいる鳥居に出向いた。「なにか御用かしら?」。「てめーは何だよ!」 太郎は”いらッ”としながらさすがに平常を装って、「ホテルの支配人よ、ここにいたら通行の方々にご迷惑でしょう!サッ、お退(ど)きになってくださいな。」と、諭すように言うが、兄い風が「馬鹿野郎!年増はすっこんでろ!なにをしようがここは公道だ、勝手にするぜ!」と。ほかの者たちも、口をまげて へへ~んとニタニタと笑って、ふたたびどっかと寝そべって大きな生あくびをした。外野も集まってきて、「ひどいな~」「ありゃ 常習だぜ!」と口々にさわいで、ついにだれかが「兄ちゃんたち たかりだろう。このあいだあっちの町内でみたぜ!」と。兄い風がカチンときて、「だれだ だれが言った?お前か?お前か?」と指さしして、「ぶっ殺してやるから出てこい」と隠していた短い刃物を一振りしてみた。太郎は「ふ~ しかたがないわね、みんなついてらっしゃい」。兄い風は、「お、はじめからそういえばいいもんを」と、だんぴら”を自分の頬にペタペタとあてて“みんなに行くぞ”と合図をした。太郎は原っぱにさそってから、くるっと振り返って、「さ~て どうしようか?~お仕置きしましょうか?ね 二―二」。なんと、さっきまでランニングしていた二―二が太郎の傍にいて「うん」と返事した。外野が集まってきて、「やめないか ケガするッて!」「なんまいだ~ ご愁傷様」 と手を合わせるものがでて「あ~あ~ しらないぞ」といいながらみんな輪になってイスまで持ち出して座りだした。

兄い風は、すっかりこの年増から金品をせしめれると思っていたから とうとう激高して刃物を太郎と二―二に向けた。ほかの4匹も手慣れたものでさっと太郎と二―二を取り囲んで、刃物や チェーンまでもちだしてジャラジャラならして威嚇し始めた。

と、なんと、かわいい顔した小娘が支配人の年増の前にでて小さな笛を取り出した。格闘技の練習試合で使用した竹笛で、オシャム先生からその後、「あ~ それあげるよ」とプレゼントされたものだ。対峙は瞬時であった。二―二から仕掛けた。”ヒョイ” ”ピュツ” ”ピ~”とリズムよく笛がなる。竹笛が縦に横に振られ、「アッ」、「ワッ」、「イッ」。。。と驚きとも思える悲鳴が小さく聞こえ、 ”バサッ、ドサッ、バサバサ。。”  4匹が吹っ飛んだりその場でひっくり返ってそれっきり動かなくなってしまった。外野から「お~い 見えね~ぞ。もっとゆっくりやってくんな~」とヤジがとんで、あいかわらず「なんまいだ~~」と年寄りのお題目(だいもく)が続いていて、最後に残った与太兄ィが「へ、な、なんだよ、何がおこった?」と冷や汗をかいてびっしょりになった。その矢先、「ガツン」目から火花が出て、兄い風の目の前が真っ暗になった。へなへなへなと立ったままひざを折って、それからゆっくりとあおむけに体をななめ30℃にして口から泡をふいて気絶してしまった。

二―二と太郎はなにもなかったように、二―二はランニングを続け、太郎はホテルに戻った。 次回

(19)サングラスの女(メス猫)の正体

しゃれた服装に帽子、少し幅広のつばが波打っていて、サングラスのおんながホテルのフロント前のソファーに座っている。白基調と黒のブチ猫だ。年は40歳を超えたところか?。紅茶を注文して細長いたばこを右手の指にはさんだままくゆらせていた。上品さが伝わる。太郎がホテル前の入り口に戻ってきて、「いらしゃいませ~」「いってらっしゃい」とお客にむかって挨拶をしたり小さな子供連れには、手を振ったりしていた。

太郎が来てからホテルは、壁の修理や塗り替え、照明をLEDに替えるなどした。社員の教育も充実し、”きれいに、明るくなって” セキュリティも格段にアップさせた。フロント係は外国語ができるキュートなメス猫を採用した。実は、チロの格闘家仲間の娘で、合気道の有段者でもあった。本人はどうも二―二に憧れてきたようだ。こうした当たり前の努力の評判が、口コミで伝わり、いまや太郎と二―二がいる安全、安心なホテルとして定着しつつあった。

雪之丞 座長

太郎が、入口でひととおり挨拶をすませたところで このサングラスの女の前をやはりおじぎしながら通ろうとしたら、女から、「ちょっとすみません」と呼び止められた。声は深く響き”メス猫にしては声が低い”。「はい?」、客から太郎に呼びかけはめずらしい。太郎はそのサングラスの女に前に立った。灰皿におかれた上品なたばこの香りがただよっていた。そして女は立ち上がって、ゆっくり両手で帽子をとりテーブルに置いた。そしてサングラスをとった。すべてにすきがなく何か職業的な、天性というか、もって生まれたセンスなのか、そのしぐさで魅了させられるのだ。そして太郎の正面にその顔を向けた。「。。。。。。???」太郎は、その妖艶な美しさに目を奪われた。

にっこり笑って、低い声で、「初めまして、雪之丞(ゆきのじょう)です。」 なんとなんと有名な”演劇”役者が目の前にいるのだ。しぐさはまさしく女、しかし美しい男 オスなのである。                  次回

(20)二―二 オシャム動物病院に出向く

太郎が雪之丞に会っているころ、二―二はオシャム動物病院に出向いた。格闘技の練習試合での竹笛のプレゼントは思いがけなくこの優しい先生にもう一度お礼したいと思っていた。病院はやしろホテルからそう離れていない。二―二の足では15分くらいか。しかし大きな道路を渡らなくてはいけない。小学生の帰宅が始まっていたので、みんなについて横断歩道を渡った。歩道の信号が青になって、車が一斉に横断歩道前でストップして安全に渡れる。二―二にとっては物珍しい。信号の赤は止まれ、青は進んでよい ということを学んだ。

オシャム動物病院の前で美声が聞こえる。この動物病院では入院や通院患者にときたま、音楽を聞かせたり、あるいは患者に演奏させていて癒し療法で実績をあげている。

オシャム先生 精神科医

オシャム先生の専門は精神科であるが、もちろん内科、外科もこなす。最近は精神を病む猫も増えてきてオシャム先生の診察も増える一方だ。肌が部分的にむき出しになる脱毛や、飼い主にかみつくといった狂暴化が多い。原因として、留守がちな飼い主とのコミュニケーションがとれずに、イライラが増すと考えられている。また外国種も増えてきて、日本猫の雑種系にくらべもともと病気には抵抗力が劣る。自分の腹をなめたりしてついには毛がなくなって肌がむき出しになるケースや、自然に円形の脱毛も起こすことも多い。このような症状は”猫の助けて~という” 兆候ととれるが、飼い主が気が付いたころは、ほかの病気との併発もあるから、そうなると治療はさらに難しくなる。

おシャム先生がちょうど患者たちや介添えの職員たちの前で歌をうたっていた。見事なバリトンで美声だ。♪♪~ 誰も寝てはならぬ~ ♪♪ プッチーニの歌劇 ツーランドットのテノールの名アリアである。(説:フュギュアースケート 荒川静香さんのバック音楽にもなった。)オシャム先生は癒しの音楽にこうしたクラシックの名アリアを積極的に利用している。

美声が終わったところで、二―二が「先生!」と手をあげてにっこり微笑んだ。患者や職員がいっせいに二―二に振り向き、一瞬 時が止まったかのようになった。”ポッカ~ン”と口をひろげ、”え、どこの美少女?”、”え!、先生の患者なの~?”とそれぞれに思ったようだ。オシャム先生もにっこり微笑み返し、「お~ いらっしゃい。どうした~?」 二―二は先生の前に行って、「竹笛のお礼に」。 介添えの職員たちは、しばらくしてCatタイムズに載ったヒロインとわかって、”ひそひそ”と騒がしくなってきた。ついに交通事故で手を骨折した患者の若い娘が ”わ~ きれい、。。。来てくれたんだ~” と。二―二はとうとう患者たちに囲まれてしまった。ニ―二もこれにはびっくりして、”どうしよう?” と、戸惑ったが、オシャム先生から、「そうだよみんな、二―二さんが慰問にきてくれたようですよ。さ~元気をもらって、元気になりましょうね。」と。     次回

(21)二―二 スカウトされる、が?

役者 雪之丞は、歌舞伎、舞踊、演劇で活躍している。異色の特技に曲芸(手裏剣の的当て)がある。現代劇、時代劇それぞれにその異才ぶりを発揮して、TV出演多数で多忙である。なんといっても、そのオーラが立つ妖艶な容姿とともに、”目で”演技をこなす” 奥義(おうぎ)に達している。雪之丞企画の中心的メンバーでもあり、多忙なた中、わざわざ旅する猫たちの”やしろホテル”に足を運んだことは異例であった。

太郎はその細長い目を見て、そして洗練された容姿に一瞬我をわすれ ”ごっくん”と生唾を飲んだ。「で、な、な、なにかごようでしょうか?」と、いささかどもってしまった。「え~ 実は~」すこし”おね~ことば”で、「二―二さんのことで」と。太郎は、「エ!二―二?。。。。 さて、あの娘(こ)、どこへいったのかしら」と周りを見回すが姿がない。お茶をもってきたホテルフロントのクラーク(受付係)に、「どこに行ったかしら」聞くと、「それなら、さっきオシャム先生のところへ、なんか返礼だといってましたど、、、、」”ハッ!” クラークが有名人”雪之丞”に気が付いたようだ。ホテルの宿泊客も雪之丞を指さししヒソヒソ話しをはじめた。太郎は、それとは別に、なにかに気が付いて、「ここではなんですから、別室をご案内しますわ~」と立ち上がった。ガラスの大きな入り口の先の、鳥居の前にメモ用紙片手に新聞記者のゲンゴローを認めたのだ。おそらく与太兄ちゃんたちが、二―二にこっぴどくやられたことを聞きつけて取材しているようだ。これ以上、引っ掻き回されても、の感で、太郎は機転を利かした。

別室で雪之丞は要件を話した。「二―二さんは、雪之丞企画としてスカウトにまいりました。さきほどの立ち回りの見事さといい、あれは天才ですね。それになんともかわいい。二―二さんさえよければ、、、、」。太郎はおもいがけない話にびっくりというか、とまどってもいた。雪之丞自らのスカウトで意気込みは並々ならぬ気配だ。「二―二はどう言うかしらね?」と。雪之丞は「いちど太郎さんもごいっしょにタレント養成所におでかけいただけませんか?それからでも。。。」と誘った。「え!、そんなところへ???」と。雪之丞は、「うちは長く役者を務めてもらいたいので、しっかり基本を教えてから、それぞれの能力にあった演技指導にうつるんですよ。」と低音のしびれる声で話しする。教育熱心であることがわかる。ふっと、ぽっつり「そんじょそこらのように使い捨てはしません」と、遠くをみつめ話をした。

太郎はさすがだ。初対面の雪之丞の内面を見たような気がした。太郎は「わかりましたわ。かならず伺います。」と即決した。太郎はもうドギマギしていない。「ところで雪之丞さん。。。。 ゾットカンパニーはよくご存じかしら?」「エ!」とこんどは雪之丞がすこしうろたえた。太郎は雪之丞の”目”が曇ったことを見逃さなかった。遠くを見つめて”そんじょそこらの。。。”のひとりごととも思えるつぶやき、まさにその時 雪之丞はゾットカンパニーを思い出していたのだ。雪之丞は、頭の中が見透かされたような感覚に陥った。

太郎は、雪之丞に 雪之丞の競争先であるゾッドカンパニーに興味があることを伝えた。                        次回

(22)新聞記者 ゲンゴローの調べ

 

新聞記者 ゲンゴロー

新聞記者 ゲンゴローが やしろホテルの外での”さわぎ”の取材をした。というのも、二―二の”格闘技練習試合”のカット写真がCatタイムス紙に掲載されて以来、新聞紙の売り上げも好調だからだ。ゲンゴローは首をふりふり、”いやはや、、、太郎、二―二の近辺でネタには困らないということか?。。それで、次は~と。。。。当事者の太郎と二―二に話を聞いてみよう!!。”と、思って、ホテルの入り口ドアを押した。すると、事務所に通じる通路の先の特別室のドアが開き、そこから、エレガンスな帽子をかぶったサングラスの”女”が、まさに”洗練された身のこなし”で出てくるのを見た。そのあと頭をひくくして、”太郎おばさん”も出てきた。ゲンゴローは一瞬にして、そのサングラスの”女”が有名人と直感した。小さな声で「ニャワオー、ヤッター ネタだネタだ!」と、小さくガッツポーズして、さっとサングラスの女の前に飛び出した。

サングラスの女は一瞬とまどったが、すぐに大きな体の太郎が後(うしろ)から女の前に出てきてゲンゴローとの間に割り込んで、しかも”狸しっぽ”をゲンゴローの顔にくっつけて視界を遮(さえぎ)ったのだ。太郎は、小さな声で、「ゲンゴローさん 我慢しなさい!」と厳しく言う。サングラスの女はゆっくりと、低音でひびくような声で「支配人、、、ありがとうございました。では。」と、軽く会釈してホテルから立ち去った。太郎もまた会釈して「いずれまた。。」と。ゲンゴローは 立ち去るサングラスの女の後ろ姿と、すこし微笑んでサングラスの女を見送る”太郎おばさん”をきょろきょろとただ見るだけで、なす術(すべ)がなかった。

「”太郎おばさん” それはないよ~」と言って、”しまった!”と口にバッテンした。太郎はそれには気にもしないで フロント前のソファにゲンゴローを誘(いざな)った。「わたしもゲンゴローと呼び捨てするわよ」と。ゲンゴローは小さく”ふんふん”と合点した。「で、子猫の「尋ね人」どうだったの?」と太郎から先手を打ってきて、さっきのサングラスの女のネタを封じてきた。ゲンゴローは、それでも「あのね~ さっきの。。。。」とホテルドアを指さし食い下がった。「いずれね!今は封印して頂戴!」とじっとゲンゴローをみた。「ごっくん!」おもわずゲンゴローはつばを飲んだ。”へ~ 色っぽい”と不謹慎にも思って、おもわず「わかった。太郎さんの頼みだ」と。2匹の”不思議な阿吽(あうん)の契約”がなった瞬間でもあった。お互い信頼しあう仲になったのだ。

しばらくしてメモと折りたたんであったおおきな地図をとりだした。ゲンゴローは太郎に、「新聞の担当に調べてもらったよ。」 ゲンゴローがあらかじめ印したのか。地図に赤丸印がついていて、失踪?日が併記されていた。メモには、種、名前、年齢、住所、失踪?日、警察への届け出日などリストにしてあった。太郎は地図の50個ほどの印をじっとみていた。ゲンゴローは「掲載されるようになったのは、ことしになってからだよ ほら!と最初の”港町”付近の赤丸印を指した。太郎はゲンゴローにペンを借りて、地図に線を描(か)き込んだ。なにやら気象の等圧線に似ていている。失踪?日と場所をつないでみた。太郎とゲンゴローは小さな輪がすこしずつ広がっているのを認めた。2匹、顔をつきあわせ、同時に「おかしい!」             次回

(23)ゲンゴローの揺さぶり

太郎とゲンゴローは目前の地図の赤印を、日にちで線を結んだことで、子猫たちの”神隠し”のうわさから、”失踪”という言葉が現実味を帯びてきた。”おかしい”から”怪しい”になった。「ふ~」とゲンゴローは背伸びしてポツンといった。頭のなかでいろいろ考えているようだ。太郎は太郎で、”拉致(らち)かも?みんなを集めてもうすこし情報が必要だわ、、”と。もちろんみんなとは影の軍団のことだ。不確かなことでは警察は動かない。

突然、ゲンゴローはソファをたって、太郎に手をあげ、「また~」と出口に向かった。しかし途中で、「お! 思い出した、ありゃたしか雪之丞だよね」と振り返って「ニッ」と笑った。そして「地図を太郎さんのところに置いとくよ!」と手をふたたび振って出て行った。

二―二が戻ってきた。太郎のそばによってきて、広げられたまんまの地図を見て、「これな~に?」と。太郎は「みんなを集めるわ!」と。

「日本子猫、失踪か?!!」副題に「始まりは港町!」Catタイムスがでかでかと特集記事をだした。2面を使ったもので、1面は、場所と日時が記され、等圧線のような線も結ばれた地図だ。太郎のアイデアをゲンゴローがそのまま引用して掲載したのだ。もう1面には、詳細に”尋ね人”広告を出した飼い主のコメントが記され、最後に、「この子猫たちの不明は、事件か?警察に被害届がない以上動く気配なし。この関連性をあなたならどう考えるか?」とゲンゴロー名で締めていた。「警察は動く気配なし」が刺激した。

Catタイムス紙の事務所には出勤前にもかかわらず電話が鳴り始めた。夜勤の守衛はなり続ける電話をただただみているしかなかった。

反響はすざましかった。なになに、「”拉致”だとよ!」「お~い、うちの子はだいじょうぶか?」「当面、通学は飼い主もいっしょだな~」「警察はなにしているんだ!」「警察は動く”気”がないんだってよ~?」「警察は?」矛先は、警察に集中しはじめた。言葉は怖い。”失踪?”が”拉致だ!”に変わり、”動く気配なし” が”動く気がない”に変わってしまった。

「編集長! 警察が見えました。」 Catタイムズは朝からなりっぱなしの電話応対に追われていたさなかであった。警察担当者は若い男女2匹。警察が直接新聞社に来ることはまれだ。担当者の上司とみられるオスが、いきなり新聞を机に置いて、「なにか根拠は?我々に避難が集中していて!困るんですがね!。」 編集長は落ちついたもので、「で ご用件は?。。。。文句をいうのはおかどちがいですよ。こっちは事実をしっかり分析してですよね、、、ほ~ら結果がこの記事だ。うちのゲンゴローがうそをでっちあげるとでも~」。事情を確認しにきたこの2匹も、上から指示されたから来たようだ。「。。。。。」「。。。。」もうだまるしかない。ただ警察は新聞記事の内容だけでは動けない。具体的な被害届けがないからだ。ゲンゴローの記事は、尋ね人の広告の分析から問題を提起したにすぎないが、世情(せじょう)を動かすには十分であった。

太郎は、やしろホテルでcatタイムスの記事を読んで、「ふ、」と、ほくそ笑んで、「ま、こっちの出番かもね」。二―二はいつもの朝の鍛錬をしていた。

この記事を見て、危機感を募らせたものがいた。その筋に”将軍”と呼ばれるゾッドカンパニーの社長、そしてその日、直江津港振興xxx会に出席予定の国会議員で事務事官の”一郎”だ。 次回

(24)2つの秘密会議

Catタイムスが発行されたその晩、2つの会議が秘密裡に行われた。一つは、ゾット将軍と事務次官の一郎だ。その日は午後3時ころより直江津港振興XXX会があって直江津港に近いホテルで行われた。一郎をはじめ、市長、市会議員、税関所長、警察署長など来賓をはじめ、地元の輸出入企業や物流荷役担当が集まって、決算報告や活動報告やまた物量の推移などが示され、最後に懇親会というわけだ。ゾッドカンパニーは貿易会社で中堅どころで、直江津港を支える企業のひとつとして一目おかれている存在で、今年もまた、懇親会はゾッド社長の乾杯ではじまった。1時間もたってから、一郎が派手なアクションで企業の貿易担当者と握手しながら、懇親会をはなれた。懇親会はそれを合図にお開きとなった。いつもは、飲み足りないご仁らはそこで仲間内で酒をちびちびやって、グダグダと景気話しをするが、今日はちがった。「おいおい、子猫の失踪だとよ!」「おりゃ~ 拉致ときいたぞ!」「へ~。。。おいらもおかしいとおもってたんだ」「港町 といえば このホテルもそうだよな。。」すっかり”高級またたび酒”の勢いも冷めて、なんかもうひとつ盛り上がらない。

一郎は2匹の秘書とともにホテルのある一室にむかった。ゾッド将軍がひょうがらの3匹の兄弟妹(きょうだい)とともに待っていた。秘密裡で一郎がゾッド将軍を呼びつけたのだ。ひょうがらはそれぞれ入り口近くの暗がりの壁にもたれかかっていた。中央で深々とソファに座って足を組んで、ゾッド将軍はいつものとおり葉巻をくゆらせていた。「いや~ さきほどは。会は禁煙でしてね。さっそくやってますよ!ゴホ、ゴホ、ゴホ」と。一郎は不機嫌に顔を引きつらせ、「新聞読んだな?」と、裏声のような高い声で話した。「ああ”~心配にはいりませんよ!ゴホ ゴホ。」だみ声だが、こっちはまったく落ち着いている。そして「ゴホ、警察も動けんでしょう」と、まったくゆうゆうとしている。そして無言で葉巻をもった手で今は隅っこに移動した3匹に注意を向けさせた。ゾッドとしては、この程度の記事ではとるにたらない、いざとなれば”謎の死”もあるからな。。。と、忖度(そんたく)してみせた。一郎はゾッドの手の動きをみて、 ”ニッタリ”と裏の顔をみせた。ゾッドは「ところで2人にしてもらえませんかね~」と。一郎は目で”喜び”、「なんだね~ みんなに聞かれたらまずいことか?」と秘書にむかって「外で待ってろ」と指示した。ゾッドもヒョウ柄に帰るように合図した。ヒョウ柄らはゾッドと一郎の話が終わったと理解した。”いままで同様、日本猫の子供たちを拉致し、失踪に見せかけ、俺たちは見合った報酬を得るのさ!”と、リーダー長兄の”ピン”がほかの”ポン””パン”に合図して部屋からでていった。

一方 やしろホテルの一室では太郎、二―二、武闘隊長チロ、師範格の大輔、密偵専門のチビクロら主だった武闘隊員が集まった。事務隊員らは今回招集していない。クロ元支配人もご意見番として参加していた。

クロ元支配人から、「わしゃの~ 懸念していたんだよ!」とおおきなテーブルにCatタイムスをひろげた。大きな1面の地図を囲んで、太郎から「すこし前だけど直江津港におとんに連れていってもらったとき、子供の声で”助けて”と船のほうから聞こえてきたような気がして、それ以来、気になってしかたがないわ。」と。チロから、「ゾッド貿易会社の足助さんの”事故死”も関係ないかな~?」と、二―二が「おじさん、事故死でないの?」。チロは「いやね、ゾッドカンパニーに肥やし集めに行って、掃除のおばさん猫に聞いてみたんだ。そうしたら、”あれね!いいひとだったんですよ。仕事もいつもきちんきちんとこんしていてね、、、、 ま~残業も多くてね。船が相手でしょう?、海が荒れる冬場はとくにそう。。。でもね、いなくなってから、会社の人たちも無断欠勤はおかしいといって、さすがに探したようですよ。でもさ~空いた穴を埋めないことにはっていうんで2日目からもう新しい担当者が決められてね。会社には人材派遣部もあるからね。もうすっかり忘れてました”と言うんですよ!。まったくどうなってんですかね?」「見てはいけないものを見て消された?と考えられないかな~」と、師範格の大輔が言った。太郎は考え込んで、「可能性はあるわ。ま、なにもなければそれでよし。としましょう」。チビクロから「おいら、ゾッドカンパニーからはじめましょうか?」と密偵を買ってでた。太郎は、”失踪?の始まりは港町”, ”足助さんの事故死” ”得体がいまいち掴めないゾッドカンパニー” これらを”結ぶ線”はあるのか?と思った。 次回

(25)太郎と二―二+1がゾッドカンパニーへ

スイカの空中栽培

梅雨があけた。今年は例年にくらべ梅雨が長かった。おとんも農作物の生育が悪く、とくに家庭菜園でのスイカの着果が悪いと嘆いていた。原因は雨のせいで花が咲いても、花粉が流されてしまうんだそうだ。久しぶりの太陽が強烈でまぶしい。しかしジメジメしていた季節が去ってカラッとしているから、太郎と二―二は久しぶりにお外の日陰で涼むことにした。実に気持ちがよい。二―二はブドウの根本の太い幹から上手にジャンプして、ブドウ棚の上に陣取った。おおきなブドウの葉っぱが日光を遮ってくれている。さっそくて毛づくろいしはじめた。太郎は、おとんのスイカのつるの葉っぱの陰で休むことにした。乾燥した藁(わら)のいい匂いはことさら眠気を誘う。スイカは狭い場所でも収穫できる空中栽培だ。小玉にかぎるそうだ。1.5~2.0kg/個になるから支柱はしっかりとしている。

太郎は毛づくろいしながら、これからの作戦を思い描いていた。そのうちにウトウトし始めた。「フニャムニャ、あ~ん オシャム先生~」 夢のなかで、”あの練習試合に一度しか会っていないのに。。” (説:実際、猫も寝言を言う)

太郎と二―二とチビクロがゾッドカンパニーに出向いた。はためには太郎が2匹の少し大きめの子供をつれてきているようにも見えた。太郎、二―二 チビクロは、ゾッドカンパニーのふところに飛び込むのに一芝居を打った。

「ごめんあそばせ~!あたくしエリカといいますのよ。」受付の若い娘の”アメリカンカール”は、傍にいた二―二を見ただけですぐに合点したらしく、「ちょっとお待ちください。今担当者を呼びますので」、といってなにやら画面を操作している。担当が来るまで、太郎は受付ロビーを見回した。いくつもの防犯カメラが付けられていて、各々の事務所には手指紋合致しないと入れない仕組みと見た。セキュリティはかなり厳重なほうだ。ただ事務所内への入り口は、ガラスの引き戸だからロビーからも内部の様子がわかる。クロが「かあちゃん、おしっこ」と泣き顔で言って、受付嬢は「通路の奥にありますから、坊ちゃん一人でできる?」「うん、大丈夫だよ!」と。チビクロはトイレに入ったふりをして、再び通路に出て掃除道具の入った物置に潜り込んだ。そのうちに担当者がセカセカと応対に出てきた。太郎をみて、「アポ(予約)のないかたとは、、、」と言って視線を二―二に向けてくぎ付けになった。受付の娘に”納得した”と、目で合図した。受付の娘は「こちらはお母さまのエリカ様」と、呼びつけた担当に紹介した。そしてお役目ごめんとばかり、目の前の大量の郵便物の処理にかかった。受付嬢の仕事は、郵便物や新聞、小荷物の受付もする。もはやもう一人の子供の連れのことは忘れてしまった。担当は太郎と二―二を面談室に連れていった。面談室には直江津港の航空写真や、関係施設、関係者の写真が額付きで掛けてあって、備え付けのテーブルやソファーも外国製で結構豪華である。これをみただけでもかなり儲かっているようにも見える。

あらためて、担当者は名刺をだして挨拶をした。”タレントスカウト 係 XXX主任”とあった。太郎は 担当者を見て、”あ!パンダ”と思い、担当は”え?エリカ?名前負けだろう、どうみても[XXデラックス]だろう!”と、思った。

二―二はきょろきょろしながら しまいには面談室にあるおおきな写真をみて、「ね~ このじいちゃん だれ~」と。太郎に聞く。太郎は「これいけません。すみませんわたくしのしつけがいたりませんで~ ホホホホ。。。」と。担当の”パンダ”は、微笑みながら「わが社の社長ですよ。ゾッド・オーロラです。ロシア生まれですが幼少時に日本にきて、一代で貿易会社を大きくしたんですよ。」と、説明してくれた。「じーちゃんに会ってみたいな~」と二―二は言ったが、エリカこと太郎は「これいけません、しずかにしてて!」と。”パンダ”は「ところでご用件は娘さんのことで?」 エリカこと太郎は、「ええ、そうですわ?9月にこちら様のオーデションがあると新聞広告にあったんで、どうすれば?と思って、」。担当は「それなら」と言って面談室をでていって、しばらくしてパンフレットを持ってきてくれた。「ここに、写真もご家族のお名前もね!。ところでお嬢ちゃん なにが得意なの?」、二―二はすかさず「格闘技!」と。エリカこと太郎は「あわてて、これ!」としかり、担当者はあんぐり口をひらいたままになった。

”まいった、まいった、美人ギャルで格闘技か、、、今までにないキャラだ。こりゃひょっとするとひょっとするぞ、、これはうちで絶対落そう!(合格させる)”と、ひそかに思った。          次回

(26)尋ね人の広告 ぴたっと止まる

ゾッドカンパニーを出た太郎と二―二は港を一回りして帰ることにした。停泊中のコンテナー船が、コンテナーを積んでいるのが見える。船の向こうの空には入道雲があって、風向きからすると、一雨くるかもしれない。二―二は「チビクロ兄ちゃんはうまく隠れたかな~?」「心配ないわ、私たちが帰るころには誰もチビクロのことを忘れてしまっていたでしょう?たいへんな能力だわ~」と。二―二は「ということは、隠れんぼの術?」太郎は思わず二―二をみて「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ」と甲高く笑って、「そう、そう、そうなのよ!」

直江津港に倉庫がたくさんあって、船への積み込み前や、船から降ろされたあとにいったん保管される。倉庫はゾッドカンパニーのような荷役権益のある企業などが建てたものだ。普通は関係者以外立ち入りが禁止されているから、太郎と二―二は鉄網で作られた門の前から遠目にみるだけであった。太郎は、”ま、あとはチビクロにまかせよう。”と。

太郎と二―二がホテルに戻った。ロビーには ゲンゴローがいる。太郎と二―二を見つけて 「おそかったじゃねーかよ~ おば△△」「おばさんでいいわよ、あたしとゲンちゃんのなかだわよ」、ゲンゴローもびっくりして、「ゲンちゃん? おりゃ そんなに親しかねーよ」と。二―二がゲンゴローを指さしして「ゲンちゃんだ、ゲンちゃんだ」とはしゃいでフロントに行った。受付をお手伝いするようだ。「ところでゲンちゃん、今日は?」。ゲンゴローはあきらめて、尋ね人の広告が、おれの記事がでてから1件もね~。ジ・エンド。俺はね、俺はね、続きを書きたかったのさ。またまたネタ探しってわけよ。ま、太郎さんと二―二さんのまわりには事件がいっぱい なんちゃって。」と手を大げさにひろげ目を天井にむけた。太郎が、「なにをたわけたことを!」と頭に猫パンチを食らわせた。「痛て~、何しやがる!」 「いいかい、よく聞きな!、尋ね人広告がぴったり止まったら止まったでちゃんとみんなが気を付けてるっている証拠じゃないか?ゲジゲジ!」ゲンゴローが頭をなでながら「こんどはゲジゲジかよ~ もう勘弁してくれよ!」

チロが普段着でやってきた。太郎とチロは目で合図して、チビクロの潜入がうまくいったことを知らせた。チロは、「ま~ま~すこし二人とも落ち着いて、ほら、お客さんが大きな声に驚いていますよ!」 太郎も少し反省して、そばにあった水を飲んだ。チロが中に入り、「ゲンゴローさん、安心できないよ!」「何が安心できないんだよ~」と少しすねてみせた。太郎がまたまた、睨みつけ、「お~ おっかね~ すっごい迫力!」顔と頭を手で覆った。太郎はかまわず顔を近づけ、今度は小さな声で、「あたしゃ止まったとみてないよターゲットをかえたかもね?」「・・・・・?」。太郎は「ふ~ にぶいね~このトンカチ!」「え~今度はトンカチかい。。」

チロが助け舟をだした。「ゲンゴローさんよ、太郎さんはな~、ゲンゴローさんの記事がとてもよくできていて、腕のいい記者だと言ってたんだよ。だからじれったいのさ。いいかい、”尋ね人”の広告主は愛情たっぷりで飼ってたわけだろう? 不幸にも飼い主がいないノラ猫に子供ができたらどうなる。どこかでその日暮らしをしているはずだぜ~。恐喝、万引き、売春と犯罪に走るものもいるだろう?これらは、町にとってはこまりもんだぜ~。仕事につこうにもちゃんとした教育すら受けてないからな。もし、もしもだよ、この子供たちが、だれかに、どこかに集められていてもだれも気が付かんだろう?」「・・・・」

太郎は、「終わりでないよ。始まりさ。」             次回

 

 

(27)チビクロの潜入

二―二

ゾッドカンパニー訪問して3日後、潜入させたチビクロからのつなぎはまだなかった。やはり隊員を潜入させることは、もし悪の巣窟(そうくつ)ならば、命でさえ危うくなるからだ。太郎は平静を装っているが、不安でたまらない。

二―二は、ホテルのフロントで朝の鍛錬が終わってからお手伝いにきてくれている。最近は出勤前のチロ隊長相手に武術を習っているようだ。チロに言わせれば、格闘技全般に、少し基本を教えるとすぐにマスターし工夫を加えて自分のものにしてしまう。その成長を見守っていて楽しいと言ってくれている。二―二はまだ本当の自分の才能を知らないでいるようだ。しぐさは少女そのものだが、ゾッドカンパニーに訪問した時もそのキュートな笑顔が応対したオーディション担当を一目で魅了した。そして徐々に大人の娘にかわる時期を迎え、胸、腰も成長してきた。鍛錬のせいか筋肉はひきしまり、ナイスボデイになりつつある。一方、太郎はもともと人懐っこい性格だ。だから、みんなに慕われ頼られる。おとなの色、艶を放っているが、たぬき体形は変わらず、ま、貫禄がついてきたというべきかもしれない。

潜入したチビクロはというと、なんと社員証をつけゾッドカンパニーを自由に動きまわっていた。もちろん社員証(パスポート)は偽造で、NOを照合すれば偽物とすぐにわかる。このパスポートは、深夜、事務所に忍びこんで作ったものだ。船が入ってくると、貿易部の夜勤担当は、荷役の現場に出向き、荷の確認に忙殺される。だから、貿易担当の事務部屋の引き戸は開けっぱなしとなる。事務所への開閉の認証はいちいち面倒なので、長くその習慣がつづいていた。ゾッドカンパニーでは、社員同士はあまり知らない。ちょうど人間社会の都会のアパートやマンション暮らしのようなもので隣人などとの付き合いはほとんどない。社員証があれば受け付けの女の子にもスルーだ。潜入し、3日間経過した。そろそろつなぎしなくってはと思っている。つなぎは、毎日くる郵便配達に扮したチビクロの相棒の大輔だ。変装はお手の物だ。変わり身の術といったところか。別に郵便物をもって来るわけではない。ゾッドカンパニーの郵便箱をチェックしにくるだけで、その中にチビクロのつなぎの封筒を回収すればつなぎができる。3日間でわかったことは、2階の社長室に出入りしているのは、秘書と役員、それになぜかヒョウ柄の3匹のみだとわかった。ヒョウ柄の1匹はメスで、人材派遣部の部屋でぽつんと足を組んで、いつもソファーに座っている。ときたま、しゃれた細いたばこを吸いながら爪の手入れをしている。仕事らしい仕事をやっている様子はなかった。人材派遣部にまったく他のスタッフはいないようだ。普通、人材派遣の仕事をしていればもっと多くの担当者がいてもよさそうだが、それがない。それでも、チビクロは興行部の担当者らが兼務かな~とも推測して、ほかの社員や掃除のおばさんらにもあたってみたがどうもそうでない。人材派遣部にはヒョウ柄1匹であることを確信した。なぜか?

ヒョウ柄の2匹は兄弟で社員に嫌われている。顔は能面のように表情が読めない上に、細く吊り上がった両目に恐怖感さえ感じさせるからだ。若いメス猫のお尻にさわったりしてキャッキャといつもさわいでいる。チビクロは ヒョウ柄の3匹が社長室を自由に出入りできるのは何かあるとみて、社員にそれとなく聞いてみてもアンタッチャブルなようだ。かかわりたくなさそうだから、どんな仕事で社長とどんな関係なのかまったくわからないという。

「ま、いままでわかったことだけでも」と、隊員しかわからない文字でかきはじめた。

太郎は午後、二―二とともに雪之丞のところへいくことにした。   次回

(28)雪之丞一座

太郎と二―二が連れだって歩いていると、「や~支配人!」「二―二さん、きれいになったね!」「きゃ~ あれが二―二よ!」と、声を掛けられるようになった。意味不明ではあるがなぜか年寄りには、「あ~あ~ ご利益ありますように」「なんまいだ~」と拝むものも出てきた。太郎と二―二は、「まあ、まあ、お元気?」「どうも~」と涼しい顔して通り過ぎていく。二―二は黙って笑顔を振りまいているが、この何気ないしぐさも天性のものなのか、出会うものはたちまちその魅力のとりこになるようだ。オシャム先生とこの動物病院の前にきた。♪♪ Are you going to Scarborough Fair? ♪♪ イギリス民謡のスカボローフェアの歌が聞こえる。今日は、精神を病む患者らが、家族や看護のかたがたと合唱しているようだ。オシャム院長は専門は精神科だ。精神を病む猫たちのために持ち前の美声で有名な曲を歌って聞かせたりもする。太郎は 立ち止まって”ちょっぴり覗いてみたいな~”。。。。”でもオシャム先生に会ったら、ま~どうしましょ”と。二―二は「太郎さん、どうしたの?。。。。。 お~い」。太郎は二―二の呼びかけがわからないようだ。ふたたび二―二が太郎の顔面に”ぬ~”と,顔を近づけて小さな声で「太郎さん!」 「・・・・・ ・・・・・ ぁ!」と。一瞬顔を赤らめた。太郎は、「あらやだ、あたしのしたことが」と小さくつぶやき、「さ~もうすぐよ」とふたたび歩いて、雪之丞一座に向かった。

一座の看板が立っていても併設の演劇場はない。事務所があっていわゆるプロモーターだ。各所の演劇場との契約興行、イベントでの興行、役者やタレントの派遣が主だ。タレント養成所が併設されていて、そこで一般教養はもちろん、演劇などしっかり基礎を教え、息の長い役者やタレントの排出を願っていてのことだ。養成所に入れば厳しい訓練が待っている。授業料はただ。全寮制。経費は一座がもつ。もちろんお金をかせぐようになってから何割か歩合で、その経費にあてて帳尻を合わせているのだ。

一座の建物の中に入った。受付はない。建物も古びていて、はなやかな世界に身を置くのに、実際は見栄も外聞もないようだ。1階の教室から手拍子が聞こえ「ワン、ツー、スリー、。。。。」 ほかの教室から、♪♪あああああああ♪♪ 発生練習をしている。2階が事務所のようだ。階段のところに矢印がある。太郎と二―二は2階にあがったが、それでも事務所らしいものは見当たらない。大きな引き戸があってノックしたが一向に返事がない。太郎は、「・・・・・ どうしよう。」 二―二は、きょろきょろみまわしているが、なにも興味をひくものがない。しばらくして、引き戸が開いた。タイツ姿の美男子が部屋の中に向かって一礼し、それから引き戸を閉めた。閉めたあと振り返ったところに、太郎と二―二がいて、ちょっとびっくりした様子をみせたが すぐに「あの~ どなたにかご面会でしょうか?」と。太郎は「やしろホテルの太郎と二―二ですが、雪之丞さんのところへ来ましたのよ~」。「????????」。若いタイツ猫はあきらかに戸惑っている。太郎も「れれれれ????」と。二―二はというと「これな~に?」とタイツに興味をもち、すぐにつまんではじいた。”パッチーン”と通路に響いた。              次回

(29)二―二のもう一つの才能

若いタイツ猫は、このいたずら好きの二―二が放つオーラをまぶしく感じた。”はは~ん!”となにか早合点したようだ。「ちょっと待ってくださいね。校長は、今不在なので教頭を呼んでまいります。」と言って、再び引き戸を開けて一礼をきちんとしてから中に入っていった。雪之丞をここでは校長と呼ぶようだ。あわてていたのか、引き戸はすこし開いたままになっていて、中の様子がみえる。はやいテンポの音楽が流されて、育成中のタレントの卵たちが、それに合わせた早い動きでダンスをしている。大きな鏡が踊っている姿を映し出し、踊っている本人たちが演技の確認ができるのだ。二―二はじっと動きをみていた。すぐに教頭がやってきた。三毛猫で、50歳を超えたところか? 彼女も役者なのだが、わき役専門で、たしかTVでもたまに出ていて、時に主役もこなしているはずだ。美人ではないが、忘れられない顔である。たしか人間界でも、ミステリーの女王の娘で女優の、xxx紅葉といったかしら、存在感をしっかり出す役者だと太郎は思った。

太郎と二―二をひとめみるなり、「おおッ!いらっしゃいましたか。校長に聞いてますわ。校長はTVの打ち合わせで出かけていまして、もう少ししたら戻ってきます。歓迎しますわ!。と親しく太郎の手を握った。”あたたかい” 太郎はそう感じた。教頭は、後ろをむいて「今、ちょうどダンスの練習をしてまして、見学しませんか?」と部屋の中に誘った。部屋にはいると、防音構造で結構広い。柱もなく10人ほどの訓練生が横に並んでダンスをしてもまったく支障はない。太郎と二―二が入ってもだれも彼女らを見ようとしない。ダンスの教諭が、「パンパン」と手をたたき、いったん休憩となった。みんなタイツ姿でオスが2匹、メスが7匹いて、いっせいにしゃがみこん大きく息をしている。水をとったり汗をぬぐったりして、そして小さくグループにわかれなにやらつまみはじめた。軽く甘いものをとっているようだ。しばらくしてようやく落ち着いたのか訓練生は、それぞれ、鏡のまえにたって手や足の動きをチェックしはじめた。二―二はじっとその様子をみていた。見学者がいることは別に不思議ではないようだ。特に訓練生や担当教諭やスタッフらは気にもしない。「パパ~ンッ」教諭が合図し、ふたたび練習がはじまるようだ。激しい音楽が鳴った。訓練生は片足をあげてまっすぐに伸ばし体形が”Y”の字になったまま、左軸足を2回小さく前にステップを踏んで、それからくるっと1回転させ元の”Y”の形に保持した。”この音楽は~たしか おとんの好きな曲のひとつでバーンスタインのウエストサイドストーリーの~アメリカだわ” と、太郎が思った。

二―二がリズムをとりながら、足腰や手を動かし始めている。しばらくして、近くにあった長い青のリボンを頭にきつく縛って、「ハッ」と小さく気合を入れて二―二が飛び出した。そして横にならんだ訓練生の一番端っこに行き、みんなに並んでなんとダンスをシンクロ(同期)させたのだ。これには太郎、教頭、教諭、スタッフが唖然とした。訓練生たちもびっくりしたのはもちろんだ。二―二としては体が自然に動くのだ。ついに訓練生たちが動きを止めて後ろに下がった。音楽がなって、クライマックスだ。二―二はしぜんと場所を変え中央で踊り始めた。リボンは腰まで垂れ下がる長いもので、回転するたんびにくるくるまわる。教諭は、そのリボンがいっさいからだに巻き付かないことに気が付いた。二―二は一度みただけで振り付けを覚えてしまっていて、演技は完璧で、すでに自分なりのアクセントをつけ始めた。正面をみるたんびに、微笑んだり、悲しんだり、怒ったり、踊りのなかで感情を込めた表情を作る。すごすぎる。                         次回

Bernstein バーンスタイン / 『ウエストサイド・ストーリー』よりシンフォニック・ダンス、『キャンディード』序曲、他 エド・デ・ワールト&ミネソタ管、アンドルー・リットン&ボーンマス響 輸入盤 【CD】

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(30)ゾッド将軍の弱み

ゾッド将軍は、ひとり、会社の社長室のソファにすわって葉巻をくゆらせながら考えていた。葉巻は手にもったままだ。豪華な調度品に、妙高山の4点の絵画が   ”冬”、”春”、 “夏”、”秋”とかけられている。有名な画家にかかせたものであるという。冬が一番大きく60号(約1.3mx0.9m) 、その他が30号(約90cmx65cm)だろうか?絵画は自分で楽しむわけでない。顧客や要人を社長室で応対するための道具にすぎないし、税対策でもある。それだけの意味だ。ゾッドは60歳を超えている。咳も止まらず、たばこのせいだとはわかっているが、たばこはやめられない。「ゴホ」。。。。「ゴホゴホ」。じぶんしかしらない帳簿のお金が金庫にあって、そうしたお金は、一郎などの政治家や主だった関係者などに裏金として運用する。ペットショップで売れ残った子猫たちは海外に輸出してもうけている。海外では労働者として受け入れられる。表面上は国内への人材派遣受け入れとして市から補助金をもらっての事業だ。ま~2重の搾取といったところか?

ゾッドカンパニーの人材派遣部は形だけで、名簿や、派遣しているという就職先もみんな秘書に作成させている。もちろん架空の会社がほとんどで、数件のみが補助金を申請する際の実態調査用であり、目立つような公共施設への派遣となっている。それもすべて裏金でなしたことで、いわゆる持ちつ持たれつの悪縁が続いている。市民の税金が使われているのだ。

そして経費はすべて水増しである。

ゾッド将軍はだれも信用しない。お金で繋(つな)がるものらはお金だけを信用し、いざとなれば裏切るのは”お互い様”といったところか?用心棒を兼ねた3匹のヒョウ柄もそうだ。

ゾッド将軍の弱みは、健康だ。後継者もそろそろとも考える。戸籍上の妻、息子などはいない。みんなお金で、”捨てて”しまった。後継者は事務次官の”一郎”に言えば、天下りでいつでも準備してくれるだろうが、問題はこれからも金ずるになるということだ。それなりの金がたまった。”土地取引などで悪いうわさが絶えない一郎を頼らずとも” ということも考えていく必要がある。一郎を黙らせる裏帳簿は、ICチップに収めて自分しかしらない安全な場所に保管してある。いざというときの保険でもある。   次回

(31) 潜入 チビクロに危機迫る!ゾッドカンパニーに潜入してから1週間たった。今日は土曜日。スタッフは貿易担当を残し、ほとんどがお休みだ。チビクロは1週間かけて直江津港の倉庫や船会社の事務所などもひととおり偵察がおわった。中国、韓国の船会社の事務所は休みもなく、担当者が交代ででているが、セキュリティは厳しくなかった。現場事務所だ。もうすぐ8月になろうとしていて外は昼も夜も猛烈な暑さに見舞われ、空調もフル活動だ。事務所への出入りが激しいから入り口の引き戸はいつもカギがかけられていない。港の敷地にあるから、敷地に入るには、守衛が24時間体制で出入りをチェックするから、悪意があるとすれば、敷地内に自由に出入りする者たちに限られるというわけだ。長いこと盗難や障害などの事件や車両の人身事故などはなかった。偽の社員証で、守衛にちょっと見せるだけでスルーだ。郵便局員や宅配業者も、車や制服でスルーだ。ま、偵察にはまったく楽勝なわけだ。

チビクロは1回目のつなぎで、”①スタッフとも思えないヒョウ柄兄弟姉妹が3匹いて、社長室に自由に出入りできることがわかった”。”②人材派遣部には専任スタッフがおらず、体裁だけ部署で、ヒョウ柄のメスがひまそうに常駐していること。” そして”③ 韓国との定期航路に動物用のコンテナーがあること。”を報告した。チロ隊長からは、”太郎のことばとして無理をしないで”のことであった。

チビクロはどうしても動物専用コンテナーに引っかかっている。これは珍しいことだ。コンテナーは空調が施され、船旅には専用飼育員もいっしょである。荷が頻繁になければコンテナーを準備しないはずだ。なぜなら動物の輸出入は大概が飛行機だ。飛行機は動物ののストレスが少なくて済む。韓国釜山港と直江津港とは輸出の場合2日かかる。そしてちょうど1週間に1度のサイクルで運用されている。毎月曜日が韓国釜山向けの船積日があたる。ちょうどあさってだ。動物用コンテナーはゾッドカンパニーの持ち物として外枠には大きくペイントされていた。なにか動きがないのか調べる必要があった。確認しだい、いったん潜入偵察は終えることにしようと思った。

チビクロは船会社の現場事務所にむかった。途中 異なものを目撃した。6~7匹くらいか、ヤンキーのような兄ちゃん、姉ちゃんにかこまれて外国種と思われる子猫たちを引率して来るではないか?ちょうど幼稚園の遠足のようにも見えるが。。。。「うるせ~」「騒がしい、はよ歩け!」と乱暴な言葉が聞こえる。「遠足ではなさそうだ。だいたい土曜日に遠足なら普通父兄同伴だろ~? あれれ?。。。。」じっとみていると、そのあとに来たヒョウ柄2匹がサングラスをしながら用心深くあたりを見回ししながら後を追いかけてきたのだ。チビクロはとっさに物影に隠れ同化した。そして頃合いをみてふたたび後をつけていった。この行動が、あとから来たヒョウ柄の妹”パン”に見つかった。

パンは日本猫の子供たち10数匹を連れていた。こっちはグレた連中で、ラリッていて大声で意味不明なことばを叫んだしている。あちこちにつばを吐いたりして与太もん予備軍というところか。「ドラッグよこせ!」とくるって叫ぶものもいる。

チビクロにしてみればミスをおかしたわけだ。ヒョウ柄はいつも3匹であることを忘れていたのだ。ヒョウ柄のメスは久しぶりの獲物だと確信し、ほくそえんだ。3匹のうち、一番残忍なのがこの末妹の”パン”なのだ。しかしパンにも誤算があった。チビクロは影軍団の密偵でそれなりの防御や逃げる方法をふだんから訓練しているからだ。昨年暮れのような、一般社員をなぶり殺すのとは違うのだ。

太郎は朝から胸騒ぎがしていた。胸騒ぎだけでは影軍団を動かすことができない。しかし朝から不安なのだ。朝食時に、二―二が見すこすかのように、「きょうね おとんが これから直江津港へ行くっておかんに言ってたよ!」「え!? 好都合だわ、連れていってもらいましょ。いっしょに行くでしょ!」。二―二は、「うん」と二つ返事をした。二―二もチビクロ兄ちゃんが心配だったのだ。次回

(32) チビクロ絶体絶命に、二―二が。。。

チビクロは、ヒョウ柄の”ピン”と”ポン”の兄弟が巧みに、やや大きくなった子供たちを巧みにケージに案内している様子を、物影に同化させて一部始終を見届けた。意図はあきらかだ。このまま韓国船に乗せて釜山(プサン)港経由で世界中に運ぶのだ。そう、ペットショップで売れ残った子供たちは、ゾッドカンパニーの人材派遣部を隠れ蓑として密かに外国に売り払われるのだ。何もしらない子猫たちはケージの中の至れり尽くせりの設備に満足しているようだ。このあと、末妹”パン”が引き連れている世間から見放された与太もん予備軍の連中を同じケージに入れられるまでのつかの間の幸せといったところか。。。。

ヒョウ柄の末妹は、チビクロを見失っていた。”チェッ! どこへいった”とツバを吐きながら言った。突然、耳にかざりもんをした”らりっている”兄ちゃんが「ヒェツ ヒェッ ヒェッ」 突然と奇声を上げ、それに釣られて一緒にいた連中も「ワオ~」「ギヤ~」とやるせない叫びなのか?何かに取りつかれた雄たけびなのだろうか?港中に響くような鳴き声を上げた。何を思ったか、そのうちの一匹が、何を思ったのか、ヒョウ柄の末妹”パン”に、「よ、ね~ちゃん、一発どうだ?エ!? 薬もあるからよ!極楽を見させてやろうかじゃねーか?」と、いきり立った下半身を見せた。パンはいきり立った下半身を冷たい目で見て「。。。。。。」 しばらくしてから「。。。。。フッ」と笑った。その笑いは口を斜めに吊り上げたもので、残忍そのものだ。兄ちゃんは「笑ったな~ 笑ったな~このア、」といいかけたが、ガツンとしたたか顔を横殴りにぶたれ、ぶっとんで気絶してしまった。いっせいに奇声を上げていた連中も静まり返った。「いいかえ お前たち!いい気なもんだ。これからは地獄を見せてやるからね! オラ、オラ そっち行きな」と隠し持っていたムチをだしてパチンパチンと地面をたたき始めた。「な、な、なんだよ!」「キャ~ 助けて!」今度はいっせいに驚きと戸惑いを見せた鳴き声に変わった。「うるさいわね! おだまり!ぶつわよ!容赦しないよ!お前らは、これから遠いところへ売られていくのさ!」と大声で威嚇し、そして小さなあくびにも似た口をあけ、「ファファファ、、、」と、不気味に笑い声を上げた。

チビクロは物影からこの様子もしっかりとらえた。もはや事態は明らかだ。失踪したものらはゾッドカンパニーを通し外国に売られていくのだ。もう長居は無用だ。この事態を早くチロ隊長へ知らせねばと焦った。しかしヒョウ柄たちは風貌からいかにも危険なやからだ。また半端もん10数匹がケージを見張っているから、子猫たちの救出となると容易でないのはあきらかだ。しかし、意を決してチビクロは物影から飛び出した。折からの好天だ。港の道路は白いコンクリートだ。真っ黒なチビクロは危険にさらされた。一目散に出口にむかった。しかし、ヒョウ柄の末妹が姿をとらえ猛スピードで追いかけた。ズンズン距離が縮まって、チビクロはあせりに焦りまくった。隠れる場所もない。ヒョウ柄はチビクロの倍のからだだ。このままでは捕まりなぶり殺される。。。。。。と、チビクロの視線の片隅にわずかに二―二が見えたような気がした。まっすぐにこちらに向かってくる。「エッ まさか!」わずかにチビクロは希望をもった。が、ヒョウ柄の鋭い前足が迫りくる。”もうだめか~” 一瞬 ”死神”がちらつく。。。。、が、届くか届かないかの寸前、間一髪で港出口にある事務所に飛び込んだ。引き戸が開いていた。すぐに事務所奥の暗いところに身を寄せ、同化させた。 次回

(33) ニー二 ヒョウ柄末妹”パン”を”宇宙飛び”で撃退!

「アンニョンハセヨ?」。事務所では担当者が電話をしていた。飛び込んだ先は韓国の船会社のようだ。チビクロは気が気でなかった。恐ろしさで震えが止まらなかったが、事務所の暗がりに息を殺し同化させた。チビクロの唯一の武器はなんといっても隠れ蓑(説:正しくは、隠れ身)の術だ。しばらくしてもヒョウ柄が飛びこんでこない。「コマッ(プ)スニダ/ありがとう」どうやら電話は終わったようだ。チビクロはようやく落ち着き、”きっと見張られているだろう。担当者が事務所を出るときに一か八か、一緒に出ていくか? それとも。。。。” と脱出策をいろいろ考えていた。”さっき二―二さんを見た気がするが。。。。ま、そんなわけないよな。。。。”

二―二とヒョウ柄のパンが事務所から少し離れたコンテナー横の草むらで対峙していた。「ニャ~ワ~ン」大きな鳴き声で、毛を逆立てているのがヒョウ柄だ。「ウ~。。。。」と静かに低く威嚇するは二―二だ。ヒョウ柄がムチを取り出しピシッ ピシッと地面を打つ。ムチで打たれると、ずたずたに切り裂かれるに違いない。二―二にとってムチという武器は初めてだ。ムチの先っぽの動きは危険なヘビそのものだ。鎌首が前後左右に振られ自在に襲うのだ。二―二はオシャム先生からもらった笛を手にした。体を安定に保ちながら体を斜めにし、静かに片手で笛を突き出した。一見すきだらけに見える。あとから追いついた太郎がその場に猫すわりして様子を見守っていた。太郎は不安でいっぱいだ。二―二は天賦の才があっても、実戦はなにがおこるかわからない。試合ではない。ルールはないのだ。どんな手をつかっても勝てばよいからだ。ヒョウ柄は久しぶりの獲物を斃せることに喜び、酔って来た。この感触はなんとも言えない。根っからのサイコなのだ。目前にいるのは、先ほど追いかけてきた黒いチビ猫よりちょっと小さい小娘だ。しかもこの私にむかって威嚇など100年早いヮァ~ン!。。。殺す喜びを通り越して、怒りがこみあげてた。

「小娘!邪魔しようっていうんかい!。あきれたね!最初に血祭にあげるわよ!覚悟おし!」とムチを早く動かし始めた。鎌首が前後し、いきなりムチの先端が”ヒュルル~”と不気味な音をたてて二―二に飛びかかった。二―二はひょいと後ろに飛んで寸前のところでかわし、しかしムチは構えていた二―二の笛に巻き付いて強烈な力で引っ張られた。たまらず二―二は唯一の武器の笛を放し、しかし同時に次の行動に移った。巻き上げられた笛が空中に放り投げられたそのときの反動でムチの先端が空高くあがった。ヒョウ柄の振り上げた手のほうの脇ががら空きだ。その一瞬のすきを逃さなかった。「エイッ!」二―二から鋭い声が発せられた。ヒョウ柄は二―二の思わぬ攻撃にたじろいだ。小さく助走をつけて大きくジャンプし空中で宙返りし、回転で威力が増した前足をそのままヒョウ柄の肩口に「ガツン」とヒットさせた。二―二の必殺技”宇宙飛び”が炸裂したのだ。が、二―二はそれでも手加減したようだ。

ヒョウ柄は何が起こったのかわからないままに立ったままだ。そして”ニタッ”わずかに笑って、そして舌なめずりをしてそして握ったムチを再び動かそうとした。「?????れれれれ?」。ムチがまったく動かない。”なぜだ?” と、見てみると、手がムチを握ったまま硬直し、支えている腕がダラ~ンとぶら下がったままではないか?「何をした?何をしたんだ~!!!」もう錯乱した声が響き、それでも、もう片方の手でムチを持ち替えようとしたが、ムチを握った手は硬直し、指を外すことすらできない。ヒョウ柄のパンの上腕の筋が断裂していたのだ。「おばちゃん もう やめときなよ。」と二―二が勝利宣言した。

しばらくして猛烈な激痛がパンに起きた。「ギャ~!」と叫び草の上で転げまわった。悲鳴はヒョウ柄兄弟の”ピン”と”ポン”にも聞こえた。兄弟は顔をあわせ、すぐに悲鳴の方向にむかって走り始めた。

太郎はチビクロを事務所から呼び出し、すぐにおとんの車に隠れた。闘いを終えた二―二もすぐに追いついて、車の中に入った。「助かった、助けてもらった」とチビクロが安どの声を上げた、が、太郎が「シッ!」とすぐに、口をふさいだ。窓の外に、大きなヒョウ柄2匹が草むらに到着し妹の異変を見て、すぐにぐるっと回りを見渡し、さかんになにか嗅ぐようなしぐさをした。猫は犬ほど臭いに敏感でない。それでも太郎は用心し窓からみえないように伏せるように二―二とチビクロに指示した。

それからしばらくしておとんが車にやってきた。仕事が終わったようだ。おとんは「そろってるな?うんうん。おや、お仲間かい?ま~いい 家に帰るぞ!」  次回

(34) 太郎 策を練る太郎と二―二と影軍団武闘隊のチビクロが無事おとんの家(うち)に帰ってきた。車の中でチビクロは港で目撃した子細(しさい)を太郎と二―二に話した。それを聞いたうえで、チロ隊長にも話するよう指示して、チビクロと別れた。太郎はすこしご主人宅で策をねることにした。二―二はさっそくおかんに甘え、なでなでをねだっている。

最高峰 UV211S真空管アンプ内部配線

太郎はおとんの部屋に行った。おとんは珍しくなにやら画用紙くらいの大きさの箱とにらめっこしている。「あのう ご主人様、これなんですか?」おとんは、頬杖(ほおづえ)したまま、太郎の顔をみたまま、話しようとしない。”れれれ?” 機嫌悪そう。抱っこもしてくれないし。。” それで画用紙のおおきさの箱の中を覗き込もうとしたが、おとんが「あぶない!」と厳しく覗き見を制し、ふたたび「あぶないじゃないか?1000Vの高圧がかかっているんだぞ!感電したらごめんなさいとは済まないぞ。死んでしまうぞ!」 そしてやっとポツリと話してくれた。きのう、自慢のUV211S真空管アンプが電源いれてしばらくしたら”バチン”と音がしてしばらくしたら、煙が出てきた。危なかった。」と。太郎にはなんのことかよくわからないが、厳しい表情をしたおとんを久しぶりに見た。そして半田こてなるもので部品を外しはじめた。太郎はこれ以上話かけるのはやめて、おとんのベッドに上がって毛づくろいすることにした。策を考えるのに一番だ。”(・1)さて、子猫たち失踪、売れ残った子猫たちの人材派遣の偽装 (・2)ゾッドカンパニーが隠れ蓑で外国に売り払う (・3)殺人もいとわないヒョウ柄や与太兄の集まりがかかわる。用心棒か?誰かの指示か?指示できるのは、ヒョウ柄が社長室に出入り自由だから将軍と言われるゾッド社長しかない。(・4)ゾッドは政治家や役所も動かす?これはまだ確認できていない。(・1)~(・3)は点と点がつながって線になる。(・4)は未確認だと結論づけた。

2W 3KΩ -56Vバイアス電源供給回路に使用される。市場では金足抵抗と知られている。

突然 おとんが 「わかった!。この抵抗だ!クソッ」、通販で高かろうよかろうで1本@364円もしたワンランク高級品と思い込んで購入したしろものだそうだ。電気を通さない状態ではきちんと表示とおりの抵抗値を示すのに、通電したら10分ほどで抵抗値が3倍になって。。。。 ぶつぶつ。。。」あとは聞こえない。

太郎は「もう煙出たりしない??」と聞いたら、原因がわかってやっと饒舌になってきた。機嫌が直ったようだ。「あ~ 40数年前に購入したOMRONのH3Y-2がへたって電子回路が燃えたんだよ。新品に取り替えたんだがいまだにその型が販売されていて、う~んロングHIT商品だ。さすが違うね!」 太郎は”あ~ またおとんのうんちくが始まった。こうなったら止まるまで辛抱しなきゃ~ ”もうだいじょうぶ”?と聞きたいだけなのに。。”と思った。ご主人は続けて「バイアスが抵抗が大きくなってね 断線した状態になってて、バイアスが0になったもんだからUV211真空管に電流が大きく流れて安全回路作動したというわけさ。どうりで設計時のフューズ(0.2A)が切れるわけさ。原因がわからんから5本も無駄にしちゃった。ま~ 安定したからもう大丈夫。。。。」 そして気が付いたように太郎に向かって「おや、何か相談したかったんじゃないかい?」太郎は手をふりふり「うう~ん 何でもない」と。

またうんちく聞かされてもかなわんから、太郎はさっと部屋から出て、「さ~食事にしよう!」と。失踪事件の策はなった。           次回

(35) タレコミ

ヒョウ柄”パン”は激痛で気が狂いそうだった。しかし次第に、”チキショウ!今にみてろ、ズタズタに切り刻んで長く苦しめてやるから。。。。。” と、強い復習の念が、激痛を和らげるようになった。与太兄たちが動物病院に運び、すぐに手術が行われたが、結果、ダメージを受けた利き手を切り落とすことになった。腱が断裂、骨が砕け、もう壊死が始まっていて、切り落とすしかないとの診断であった。ヒョウ柄兄弟のピンとパンは”だれに どうして どうやって”といろいろ末妹のパンに聞くも、ただただ黙って、恐ろしい形相を返すだけであった。

誰に、なぜ どうしてがわからないから対策が打てない。ゾッド将軍には交通事故にあったとしておこうと兄弟で話しを合わせた。ヒョウ柄の兄弟仲はもともと悪い。育った環境がそうしたのか、気性が荒く、一匹で行動するのが常で、もともと助け合おうという気はさらさらない。ほしいものは奪い取る。ルールは自分自身だからだ。ゾッド将軍との関係は金づるというだけだ。邪魔となれば、たとえ親、兄弟、雇主と言えども殺人も辞さない。

太郎は翌日お昼ごろ やしろホテルにいった。鳥居をくぐると、”あ~あ 居たわ” ホテルの入り口から暇そうにしている新聞記者のゲンゴローを見つけた。二―二はチロ隊長との朝稽古が終わって、もうフロントで働きはじめていた。最近は二―二の可愛さが看板になってか、泊り客というよりか、子供にせがまれてホテルのレストランで食事をするだけの客も多くなってきている。太郎は入り口から入るなり、「いらっしゃいませ」をなんどか繰り返し、フロント前の支配人用の机の椅子に座った。

少しネコナデ声で「太郎さん、太郎さん」とさっそくゲンゴローがやってきた。太郎はわざとらしく、今、気が付いたように「あら ゲンちゃん ひまそうね!ホテルはゲンちゃんの手も借りたいくらいだわ~。あ~忙し。」とパタパタと手で頬を仰いだ。ゲンゴローは「何言ってんだよ~ 今きたばっかというのに、ちょっと重役出勤でねーの?。。。 おいらは朝早くこっちに来ているのにさ~」と。太郎は「おや、私を待つのに朝早くからなの?それはそれはお気の毒様。よっぽどひまね~」と。つんとあっち向きした。「ま~ま~、そうつっけんどにしさんな。。。。ところでなんかネタねーか?」。太郎はさもうるさいハエを見るようにして、「あるわよ!」と。「エッ!」ゲンゴローは思いがけず太郎の言葉を聞いた。ますます体を乗り出してメモをとりだした。

ゲンゴローは引き締まった顔でCATタイムス社の自分の机で考えをまとめていた。編集長にはあらましの内容を話ししてきたところだ。しばらくして、編集会議が開かれ、事が事だけに、CAT新聞の社主も出た。編集会議では、なぜいっかいのホテルの支配人がそんな情報をもっているのか?と、一部の記者から疑問を呈されたが、編集長は、「情報源は大した問題でない。この情報の真偽を優先しよう!「失踪」の疑問を最初に取り上げたのはうちだ。続報が必要だ。もし政治家、役人まで影響がでるようならこれは大スクープになる。」そして同席していたオーナーも了承し、社をあげて取り組もうということになった。

ゲンゴローはついさっきの太郎からの話を思い出していた。人の目があるからといって別室に案内され2人きりになった。そこで、太郎から”子供たちの失踪が、ゾッドカンパニーの関与がある”と、知らされた。偶然に知り合いがそれを目撃したというのだ。危険なヒョウ柄3匹が雇われている。その一匹に襲われ、知り合いが命からがらで逃げてきたという。そして、もうひとつ目撃してきたのはゾッドカンパニーの人材派遣部は見せかけで、ペットショップで売れ残った子供たちの大半が外国に売られているという情報だ。こんな大胆なことをするには、裏に有力な政治家や役人がいないか調べてもらいたいと依頼された。もちろんお金がからむはずだ。。。。。それらが関与となれば、正攻法で取材しても相手にされない。そうなると、”まず揺さぶり”だな~。と結論付けた。

ゲンゴローは、同じタイムス社に勤める”おしゃべりばあさん”にお茶するふりをして近づいた。息子が”警察に勤めていて手柄を立てた”と、ことあるごとにだれとなく自慢話をしていた。が、内情はCATタイムスがつかんできた情報を息子に話し、息子がタレコミがあったとして先回りして動いてきたのだ。

ばあさんに太郎の情報を少しもらし、揺さぶりをかけてみることにした。「どうですか息子さん、数々の難事件を解決する名刑事ともっぱら噂ですよ?」「おやそうかい。それは知らなかったね~」といいつつ、うれしくてしょうがないようだ。「どうだい。コーヒーいれようか?」「すみませんね~」。コーヒーで一服していて頃合いをみて、「ないしょだよ~。今ね会社の政治部では、ゾッドカンパニーを追っかけていてね」「なぜだい?」ゲンゴローは”しまった”というそぶりしながら「いや~そいつは、、、なかったことにしてよ」。「ちょっとゲンちゃん それはないだろう。あたしゃ今でこそ食レポしか担当してないが若いころは事件部、政治部と花形を渡ってきたんだよ。で、どうしたんだい?」。ゲンゴローは あきらめて、「タレコミがあってね。あまりにも利益が少ないというんだよ。ゾッドカンパニーは直江津港建設、船会社の誘致に、荷役機械や倉庫の投資をして、だから権益が守られ荷が順調であればそれなりの利益をだして、そこから税金を納めるんだが、なぜか利益があったりなかったりしていて意図的に税逃れしているんじゃないか?って。たぶんタレコミは株主のだれかかもしらんな~。ま、昔から言われてていたんだがね。」「脱税かい?」「おりゃそこまでは知らんさ。。。」と。ばあさんから「そ~」とひとりがってんしたのか、それっきりとなった。ゲンゴローは利益が少ないという事実とタレコミがあったというウソを交えて揺さぶりをかけてみることにしたのだ。明日には功名心おおせいな息子が動くはずだ。しかし何も動きがなければ、警察のだれかがゾッド社長と懇意でうやむやにするかもしれない。明日から警察署に詰めてみよう。ゲンゴローは”すこし長びくな~”と思った。          次回

(36) 太郎と雪之丞との約束

太郎と二―二が雪之丞一座を訪問して2週間ほどたった。その時は二―二がダンスレッスンに飛び入りして、優雅なダンスをいきなり披露したのだった。練習生やスタッフ、先生方に衝撃的なサプライズをもたらした。ちょうどそのとき雪之丞が用事から帰ってきていて、練習場の入り口から一部始終を目撃したのだ。雪之丞はただ立ちすくみ、言葉もなかった。二―二の演技が終わって、大喝采に迎えられ、練習生はたちまち二―二の周りに集まって、「あのスピンはどうやったら?」「練習は?」「。。。。」と質問ぜめにあった。太郎は入り口にたたずむ雪之丞に気が付いて一礼をし、雪之丞は”こちらへ”の合図をした。二―二はしばらくみんなの質問を演技とともに答え、わきあいあいとやっているようだ。

雪之丞は太郎を座長室に迎え、まもなく教頭先生も、冷たい水をもってやってきた。雪之丞は下をむいたまま、しばらく言葉がでないようだ。教頭はなんと涙を流してはじめた。それほど演技に感銘をうけたのだろうか?。太郎も、よもやダンスの才能が二―二にあることなど、いままで全く知らなかったのだ。二―二自身も知らなかったのではないか?ただただ体が自然に動くということか?しかも見る人に感動を与えるという特別な才能を持っている。均整のとれた容姿、そしてとびっきりの美人で、人懐っこくて愛くるしいのだ。もうスターそのものなのだ。

太郎が「あのう~」、同時に雪之丞も「あの~」と言って、2匹とも「どうぞ」と言って、お互いの発言を譲り合った。しばらく沈黙が続いたが、教頭が、「ま、のどが渇いたでしょうから、お水をどうぞ!」と。太郎から「え~ 遠慮なく」とグラスの水を一気に飲み干した。雪之丞はすこし手を付けたが、「もう言うことありませんわ。なんといっても演技の質ですね、、、見ているものに感動や勇気を与えますもの!とてつもない逸材とみました。」。教頭は手を広げ「スター間違いなしですよ」と絶賛した。太郎は少し間をおいて、「じつは、うちの二―二にあんな才能”も”あるとは思ってもみなかったんです。二―二とここに来る前に話し合ったんですが、実は二―二はタレントになることは望まないと言っていて、だからせっかくの雪之丞さんみずからのスカウトにもお答えできないと言っていました。”自由に今のままで” という本人の希望でして。。。。」「え!」「え!」と雪之丞と教頭が困惑の表情で驚いた。太郎は続けた。「もうお気づきかもしれませんが、二―二は格闘技の技を極めたいと言っていて、日々鍛錬を積んでいまして、、、、」 雪之丞はだまって太郎の話を聞いていた。そして思い出していた。”やしろホテルでの練習試合を見たし、ホテル前の与太兄ちゃんたちの嫌がらせにもあっという間に撃退したし、格闘技においては間違いなく天才だ。まさかダンス演技であれほどとは、鍛えられた足腰や体全体の筋力がなせる業(わざ)かもしれない”。 と、ここである疑問がわいた。「太郎さん噂に聞く影集団と関係が?」と太郎の顔色をみる。太郎は隠さず表情で答えた。雪之丞にしてみれば“”目で殺す”演技を習得しているのだ。ごまかしは利かない。「そうですか、、、」と、雪之丞はそれっきりだまってしまった。重苦しい雰囲気が場をおおった。しかしついに雪之丞から、「ときどき一座公演に特別出演はどうでしょうか? わたしとしては健全なタレント育成もあってぜひ二―二さんにも一役買ってもらいたいのですが。。」。しかし太郎は即答を避け、「二―二の意向も聞いてみないと」と答えるしかできなかった。教頭から「ところで座長、例の件も含めてお話されたらどうでしょうか?」。太郎と座長が教頭のほうに顔を向け、座長から「そうね、そうかも、それがよいかも。。。」と落胆を隠さず、教頭のいう”例の件”を話しはじめた。

「実は、9月の練習生募集前に練習生を交えた一座のチャリティー公演を計画してまして、やしろホテルの横の原っぱをお借りできないかと。。。」太郎はこれには「えッ!」と驚きをかくさなかった。雪之丞一座の公演はおおきなホールでTV中継もされるのが一般的だ。固定客も多く、追っかけも多い。教頭から、「東北大震災のチャリティーイベントとしたいのです。そして全国から集まった練習生たちにも発表の場を与えたいというのが趣旨でして、、、、芝居小屋形式は雪之丞自身の出発点、原点でしてね、、、、、それで、今回身近に演技を楽しんでもらいたいと、、、、」さらに教頭が続けて、「たった今、二―二さんの”天女の舞”をみて思ったのですが、二―二さんに特別出演していただくということはどうでしょうか?」 この教頭のとっさの”天女の舞”には、重苦しいこの場の雰囲気が一気にあかるくなって、それぞれが二―二の演技を思い出し思わず「うんうん」とうなずいた。一存では決められないからといって太郎は原っやしろホテル原っぱ公演の件はひとまず預かりとした。

しばらくして、太郎から雪之丞に申し入れをした。「雪之丞さん、ゾッドカンパニーのオーデションがもうすぐありますわね~。ポスターにはオーデションのあとに余興なんでしょうか?雪之丞の公演とありますわね。」と。雪之丞から「あ~あれね。市長からの話や事務次官の”一郎”氏からも声をかけられ、もう断れなくて、、」と。教頭から、結局「ダンスと座長の手裏剣の曲芸」の短いもので折り合いつけたんですよ。ま強引でしてね。。。」。太郎は、言葉尻から、いやおうなく受けたことを悟った。ゾッドカンパニーとすれば、自社のオーデションに雪之丞一座の”後援”を意識つけることが目的であろう。オーデションにはたくさん集まることを期待してのことだ。太郎は「あのう。公演スタッフに、あたしと二―二と数名のスタッフを同行させていただきたいんですが、、、、道具係とかで、もちろん二―二はその公演にはでませんが、、、、」。座長はじっと太郎をみて、しばらくして、「よろしいでしょう」と請け負ってくれた。教頭も意を察してくれた。

「あ~そうそう。」といって立ち上がって座長の机の後ろの棚にむかった。そこにはおびただしい記念写真や感謝状そして贈り物がいっぱい飾られていて、そこからあるものを持ち出してきた。さやにおさめられた両刃短剣だ。柄(つか)には、青、紫、赤、透明な宝石が散りばめられ、柄頭(つかがしら)には丸い輪がついていて、その輪に鋼の線入りの色鮮やかなひもが括りつけられていた。長さはおよそ90cmくらいだ。

座長は、「私があるときの公演で、手裏剣の技を披露したんですけど、有名な刀剣の匠がいらっしゃって、感激したということで、私のために作ってくださったんですが、いままで使えずしまいで~、そのかたもお亡くなりなって、結局 技を披露できなくて、、、二―二さんにちょうどよいと思って、」。太郎は「エッ」と言ってびっくりした。影の集団の秘密を座長と教頭に認めたようなものだ。                              次回

(37) 新聞記者ゲンゴローのジレンマ

ゲンゴローは先輩記者のおしゃべりばあさんに、ゾッドカンパニーに脱税のタレコミがあったかのように情報を漏らしたことに少し後ろめたさを感じていた。むろん、官とゾッド社との癒着を確認したいという強い思いからであった。もし癒着があったら、当然「知らぬら存ぜぬ⇒嘘があれば、嘘が嘘を招き言葉に矛盾だらけ⇒辻褄が合わなくなって下級のものらがしっぽを切られThe End と よくある話は予想がつく。それでは真実は闇のまま。諸悪の根源を断ち切らねば とも思うが、警察は果たして一線を越えて踏み込むか怪しいものだ。弱みをもたぬものなど居るであろうか?かえってタレコミのリークは相手に警戒感を与えることになるだろう。だから先手を打つにちがいない。どっちにころぶか?ジレンマである。

ゲンゴローはしばらく警察署詰めを決めた。

1週間すぎても署内の動きはない。おしゃべりばあさんの息子は目をあわそうとしない。が、それがいつもの人なつっこい息子ではないことを察知していた。いつもは、「や~ ゲンゴローおじさん」と声をかけてくれていたのだ。あきらかに目を合わすことを避けている。署内で見張られているのかもしれない。ゲンゴローは癒着を確信した。警察署にまで影響を及ぼすのは市長か?代議士、あるいは?。。。。。 それとも賄賂かもしれぬ。それともスキャンダルか?恐喝や家族への危険? 仕事柄いろいろ考えてしまう。ついに「あ~ やだやだ」ひとりごとを言った。それを聞いていた、案内がかりのマドンナ(と言っても20歳代後半だろうか)が、「ゲンゴローさん。なんなのよ?」とじっと見つめた。「お、悪い悪い。こう何もなくっちゃね~ ひまでしょう~がないわ~」と大あくびして背伸びした。マドンナは「何もないのが一番よ!」、と。ゲンゴローは「そりゃそうだけどよ・・・・」「休憩でもしてきたらどう? こう私の前をうろつかれるとあたしの追っかけと勘違いされるわよ!」これには聞き耳を立てていた署員からもクスクスと笑い声がもれてきた。ゲンゴローはマドンナの最後の言葉がひっかった。冗談をあまり言わない娘なのだ。ゲンゴローはちょいマジでマドンナをみて、「う~ん。きれいだね、おしとやかさがあれば、なおいいのにな~ 天は2物を与えずか?」と、言い返されないうちにくるっと後ろをむいて、「しょんべんしてくら~」と。見張られている。直感したのだ。だから他愛のない話をして休憩所に出向いた。休憩所にはそうじのおばちゃんがたばこを一服していた。

「おやどうしたい?暇かい?」「・・・・・」「ひまが一番だよ!」と言ってゲンゴローの顔をじっと見て、「今は準備中だよ。。。」と煙草をもった手で自動販売機を指し示し教えてくれた。防犯カメラが休憩所にも設置されているから、それ以上の話はなかった。ゲンゴローはだれかからの伝言と気がついた。マドンナはたしかおしゃべりばあさんのところの息子と”いい仲”と聞いているから、”つながった!よし!”と。コーヒーのんで、ふたたび大あくびしてすっきりしたかのようにして警察をあとにした。警察は秘密裡に動いているのだ。1週間もしてからだから、タレコミの信ぴょう性を疑ってのことだろう。ゲンゴローはそうがってんした。

実際のところ署内の捜査2課で調査が始まっていたのだ。普通は不特定のタレコミで動くことは稀だが、以前より何回となく疑惑が持ち上がって、そのたんびにどこかから圧力がかかってウヤムヤが続いていたからだ。

ゲンゴローは”バックにだれがいるかはっきり警察ではつかんでいるのだろう。圧力をかくそうともしない大物だ。すくなくとも警察署長、市長ではない。残るは”あのひと”。それで慎重なのかもしれない。よっしゃ、今から、太郎さんと二―二のいるやしろホテルに行ってみるか”            次回

(38) ゾッド将軍の憂(うれ)い

真夏の太陽が容赦なく照り付けた。ゲンゴローは汗かきかき、ようやくホテル前の鳥居のところまでやってきた。やしろホテルは大きな杉の木の下だ。鳥居を過ぎたところから、涼しい風が吹き抜け気持ち良い。が、さすがにホテル前の広場の遊戯場には、遊んでいる子供たちはみかけなかった。

「いる、いる」とゲンゴロウはガラスの窓越しに太郎の姿を認めた。フロント前の支配人用イスに座ってなにやら思案しているようだ。ゲンゴローは玄関ドア―からまずフロントの二―二に、右手を挙げて、「よ!」と声をかけながら、太郎のほうに向かった。「太郎さん 暑いね~。元気だった?」「あらゲンちゃん。そっちこそどうなの?」

ゲンゴローは、顔を太郎のそばに寄せて、目で”別の場所に行きたい”と合図しながら実際は「なんかネタな~い?」と。太郎は、意をくみ取ったようで、それでも「あんた専属の事件屋で”ネ~です。」会話に聞き耳たてていた二―二も、同じくロビーで、コーヒーでくつろいでいた常連客の老夫婦も吹き出してしまった。「ま、そう言わんと。。。」

”ガシャン” 突然、レストランから食器が壊れる音がして、「なんだと~ これが分からね~か?ゴキブリ、ゴキブリ!」だれかが、周りに知れるよう素っ頓狂な大声でわめいていた。太郎とゲンゴローは大声のするほうに振り向いた。

紳士風のオス猫にその奥さんかあるいは”色”なのか、薄紫色のメス猫が隣り合わせで座っている。落ち着いたものだ。立ってわめいているのが2匹のオスのうちの1匹だ。ボデイガードかはたまた三下(さんした)なのか2匹とも体が大きくいかついからだをしている。一見してその筋、(最近は”反社会”というのだそうだ。)と見受けられる。レストランの責任者が恐縮して立ちすくんでいる。が、勇気をだして「お、お客様、当ホテルではこのようなものを入れるはずもないので」と。「なんだと!おめ~何言ってんだ? え?~ 保健所を呼ぼうか?そうだ 保健所だぜ」と、もう一人の相方に合図する。相方は掛けているサングラスを外し”ふっ”とレストラン責任者の顔に息を吹きかけ、こっちは落ち着いて「おまえじゃわからん!支配人を呼べよ!」と。左目が細くなっていて少しつぶれている。縦傷が3本。喧嘩きずだ。冷血な目をしている。

「ゲンちゃん知っている?」「あ~あの4匹ね!巷では少しばかり名が通っているかな?暴れん坊の大五郎とその妾と用心棒たち。悪い奴らにつかまったな~、きっとみかじめ料をいただく算段だろうよ。大概は保健所と聞いて泣き寝入りさ!」と言いながら、さっとカメラを取り出し写真を撮った。「カシャ!」。

シャッター音で、いかつい兄さんがゲンゴローのほうに顔をむけて、「テメー 何撮りやがっているんだ!」と血相を変えてゲンゴローに向かってきた。「あわわヮヮ。。。。。」ゲンゴローはそう叫んで、それでもカメラを隠そうした。「アッ!」いかついだけの、少々おつむが弱いこわもて兄ちゃんが何かにつまずいて前のめりして、顔のま正面からフロワーに勢いよくぶつけて、「う~ん」とそのまま気絶してしまった。もう一匹の左目のすこしつぶれている兄ちゃんが、「だれで~ 出てきやがれ!」とさらに大声ですごんだ。紳士と淑女はニタニタしながらゆっくり立ち上がって、ドスの効いた声で「お~、お~、やってくれるの~。うちの若いもんが黙ってないぞ。なんならよ、警察呼ぼうか?」と ニタッと笑った。「ちょっと待っとくんな!」と紳士の後ろから声がかかった。チロだ。食事をしていて、食べ終わったようだ。チロは、レストラン責任者に、「うまかったよ!」とチップをはずんで、「さて そこの方々、少々みっともないですよ!面が割れていますよ。”警察呼ぼうか?”とはよく言ったもんだ。来たら困るのはおタクラでは?」と。紳士ずらはその言葉ですこし萎縮したかに見えた。しかしすぐに虚勢を張って、「なんだと~ こやろう!おめ~俺を誰だと思ってやんのか!」と。薄紫のメスは、紳士面(づら)の首に甘えるように手をまいて「ね~ん!」と甘い声で、「やっておしまいよ~。痛い目にあわないとわからないみたい~ん」と。

その時、太郎が進み出て、「支配人の太郎ですけど」と名乗り出た。みんなが一斉に振り向いた。「お~ 、おめ~か」とすごむ。太郎はすかさず両手でさっと紙切れを差出した。ニタリと笑って「なんで~?お金で解決しようってのか?もう遅いぜ!」と。太郎は「いやお客様、違います。この食事の請求書ですよ。さっ、払ってもらいましょうか?」ついに紳士ずらと片目が激高した。もともと気性があらい2匹だ。片目がいきなり隠し持っていた刃物を出し、太郎に飛びかかってきた。「キャ~」「キャ~」「ママ怖い」「。。。」いっせいに悲鳴が上がった。外野がしだいに増えてきた。

突然、太郎もふくめみんなは不思議な光景を目にした。「ぐ~! ㇷッ」と片目がへなへなと膝を折って口から泡を吹き、刃物をもったまま気絶した。疾風が駆け抜けたあとだ。

そんな騒ぎがやしろホテルであったころだ。ゾッド将軍は会社の自室でなぜか憂いていた。なにか正体がわからぬ。左耳、左手の甲にぶつぶつができて、かゆくてたまらない。このぶつぶつは、自分の身に危険が迫っているときまって出てくるのだ。これで何度も救われた。しかし今回はどうしたわけか、兆候は眼前にない。が、いやな予感が増すばかりだ。それで、ますます、ぶつぶつの範囲がひろくなって何度も引っ掻くから、その所は毛が抜けて円形状となった。

「ゴホ ゴホ ゴホゴホ」と乾いた咳をした。  次回

(39) 騒ぎの顛末

やしろホテルでは、騒ぎの中、太郎やゲンゴローも含め、周りの者らは何が起こったのか?まったくわからないままに、”片目”が刃物を「チャリーん」と床に落として、そのまま、ゆっくりと崩れたのだ。ひざがたったままだ。中腰のまま、なんと、顔を上に挙げたまま泡を吹いて気絶している。紳士ずらの大五郎、色と思えるメス猫の”薄紫”は、そのあと、背筋が一瞬涼しくなって、「ブル、ブル」「ブルブル」と目を大きくあけ、口をあけたままで凍り付いた。

いつのまにか、二―二が、武術の師、チロの後ろにいた。二―二は師の顔をみてうなずき、そして太郎にウィンクした。チロとチロといっしょに食事していた影軍団の武闘隊副隊長の”大輔”は、二―二の一瞬の攻撃と、その後の”いたずら”を目撃していた。武術の達人だけがなせるのだ。まさにその時、二―二が目にもとまらぬ速さで、片目の首に手刀を強烈に炸裂させ、そのあと、紳士ずらと薄紫の背後に行き、ササッと前足を背中から降ろしたのだ。

太郎がすかさず、片目を見て、「あらッ、、、ま、やだ、気絶しちゃって!」。そして大五郎を見た。穏やかな口調だが”有無を言わさず”警告の意が込められていた。そして、「さっきの元気はどうなったのかしらね~。」と当事者のゲンゴローを見た。ゲンゴローは手をふりふり、「わッ、わッ、わ、私はなにもしてませんよ~ ねッ、ね~、みなさん!」と。「そ~だ そうだ。なんもしてないぞ」「そいつが勝手に気絶したんだぜ~!」そして、ついに「やい大五郎!面は割れてんだ。いい加減にしろ!」と、ずっと奥のほうから威勢のいい声があがって、それから口々に、「警察呼んだら~?」「もうじきだってさ~」「ワイワイ、、、ガヤガヤ、、、、」

太郎はタイミングをみて、「お客様、お支払いは向こうでお願いしますね」。と。チロと大輔が、気絶している2匹に「カツ」を入れ、2匹はようやく気が付いた。そして棒立ちになっている大五郎をみた。すっかりおとなしくなった紳士ずらと薄紫はすこし後ずさりして、そして踵を返してカウンターに向かった。「クス」、クス」、「クス」「ヒデ~な」「キッタネ~」「。。。。」と期せずして失笑が周りから起こった。小さな子が、「おかあさん、おかしな服きているおじちゃんとおばちゃんいるよ!」と。

紳士と淑女はなにもなかったように支払いをすませ、そして用心棒はそれぞれ首と腰をさすりながらふらふらと後を追った。なにも知らない紳士と淑女は腕を組み通りを歩いて去っていった。すぐに異様な後ろ姿に気が付いた通行人はまたしても。クスクスと笑いだした。追いついた子分から事情を告げられ、「???」と。しばらくして、唐突に、「キャ~」と薄紫の絶叫が響きそのまましゃがみこんで半狂乱となってしまった。2匹とも、背中から下まで服がきれいに破かれ、紳士ずらは赤いふんどしが丸見えだし、もっとひどかったのは、腰のくびれをいつも自慢していたのだろうか?薄紫の淑女がノーパンのままで、もっこりが丸見えであったからだ。

会議室に、太郎、二―二、チロ、大輔、あとから来たチビクロ、そしてゲンゴローが集まった。現在の子猫の失踪に関する最新情報の共有が目的だ。ゲンゴロー以外、影軍団だ。

(40) ゾッドカンパニー タレントオーデションはじまる。

9月10日になった。残暑がまだ残る。このところ日の入りがぐっと早まって夕方5:00ころににはあたりが暗くなっている。直江津港から見える水平線では沈み込んでしまった太陽の最後の淡いオレンジ色の光が幻想的な風景を醸し出す。(夕日の沈みこみはちょっとした絶景である。)ちょうどコンテナー船が港していて荷降ろしの最中で煌々とライトアップされガントリーグレーン、大型フォークリフトがせわしなく動き所定のストック場所に整理されていく様子が見える。ゾッドカンパニーには大きなステージ付きの体育館があるのでここがオーデションの会場となる。雰囲気にあわせ数々のスポットライト、おおきなスピーカー、アンプ群が持ち込まれTV中継の機材や中継車も待機し6:30からのオーデション開始に合わせ、照明などの調整に余念がないようだ。

未来のタレントを夢見る若き青年少女たちが、カンパニーの会議室に集まり始めた。タクシーもひっきりなしに玄関に止まっては降ろしてせわしない。親、兄弟姉妹をつれてくるものもいるからたちまち会議室はうまって玄関広場や、仕事の打ち合わせ場所もごった返すことになった。報道関係、写真担当のスタッフたちは会場に直接出向きそれぞれの場所を確保した。ゲンゴローも若いメス猫の記者を連れてもう取材をはじめたのか?あちこちの写真を撮り始めた。全国から集まったスカウトたちはというと、パソコンやノート、パンフレットをチェックしているようだ。場内は禁煙だから、たばこを吸う連中は会場の外で一服している。馴染みも多いのだろう。ひそひそ話したり、ときには笑い声も聞こえ、異様な雰囲気で、皆が皆、興奮しているようだ。

大スター雪之丞も到着し、事務所のなかに仕切られた一角に案内された。今日は余興で雪之丞の曲芸”手裏剣投げ”が予定されていて道具もそんなに多くない。スタッフはこれならメイクその他で4~5匹でよいはずだがこの日は、チロや大輔、チビクロが加わった。太郎と二―二はというとタレントを夢見る若人に交じっていて、太郎はさながら母親役を演じている。二―二はというと、おかんが作ってくれた空色基調の勝負服を着ていた。ベトナムの女性の正装のアオザイをイメージしたものだ。アオザイは両脇が割れていて体のラインがくっきりでる。プロポーション抜群の二―二はルックスとあいまってオーデションにきている、特に少女たちにも人気で自然と二―二と太郎の周りに輪ができてしまっていた。進行役の担当者もその美しさに見入ってしまう始末だ。二―二はダンス部門でエントリーしている。

大五郎のゴキブリ騒ぎのあと、太郎、二―二、チロ、大輔、チビクロ、そしてゲンゴローが子猫たちの失踪の件で集まって情報の共有をはかった。ゾッドカンパニーの脱税に関し国税局が動きはじめたこと、チビクロの危機一髪などが報告された。国税局が動いたのは地元税務署との癒着も懸念されたからだそうだ。ゲンゴローから、”きっと背後に大物政治家がからんでいるのでは”と私見を言った。どうも”ゲンゴローは頻繁に疑惑が報告される事務次官の”あのかた”ともはや見当をつけている口ぶりで、警察からひそかに入手した内部情報では”あのかた”に関心を寄せているとのことだった。

ゾッドカンパニーが実際に失踪にかかわっているという証拠を見つける必要がある。しかし失踪”事件”はそもそも事件になっていない。影軍団はそういった明るみになかなかならない悪行を、証拠が出てそのとき事態が切迫しておれば密かに処理、始末するアウトローの集団だ。チロ隊長が不正に輸出されている現場を押さえたいとの提案があり、雪之丞の余興公演のスタッフに随行し、身分証明書をぶら下げていれば自由に出入りできるこの日がえらばれたのだ。     次回